第190話 やってきた仲間たち
「私ですか?私の夢は・・・・ダー様について行くことです。ダー様がお話ししてくれたでしょう?世界は広いって、たくさんの冒険話をしてくれました。私もそんな広い世界を見てみたい。できればダー様と一緒に、・・・なぁんて、あ、私がおばあちゃんになったら、ってことですからね。連れ合い、とかそんな恐れ多いこと考えてないですから。私はこの村を守って発展させるワコの手伝いをしていきたい。そしてワコがミコになって、そしてヒコになって、それを無事に次代と引き継いだら、そしたらダー様とともに世界を回るんです。」
ネコさんのそんな言葉を思い出しつつ、でもなんか寂しい夢だな、なんて僕は思う。
本当に獣人の人は家族思いで、自分のやりたいことより仲間の繁栄、なんだよね。
「夢は現役を引退したら・・・」なんて、祖父と孫が語るなんて、なんていうか、若い間にやりたいことをって発想はないのかな?
なんて思ったけどね、この話をそばで聞いていたアーチャに後で教えてもらったよ。
獣人族の弱った老人、ていうのはほとんど見ない。彼らは死に場所を求めて仲間から離れる、んだそうです。これは病人も同じ。
自分の死期を悟った人は、ひっそりと姿を消す。
森に還るなんて言い方をするらしいけどね。
それで、何より贅沢なのが、元気で死期が見えないのに、目標を持って集落とかから出ること、なんだそうです。
本当にそうなるかはわからなくても、「いってきます。」「いってらっしゃい」と見送られて仲間のもとから去る、それが最高に幸せなこと、なんだって。
出かけた後みんなのもとに帰る可能性がある、だからこそのお見送り、なんだそうです。
だから元気な老後を迎えて見送られて村を出るのは、誰もが夢見る幸せ、なんだって。
そんな話をアーチャとしながらベッドに入った僕なんだけどね。
『戻ったぞ。』
『きゃあ、はぁ?』
グレンの念話と、キラキラ、そして歓声?
「あれ?エア・・・と、キラリン?」
部屋の中には、なぜか南の大陸にいると思っていた妖精がキラキラと輝いていたんだ。
『あっちからわたってきたようだぞ。なぁ、キラリン。』
グレンの言葉にキラリンは肯定のイメージを送ってきたよ。
キラリンたち森の妖精はエアたち花の妖精に比べて、言語が抽象的。ていうか、感情で話す感じ?
だから、人間の言葉っぽく翻訳して理解したところ、キラリンはどうも南の大陸で他のキラキラたちとふわふわしていたんだって。
あのね、グレンは僕らとバルボイの奥地で調査してる途中で森の精霊に呼び出されたんだけど、どうやらこっちの大陸と繋がることが頻繁になりすぎてるから様子を見てきて欲しいって精霊様にお願いされたんだって。
精霊の呼び出しってのは、僕が北の大陸に行くはずだから、僕を守りつつ一緒に様子を見てきて欲しい、ってことだったらしい。
さすが、精霊様。僕がここに来ることを知っていたんだね。
なんでも、南の大陸と北の大陸が時折繋がっちゃうみたいで、それは精霊様曰く不自然で良くないことなんだそうです。精霊様の(これなんとかならないかかなぁ)って気持ちを受けて、たくさんの森の精霊が繋がっちゃったところ=次元の狭間に飛び込んじゃったみたい。多くの妖精は消滅し、ちょっとの妖精はこっちに到着。慌ててUターンするけど、さらにそのときたくさんの子が消滅し、ほんの一握りの妖精たちが戻ってきたんだって。
これは僕たちが実験したことが原因みたいだからたくさんの消えちゃった子に申し訳なくて悲しいです。
キラリンだけじゃなくてエアもなんだけど、妖精っていうのは一人一人別の子だけど、全員が同じ子でもあるんだそうです。うーん。人間の僕にはわかんないんだけど、一人が体験すると他もその体験は共有する、のだそう。
ただ、僕に名前のつけられたエアとかキラリンとかは、他の子より自分と他の子の境目がはっきりする、らしいです。
だから、誰でも良いわけじゃなく、ちゃんとした個体として存在するんだって。
ただ、完全につながりが消えるわけじゃない。
だからキラリンはたくさんの次元を渡ろうとした子の記憶・体験を持っている、そうなんだ。
そんな別の自分たち?の経験から分かるのは、ここ数年、別の場所どうしが繋がることが多く、それは自然に繋がることもあるけど、それだけじゃなくて人の手が加わったからってのも感じるんだって。
ちなみにこういう難しいことを感じるのは精霊様で、精霊様は自分のところの妖精の故知はすべて分かるらしく、妖精達は精霊様が自分たちにそんな風に言ってることを共有してる、って感じかな?
ちなみに僕の知っている精霊様は3人だけど、全員僕の魔力を分けてます。
同じ魔力を糧にした精霊様は、なんか家族みたいなもんなんだそう。
で、僕が特別に名前を与えて魔力を分けた妖精や魔物、つまりエア、グレン、キラリンだね。彼らはうっすらとお互いが家族っぽい感じで身近に感じるんだそう。
グレン曰く、群れのランセルとはちょっと違う感覚、なんだって。よくわかんないです。
『エア達が今繋がってるぽいところ、という場所を調査に行ったんだが、向こうに精霊様を感じてな。そのそばにキラリンがおった。しっかりと我とキラリンが認識できたのを見た精霊様が、こやつをこちらによこしたのよ。』
とはグレンの報告です。
キラリンがいると、森の精霊様のお話しが分かるんだって。
キラリンが伝言板みたいに通訳できる、らしい。
アハ、言葉で伝えられないのは難しいけどね。
ちなみに、僕の魔力で繋がっているグレンやエアがこっちにいるから、次元の狭間に飛び込んでも、キラリンが消滅したり迷ったりする可能性は限りなく低いからできたことみたいです。
エアも花の精霊様こと華さんと同じように繋がってる。
ってことで、精霊さん達の情報共有のためにも来たみたいだね。
・・・・
?
って、聞き流してたけど、今繋がってるところ、分かってるの?
『うむ。ダーたちが樹海という場所の中だがな。』
『エア知ってるよ。いろんなところでポツポツ繋がってるんだよ。精霊様はとっても心配なの。でもダーちゃまがなんとかしてくれるのぉ。』
アハハハ・・・なんか期待がちょっぴり重いです。
「ちょくちょく繋がってる、か。セスの情報とも近いね。」
みんなと念話で話し始めた僕に気づいて、僕のことを後ろから抱っこして聞いていたアーチャが言ったよ。
どういうこと?
「ほら、母さんが僕を呼び出したでしょ?ダーが一人で樹海をうろうろしてることを許していたっていうお説教がメインだったんだけどね、こっちに情報をよこした、っていうか、むしろ情報を探ろうとした、かな?」
「えっと?」
「3年ほど前、樹海の中で大量の魔石と魔法陣が発見されたんだそうだ。樹海の濃い魔力を集積し何かを起動させる術式だと研究の結果分かったのが最近みたいだけどね。はじめの発見の後、その形はちょっとずつ変わってたようだけど、似たような物があちこちで発見されたんだって。放置されたそれに魔力が集まって、例の黒い魔物が頻繁に現れたらしい。ただ、なんていうか、今までのより弱いから討伐はセスで簡単にできるみたいなんだけどね。あれは黒い魔物を産み出している魔法陣ではないか、と、セスとしても注視して巡回の強化もしてきたみたい。で、何度か、その魔物が魔法陣に捕らえられて消えるのも目撃されている。」
「それって・・・」
「うん。今考えると、魔物を作り出されたのは偶然で、転移の魔法陣なんじゃないかなって思う。博士に見てもらわないと正確には言えないけど、魔法陣はセスでできる限り写し取ってるらしいから、それは今後、って感じかな?」
「そんなことがあったんだ。・・・でも、3年前からって、僕も何度かセスに行ってるのに、聞いたことがなかったね。」
「ダーはホーリーで魔物のすみかを減らせないかなぁって期待されているから、主にそれ関係の話がメインでしょ?黒い魔物の問題はダーの会ってた人たちとは違う人たちで扱ってたんだと思うよ。僕も今回ので初めて聞いたし。ほら、ダーが今回こっちで黒い魔物を追ってたから、情報が回ってきたんだよ。」
なるほどねぇ。
「母さんが、この魔法陣と消えた魔物の記録を見せてくれるって言ってたから、とりあえずリッテンドに向かって情報をもらうのと、樹海を覗いてから、その後クッデ村に向かおうか。」
僕はアーチャの言葉に頷きます。
明日からまた忙しくなりそうです。
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