第195話 vs ダットン

 「ワオーーン!」


 ビューン・・・・バシュッ!


 グレンの雄叫びと、アーチャの矢がダットンの襲撃をひるませた。


 ダットンもだけど、船の人たちもびっくりしてフリーズしちゃったよ。

 もしかしたらグレンの威圧が効いちゃったのか、むしろ新たな魔物、って思って固まっちゃったのか。


 今乗っている船は商船だから、そんなにすごい武器は乗せてません。

 あの争っているところに届くような武器はないんだよね。


 それはあちらの船も一緒だし、なんだったら乗り込んでいる冒険者達の技とかでも無理みたい。

 だって、グレンにびっくりしているだけじゃなくて、ダットンの触手に刺さった矢を見て驚いているもの。


 アーチャの矢は触手を一本貫いて、その後ろの触手にも刺さったみたい。

 グレンの雄叫びで固まっちゃっている触手は、その威力で、ゆっくりと崩れ落ちていったよ。


 バッシャーン。


 力をなくした触手が海面に大きな音を立てて崩れ落ちた。それを機に、止まっていた時間が動き出すみたいに、ダットン達も襲われていた船の人たちもこっちに注意を向けたみたいただね。


 僕のところからもだけど、船があるのと、乗組員のシルエットぐらいは見て取れたんだと思う。さすがに表情まではわかんないかな?って距離。

 僕はグレンの見ているものも見れているから、彼らの驚いてる顔が見えるけどね。

 ちょうど僕の見ているところの片隅に、小さなモニターが見えているみたいな感じで、グレンの視界が映ります。


 船の人たち、かなり戸惑っているみたいだね。


 えっとね、魔物と誰かが戦っているときには、請われない限りは戦闘に参加しないってのが、冒険者のルールです。横取りとか思われたら喧嘩になるからね。一応、戦闘に参加して良いかはまず聞くのがエチケット。今回はまさに危ない、って感じだったから、声がけの前にチャチャを入れちゃったって感じになったけどね。



 「そこの船団、助けは必要か?」


 アーチャが相手に向かって叫んだよ。

 風に声を乗せて叫んだから、しっかりあちらに届いたようです。


 「頼めるか?」


 どうやらあちらも風の魔法を使える人がいるようで、同じように風に声をのせて叫んできたよ。


 アーチャと僕はうなずいて、臨戦態勢だ。


 「ダットンだな?素材はダメにしてもかまわないか?」

 アーチャが叫ぶ。

 「問題ない。むしろ助けてくれたら全部やるぞ!だが気をつけろ。ダットンを率いているのはバイゼルだ!!」


 冒険者らしい人がそんな風に言ってきたよ。


 バイゼル。


 出逢ったことはないけど、深海にいると噂される魚型の魔物だ。

 大きさは人間ぐらい。

 鱗も持たない魚だって聞いたことがある。

 戦闘力もそんなに高くないらしい。

 でも、その最大の特徴は、んだそう。

 あくまで噂だけれど、バイゼルと出会うと、船上は血みどろの戦いの場になる、のだとか。味方同士が戦い合うんだって。

 他にも魔物を操って餌を捕る、なんてこともまことしやかにささやかれる。


 バイゼルにあったら耳ふさいで全速力で逃げろ、そう伝えられる幻の魔物なんだ。


 でもそれがこんなところにいる、だって?


 バイゼルはあくまで深海に生息する、と言われてい魔物です。

 深海、ってことはかなり沖に出ないといないってこと。

 この世界ではまだまだ船は陸が見える範囲でしか走ってないんだ。

 時折、嵐とかで沖に流されちゃって、命からがら逃げ帰ってくる船があり、底のない海=深海というのがあるんだなんて語り継がれる感じ。

 ただ、沖に行けばまだ見ぬ魔物がいるから、そんなのを目指して冒険する冒険者なんかもいないではないけどね。

 そういった事故にあった船だったり、命知らずの冒険者たちがもたらす、噂レベルの危険な魔物たち、の代表選手ともいえるのが、バイゼルってわけです。



 人を惑わす魔物。

 人だけじゃ無くてダットンなんかも惑わせてるのかなぁ。

 だから群れないはずのダットンが群れて、あんな陸地に近い場所に現れてしまった、とか?


 僕はちょっとびっくりして「本物?」なんて思っちゃったけど、でもダットンが船を襲っているのは間違いないし、正体なんて後で良いよね。


 本当は、ダットンはまず触手を全部切り離して動けなくするんだ。身体部分だけでは動けなくなって、そのまま海から出すと干からびちゃう。早く干からびるように風魔法で、傷つかないよう、切れたりしないように攻撃するのがセオリーです。


 素材が大事ならそうするのが一番なんだけどね。

 ただ倒すためだけなら、弱点は火か氷。

 でも火を使うと、素材がダメになっちゃうし、氷も一緒。一度凍らせると、真っ白になった上に、ものすごくもろくなっちゃうんだ。ちなみにちゃんと処理して干からびた後なら、凍っても、もろくならないんだ。だから、ダットンの皮を宙さんのところに仕舞っても問題なしです。


 たまあに死んじゃったダットンが砂浜にたどり着くんだ。

 それを見つけた人たちは、きれいに干して素材にする。海辺の村のお金を手に入れる大きな手段になってるみたい。

 潮の流れで、いろんな死んだ魔物が流れ着くポイントも各地にあって、それで生計を立てている漁村もあるんだよね。



 でも今回は、数が数だし、船が襲われている最中です。

 「凍らせちゃって良いかな?」

 アーチャに聞きます。

 「それが一番だろうね。ただ、船の人まで凍らせちゃダメだよ。あとバイゼルってどうなんだろう?」

 うーん・・・


 バイゼルの討伐方法なんて知らないよねぇ。


 けど、まずはダットンです。


 「グレン。魔法が人にまでいかないか見ててね。」

 僕はそう言うと、魔力を練ります。


 僕の魔法はほぼほぼ前世のゲームの魔法を模倣しちゃってるからね、詠唱とか無くてごめんね。水を変形させても良いけど、今回は直接氷で、

 「マ○ャド!」


 一番手前に見えてるダットンめがけて凍れって念じるんだ。


 パキパキパキパキ・・・


 思った以上に大きな衝撃?


 ダットン1匹を丸々覆う魔法が海に激突した。


 そこを起点に、重なり合うように海中にいたダットンが連鎖して凍っていく。

 船の下にもダットンがいっぱい。

 触手を船に伸ばしているものも多数。


 パキパキパキパキ・・・


 ダットンは氷に触れ、さらに重なるダットンへと氷が広がる。


 あっという間に、船がまるで流氷に閉じ込められたみたいになっちゃったよ。

 って、触手とか底を伝って、船まで凍りそう?


 『ダーよ、船が凍っていくぞ。』


 うわぁ、どうしよう。


 氷は水。水はお湯。

 僕は慌てて、氷をお湯へとイメージして魔力を放出する。

 船の周りはお風呂に入れるお湯みたいに・・・


 さすがに海は広い。

 なかなかお風呂みたいにお湯にはならないよ。

 でも、僕頑張る。


 凍ったときの何倍もの時間をかけてしまったけど、なんとか凍ったダットンはその水分がお湯になったよ。

 そのままグスグズと、海に沈んでいっちゃって、ちょっともったいなかったかな?


 凍ったと思ったら茹だっちゃったダットンを見て、船の人たちはオロオロしてるけど・・・


 はぁ、疲れた。

 さすがに大規模に氷+お湯って疲れるよ。


 このまま、海域離脱しちゃってもいいよね?

 僕はアーチャにそんな風に視線を向けたんだ。

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