第191話 リッテンド村へ

 ナスカッテ国の主要な都市は東の海岸線沿いにあります。

 北の大陸だから、僕らが住む南の大陸に面している部分は当然大陸としては南の端。

 僕らの住む大陸の北の端に小さな半島みたいに突き出しているのが、今は僕が代官をしていることになっているミモザです。

 で、そのミモザからほぼ真北、正確にはちょっと西よりに北の大陸にも半島があって、その半島の西の付け根っていうのかな?そんなところに大きな川の河口があります。

 この大きな川がフミギュ川。

 この川には支流も中州もたくさんあるけど、そのメインの川は、とくに河口近くは、本当に広くて、でっかい船でも余裕ですれ違える。


 けど、ここの川を使う人はほとんどいない。

 海流の問題で操船が難しいんだって。

 逆に嵐の時に川を逆流して難破、なんて事故はたまに起きる。

 その事故のおかげで、うちのパッデなんかは、無事生まれることができたんだって。ご両親が乗っていた商船が嵐のせいで流れ着いたのをパッデ村の人が助けて、そのパッデ村で生まれたらしい。それで、村の名前をもらったって聞きました。


 フミギュ川の流れの源流は、まぁ源流自体を確認した人はいないけど、フミ山がある。

 フミ山はパッデ村へと上陸する付近まで川を遡るとすでに見えるぐらいでかくて、しかもきれいな三角形だ。連峰とかじゃなく、単体でピラミッドみたいな三角形。

 ちょうどこの光景は前世の富士山に似てるかも。


 源流をなんで確認した人がいないかっていうと、フミ山の麓は樹海と呼ばれる魔物の地域だから。

 この濃い魔力の原因がフミ山にあるのでは?なんて説もあるぐらい、前人未踏の山なんだって。


 で、フミ山から広がって、人の住む地域にどんどん危険な森が広がってくるんだけど、これをせき止めるのがセスだったりします。

 だから、多くのセスの集落はこのフミ山からはじまる樹海の端っこに作られる。

 この北の大陸では、東ほど安全で、フミ山に向かうほど危険度がアップする、そんな認識。

 パッデ村みたいな隠れ集落は、トゼの都から森へと逃げて作られるから、トゼとフミギュ川の間の森に点在している、って感じかな?

 その中でもパッデ村はかなり北かつ西寄りにある。

 それでもセスほど危険な地域では無く、樹海でない森に生息する魔物は、強くても狩れるレベルで、十分に糧となってくれるんです。



 翌朝、僕らは商船で待ち合わせる約束をしたよ。

 たぶん1日か2日は最低でもかかるかな?てことで、商会の人たちは船に積み荷を積みつつ待ってくれることになりました。


 村と船までは近いとはいえ、危険な森を片道3時間、荷物あるし戦闘時間を考えるともっとかな、そのぐらいかかるんだって。

 ちなみにこの道は僕らが初めて通った道と同じで、ひいじいさんたちが通っていたルート。

 道なき道なんだけど、なんか華さんところの妖精たちがお手伝いしてくれるんだって。まぁ、ほぼほぼ道案内なんだけどね。


 このルート、僕らの商会とパッデ村の人たちしか知りません。あ、一部セスでも知ってるのかな?一応哨戒ルートらはあるらしいから。

 この辺りの森って、妖精達がOKした人じゃ無いと、妖精に邪魔されてどこにもたどり着けないらしく、川から上陸、は、ナスカッテ国の人たちにとっては信じられない愚行、なんだそうです。

 実際、崖になっていて入れない場所も多いし、魔物の強さもかなりのものなので、川へ入るまでの海の難しさも相まって、誰も通らないみたいです。

 ちなみに妖精に邪魔されるっていうのは、なんか迷うんだって。

 気がつくと同じところをぐるぐる回ってたり、とかね。

 うん、妖精ってそういうイメージあるかも。僕にはそんなことは一度も無かったけど、好き嫌いで対応違うからね、あの子達。アハ。



 てことで、商会の人が荷運び中に、僕らはまずはアーチャのふるさとリッテンド村へ。

 このリッテンドは樹海守護の集落としては大きい物で、移動しない集落です。

 セスの村は移動する集落と移動しない集落があるんだ。

 移動するのはどちらかというと冒険者のキャンプに似ている。

 攻略物の近くでしばらく住む、的な?


 一方リッテンドは樹海を広がらないようにしている結界の維持も大きな仕事。

 で、そのため主要な結界部分にほど近いところ、ていうか接しているところに存在している。なんていうか主要拠点の1つって感じかな。

 固定だからそれなりに家も人も多いし、店だってあるしね。


 ちなみにリッテンドみたいな村はいくつかあって、それぞれ名前がついている。リッテンドとかね。

 でも、セス以外の人からはセスの村とかセスの集落って言われているのはたった一カ所だけです。

それはトゼから森を抜けるただ1つの街道の突き当たりにある村だ。

 そこがセスの中枢で、長老達が住んで、大きな戦力とか、セスのルールの徹底とか、取り決めとか、そういう政治的なことは全部行っているんだ。

 いわばセスの司令塔がそこで、司令塔から発せられた方針で結界の守護とか魔物の討伐、またはいろんな研究なんかが、各集落で行われるんだ。


 リッテンドはセスとしては大きい集落でもともと重要な場所だったんだけどね。

 数年前、僕が関わったことで特に重要拠点になっちゃったんだ。


 それはホーリー。


 ちょっとした事故みたいな感じで特大のホーリーを僕は発動してしまった。

 当時の僕が持つ魔力がすっからかんになって魔力欠乏で意識を失うぐらいの力でね。


 しかも火事場の馬鹿力っていうのかな?どのくらいの火力が出てて、どのくらいの魔法を放ったのか、今でも正確にはわかんない。

 けど、そのとき起こった影響は今でも残っているんだ。


 樹海のすぐ側、結界がある地域であるリッテンド。

 僕は樹海に向かってホーリーを爆発させ、そこは一面の白い世界に変わっちゃったんだ。

 それが初めての白い世界の認識だったんだと思う。


 白い世界。

 一見、きれいって思うでしょ?

 そうきれいだった。

 きれいすぎたんだ。

 魚だってきれいすぎる水では住めない。

 それと同様、人も動物もきれいすぎる場所では生きてはいけない。


 樹海は魔力が豊富すぎても人には毒だけど、一切の魔力を失った場所では、それこそ宇宙空間で空気がないのと同じように人は生きられないのだ、と、白い世界を知った僕らは学んだんだ。


 魔力を失うと物質は白くなる。

 それは大地も同じ。木も同じ。

 木なんて魔力が抜けると同時にサラサラと消滅しちゃった。

 土の魔力が消えて、でも大地の奥からはゆっくりと魔力が浸潤して、だからゆっくりと魔力の回復は行われているみたい。大地に魔力が満ちれば空気にも徐々に満ちていって、また生き物の住める場所になるだろう、なんていわれている。


 あと、白くなった大地は魔力を吸う。

 カラカラのスポンジみたいにあふれた魔力を吸おうとする。

 僕が大地に足をつくと、ゆっくりと魔力を吸って、カラカラの大地に水がしみこむみたいに、足形の影みたいなのができたんだ。

 吸う、といっても、人間から強引に吸うんじゃなくてあふれている魔力を吸うみたいで、他の人にはそういった現象は起こんないみたいだったけど。

 ダダ漏れ、なんていわれている僕が歩くと足形ができちゃうんだよね。



 この世で知られる限りただ一つの魔力が無い大地・空気のある場所、それがリッテンドってわけ。

 だから、研究関係の人間がずいぶん増えたらしいです。

 といっても怪しい人は完全にシャットアウトされているし、研究者といっても全員セスの人。

 逆にセスに出向してくる別の部族の人はリッテンドから消えたよ。

 他の集落に移動してもらったり、配置して、ここの情報はセスで止まっている、はず。

 ナスカッテ国の実質的支配者層である評議員の中でも、このことを知っている人はいない、と思いたい、とはアーチャの言葉。



 白い大地は人が住めない大地だ、とはいえ、僕のホーリーが結界を破って樹海へと侵入し、樹海の一部を白くしたのは間違いない話。

 そして、樹海からはそこそこの勢いで魔力が流れ込んでくるから白い大地が元に戻るってのも早い。

 白い大地から樹海レベルの魔力量になる間に、人にとってちょうど良い濃さの大地ができるわけで、その段階でこちら側のテリトリーに取り込めば、実質的には樹海の攻略と同じになる。

 ていうことがすぐにセスの長老達にも共有され、僕はセスの民として迎え入れられたんだ。名誉セス、的な?



 僕だけが今のところホーリーを使えるわけで、このホーリーを使って樹海を減らしていく研究がなされている。

 危険もあるから安全に広範囲になんとかできないか、ってのがもっぱらの研究内容。

 ちなみに白い大地を歩いたからといって、多くの人にすぐに影響があるわけじゃ無いんだけどね。

 大地にも空中にも魔素がないことから、自前の魔力に頼ることになるけど、それができる間は動くことができるからね。

 この世界MPなんていう表記はないけど、前世ゲーム風にいえば、白い大地にいる間はMPを消費し続ける危険な空間、って感じかな?

 いつかは樹海を安全な場所とし、さらには樹海を突っ切ってフミ山に行き、魔力のあふれる謎を発見してみたいなぁなんていう夢もあったりします。だって冒険者だもの。


 てなかんじで、僕らは森沿いにリッテンドへと足を進めます。

 時折開けたところから見えるフミ山をランドマークに、リッテンド=樹海に向けて、グレンは走る・・・

 ハハハ、今日もよろしくね、グレン。

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