第196話 ダットン討伐、そして・・・
無事ダットンの群れ討伐完了!
お湯になっちゃったダットンはもろいと言うより溶けちゃったって感じで海の一部になっていったよ。
1つだけはお船が沈んだけど、あと3艘もあればもう大丈夫だよね。
僕らは海域を離脱しようと考えたんだ。
そりゃね、最後まで、つまりは陸まで護衛しても良いけどね。あちらにもちゃんと冒険者だって乗っている。
見た感じトゼまでなら問題ない感じだし。
仮に近づいたらお礼だとか、そんな話になっちゃうでしょ。絶対に2、3日は足止めされちゃう。トゼは僕にとって鬼門です。
そもそも他所の国の王子だ、なんてバレちゃったら面倒くさいことになりそうだし、無事だと分かったんなら、さっさと離脱するに限るよね、ていうのが僕らの考え。
この船には、ナッタジのマークが描かれているけど、グレンならともかく、普通の人間じゃ、どんな船かまでわかんないはず。サイズ的にも襲われた船かちょっと小さめぐらいだもん、船から割り出すのは厳しいって考えたんだ。
てことで、止まっていた船を、航路を戻して出発させようとした矢先・・・
『ダー、女が船員を刺したぞ。』
えーーーーー?
どういうこと?
実際、グレンの視界には、水色の長い髪をした、冒険者っぽくない町娘風の女の人が、背後から男の人を短剣で刺した映像が映っている。
「どうした?」
僕が思わず叫んじゃったから、アーチャたちがびっくりして聞いてきたよ。
「女の人が男の人を後ろから刺したんだ。」
聞いた乗組員たちが、船から身を乗り出して襲われていた船を見る。
けど、当然細かいことまでは見えないよね。
ただ、なんかワサワサした雰囲気は十分伝わってくる。
あの船の人たち、みんなびっくりして、でも、それでも冒険者らしき人たちが、他の人たちを背後に守りながら、刺した女の人に武器をむけているのが、グレンの瞳を通して見えたんだ。
音は聞こえないし、よくわかんないけど、他の船からも何人か事件のあった船に飛び乗ってきたよ。
全員冒険者の人みたい。
刺した女の人と、他の人たちで何か言い合いでもしているような様子だ。
女の人は自分が刺した男の人の襟首を持ち、短剣を背中から抜いて、首筋にあてると、後ろへと徐々に下がっていく。
どうやら人質にしているのかな?
それでも、女の人に対する包囲網は徐々に縮まる。
女の人は船縁に追い詰められて・・・
ん?
貝、かな?
こぶし大の貝がらみたいなのを懐から取り出したその人は、それを口元に持っていく。
刺した男の人を、迫っている冒険者の方へと突き飛ばすように放つと、貝がらを笛のようにして息を吹き込んだんだ。
ピィーーーー
鳥の鳴き声みたいな音が、ここまで聞こえてくるよ。
何事って感じで様子をみる冒険者たちを尻目に、女の人は船縁に手をかけると、躊躇もせずに海へと身を躍り出した。
え?
僕はびっくりして釘付けになる。
船から飛び降りた?
水色の髪をたなびかせて、途中で半身を翻し、きれいな飛び込み姿勢になると、指先から水中へ、しぶきも無く沈み込む。
・・・・・
しばらくして・・・
当然、あちらの船からはみんな、女の人が沈んだ辺りの海をのぞき込んでいるようだけれども・・・
グレンが視線を動かす。
船が固まっているその場所から、南へ船3つ分ぐらいの海の中。
徐々に浮き上がる黒い影。
どういうこと?
グレンの目は、前世の海獣の仲間みたいな黒茶の生き物にまたがる、さっきの女の姿が。
イルカにまたがるショーのお姉さんみたいに、堂々とその魔物にまたがる水色の女の人。
よくよく見ると、その手には水かきがあり、下半身には鱗が映えていて・・・
「人魚?」
僕は思わずつぶやいた。
「人魚?魚系の獣人?」
アーチャが僕のつぶやきを拾って尋ねてきたよ。
「魚系の獣人なんているの?」
「少ないけどいるよ。沖合の島なんかに集落を作っている。浅瀬か水辺に主に住んでいるって聞いたけどね。僕は見たこと無いけど、ナスカッテ国の冒険者ではそこそこいるらしいね。海の知識、戦闘も込みでね、優れているから、海関係の依頼には重宝するらしい。」
「男の人を刺した女の人、魚の獣人なのかな?水かきと鱗があったんだ。」
「・・・あの、魔物の背中のやつか?」
「見える?」
「ギリギリね。・・・あれが、バイゼル、かな?」
「え?」
「女が乗っている魔物さ。サイズ的に、ね。」
「そうなの?」
そんな会話をアーチャとしている間に、女を乗せた海獣っぽい魔物は海の中へと姿を消したんだ。
「おーい、あんたら!すまんが来てくれ!!」
しばらく女の人が消えたあたりをぼんやり見ていたら、あちらの船から風に乗った声が届いたよ。
「坊ちゃん、どうしやす?」
メンダンさんが聞いてきて、みんなの目が僕に集まる。
うーん、どうしよう。
とってもやっかいごとな感じがするよね。
正解は、急ぐからって言って振り切っちゃう、だと思うんだ。
「ダー君。魔導師とレッデゼッサは隠れてると思うんだ。だったらそこまで急がなくていいんじゃないかなぁ?」
悩んでいる僕にパッデが言ったよ。
「だって、気になるんでしょ?」
ニコッて笑うパッデ。
そりゃ気になるか気にならないかで言ったら気になるよね。
でもさ、立場がねぇ。
「坊ちゃん。ここからは坊ちゃんは坊ちゃんじゃねぇ。単なる冒険者のダーだ。たまたま護衛でこの船に乗り合わせたすご腕冒険者・・・見習いの、な。それで俺はこの船の責任者、まぁ船長だな。そこで船長が許可する。宵の明星に彼らの手助けをしてもいいってな。」
ニカッて笑うメンダンさんが、とっても男前に見えちゃうよ。
「いいの?」
「ああ。ただし速攻ですませな、見習い君。」
「・・・見習い見習いってうるさい!」
「ハハハ、だったらとっとと見習いを取っ払いな。」
ハハハハ!って周りもドッと笑ったよ。
みんな、お手伝いしたら良いよ、なんて顔をしています。
「アーチャ。」
「うん、いいんじゃない。仮にクッデ村に彼らがいたとしても、そこから移動はしないんじゃないかなぁ?どこに手がかりがあるかもしれないし、この辺りの冒険者なら何か知ってるかもしれないしね。ただし・・・」
「ただし?」
「宵の明星として、冒険者として活動するなら、僕の言うことをちゃんと聞くんだよ。なんたってダーはうちの見習いだ。見習いでない僕が上司みたいなもんだからね。」
「えー!」
宵の明星なら僕が先輩なのに・・・
ただ年齢だけが、見習いのとれない理由、だよ?
て・・・
みんなそれが分かってて言ってるのは知っている。
で、何かあったら保護者、してくれるつもりなんでしょ?なんだかなぁ・・・・
「よぉし、そうと決まったら野郎ども!ここには坊ちゃんも王子様もいねえからな。小生意気な見習い冒険者のわがままに付き合ってやるだけだ。いいな!」
おぉーーーーー!!!
ハハ・・・
頼もしいんだけどさ。
なんか、全員で保護者しようってのが全面出てて、ちょっと悔しいかも・・・
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