第192話 リッテンドで情報ゲットです

 リッテンドに到着!

 ウィンミンさんはいなくて、アーチャのパパのランドルさんが迎えてくれたよ。

 といっても忙しいみたいで、長老方から預かったっていう、樹海で見つかった魔法陣の写しをくれて、あとは、ナンクーさんという人を紹介してくれたんだ。


 「ナンクーといいます。能が無いんで研究者件何でも屋やってます。」

 なんていう不思議な自己紹介。


 セスではやっぱり戦える人が尊敬されるんだけど、ナンクーさんは人族メインの種族。魔法はエルフ、腕力は獣人族が一般的に優れている。そんなこともあって人族は器用貧乏で、いろいろできるけど何をやっても誰かからは劣る人が多い、っていうのが、この国での認識みたい。といっても個体差が大きいのも人族って思われている。セスさんみたいな人が出るのって大概人族みたいだし。


 あ、ちなみにセスって人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族とかがいろいろミックスされています。もともと人族のセスさんっていう英雄?勇者?的な人の戦闘部隊の子孫がメイン。少数精鋭で、当時はそれぞれの種族の強い人が集まった部隊だったらしい。てことで、セスの人っていろいろ複雑に混ざっているんだって。

 ちなみに、ドクなんて、ぱっと見はドワーフだけど、それにしては顔つきはエルフっぽい。おかげで人族っぽい感じかな。

 逆にアーチャはほぼエルフ。なんか、先祖には多分人族も入ってるみたい、だそうです。


 ナンクーさんみたいに人族にしか見えないね、って人ももちろんいる。

 セスの中では多分魔法は弱いんだろうな、っていう青髪です。

 でも、人族しかいないことになっている我が国だと、貴族じゃないかな?て思われるぐらい濃いんだけどね。


 

 ナンクーさんの自虐によると、魔法もダメ、剣もダメ、仕方なく研究者それも魔法が関係ない分野に進んだ、とのことです。

 セスの事務仕事をしている、とのことで専門の研究分野は政治、なんだって。

 どういうこと?って聞いたら、

 「有能な方々は樹海のお守りで忙しいですからね、セスの利権を中央から守り、また中央の情報をセスにもたらすのが、私の仕事ですかねぇ。」

 だそうです。


 なんだか、気だるげに言うけど、言葉の端々に、他のセスの人が不得手な分野でサポートする自分の仕事を、結構気に入っているようです。やっぱりセスの人って面白い。

 一応、アーチャも知り合いみたいで、その有能さを保証してくれたよ。


 「まずは、ご注意を。ダー君はパリミウマム家とは親しいので?」

 「パリミウマム?どこかで・・・・ああ、ライライさんの・・・」

 

 ライライさんは治世者養成校のクラスメートの一人。ようはナスカッテ国の将来を担うとされている人。そのおうちがパリミウマム家だ。

 以前、うちのパッデがこの国で拉致られた(拉致った人は家にご招待しただけとか言ってたけどね)ときにお世話になったんだよね。


 「あそこの家がいろいろダー君のことを探っているようですね。セスとの関係も疑って、密偵も結構入ってます。あとは、パッデ村界隈もこっそり探っているようですね。これは私の勘ですが、ダー君、またはその保護者のナッタジ家との交渉材料を探っているようです。」

 「交渉材料?」

 「ええ。たぶん、ダー君が欲しいんじゃないですか?」

 

 ウェーー。

 そういやそんな話をチラッとしてたっけ。

 こういうのがなくなるようにって、王子になったのになぁ。

 まぁ、交渉ごとは王家に任せるとして、僕としては足下を引っ張られないように注意しなきゃ、かな?

 はぁ。


 「まぁ、それは置いておいて。」

 「置いておくの?」

 「ええ。これは余談ですからね。例の魔法陣の件です。そちらの情報では転移だとか?」

 「・・・まあいいけど。・・・うん。そうだよ。南の大陸とこっちとで転移って、うさんくさいけどね。」

 「ハハハ。その転移に必要な魔力を、樹海の黒い魔物で補っているのではないか、とグラノフ博士から意見が上がっているようですね。」

 グラノフってのはドクのことだよ。

 ドクがセスにも情報を提供しているんだろうね。

 僕たちは、彼の言葉にうなずいたよ。


 「我々セスとしても、転移ができるとして、膨大な魔力をどうするか、ということが問題でしたから、それをあの魔物、そして樹海等魔力の多い地域で展開するというのは理にかなっている、というのは首肯します。」

 どうやらセスも膨大な魔力を入手する手段として、樹海そのものの魔力、そして黒い魔物の魔力を応用することに関心はあるみたい。


 「ですが、黒い魔物を召喚するのは、さすがに禁忌でしょうねぇ。」

 魔法陣で樹海の濃い魔力を凝らせて、魔物を黒い魔物に変える、それを召喚するなんて言葉を使っているみたいだね。

 樹海の魔物は他の地域の魔物より魔力が多い。そしてより濃い魔力を好むっていうのは知られていて、だからこそ魔力が凝ってタールみたいな魔力の場ができちゃったら、それに惹かれて寄ってきて、亡くなっちゃうか黒い魔物になっちゃうんだって。


 「これを。」


 ナンクーさんが、1冊のノート、ていうか羊皮紙の綴りを出してきたよ。

 難しいことをいっぱい書いているみたいだけど、どうやら実験結果の記録らしい。


 「これは、樹海の浅い部分に作られた簡易小屋で見つかった物です。正確には、ここにいた魔導師らしき者を哨戒の者が誰何したんですが、何も持たずに逃げ去りまして、いえ、正確には転移して逃げましてね、残された資料の一つ、となります。専門家によると、魔力だまりを魔法陣で作りそこに魔物をおびき寄せた実験で、どのくらいの確率で黒い魔物に変化するか、変化した魔物がどのくらい生きていられるか、それを観察した記録のようです。」


 ナンクーさんは、集まった魔物が黒い魔物になるのは1割も満たないこと、黒くなっても1日と生きていられないこと、などが書かれているって教えてくれたよ。


 「それと、その魔導師について、セスでも情報を集めています。レッデゼッサ、というのはダー君達が追っている商会ですよね。その商会の元で食客扱いのようで、トゼで何度か会頭と食事を取っている姿が目撃されています。」

 「トゼで?」

 「これはその当時、つまりはその記録を得てすぐの調査でのことです。もう2年ぐらい前ですかね?」

 「じゃあ今はいないんだね。」

 「これは確かではありませんが、半年ほど前、ある冒険者がレッデゼッサ商会の護衛をして北上した、との情報が上がっていたようです。どうも、クッデ所属の冒険者とその冒険者がもめたみたいで、もめた冒険者の雇用人として商会の名が上がってきていたのを発見しました。」


 やっぱりナンクーさんは、優秀みたいです。

 僕らがの情報を得てから、彼らのことを調べまくったみたいなんだもん。後でアーチャが教えてくれたよ。

 ナンクーさんは、すっごい努力家なのに、それを見せるのが嫌なタイプなんだって。しれっと、すごいことをやって、相手が驚くのを見てニヤニヤしてるんだ、なんて言ってるよ。

 でも、なんか分かる気がするね。ナンクーさんってそんな感じ。



 それにしても、やっぱりクッデ村かぁ。


 僕とアーチャは、顔を見合わせてうなずいたよ。

 さぁ行こう。

 って、グレンは?


 あらら。

 すっかりリッテンドの猛者たちに餌付けされてご満悦だよ。

 うん。ご飯は大事。

 ご飯食べたら、船に戻ろうね。

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