第189話 パッデ村の宴にて

 その日は、いっぱいの魔物肉とかを出して、バーベキュー。

 ママやバフマも参戦してくれて、バッグ越しにお料理を提供してくれたよ。


 その日は話し合いを終えた後も、お出かけしていた商会の人やパッデ村の人から追加情報をもらったり、全然関係ない話をして盛り上がったりしたんだ。


 あ、そうそう。

 もうすぐワコ君がミコ君になって、ミコさんはヒコさんになるんだって。

 えっとね、村の代表者=村長の名前は代々ヒコなんだ。で、次期村長がミコって名前。で、ミコの長男がワコ。そういう伝統なんだって。

 ちなみに獣人は戦闘なんかで突然代替わりしなきゃならないことがある。

 次と次の次の代表を決めておくのは、空席ができないため。

 第2候補、ではなく、次代って形で決めておくのが獣人流。


 ワコ君も子供ができそう。要は結婚したらしい。で、子供が生まれたら名前が変わる。つまりはパッデ村も代替わりするんだそうです。


 「おじいちゃんは長くヒコをやっているから、そろそろ引退したいって言ってるの。やりたいことがあるから、だって。」

 そう言ってくるのはネコさんです。

 ネコさんは、ワコ君のお姉さん。

 この村で、ううん、獣人で初の魔導師になった人、かな?


 獣人は魔法が使えない。それがこの世界の常識です。

 けど、魔力はあるんだ。

 その魔力が生まれながらに身体強化に使われているみたいなんだけど、なんていうのかな?外に放出するのが魔法だとして、そういうのができないってされてきたんだ。

 いっぱんに獣人の人って頭で考えるより身体を動かす方が得意。さらに得意なのは直感、かな?

 そのためか、イメージするという作業に慣れてこなかったんだ。

 そもそも詠唱を覚え、詠唱の効果を信じる、ていう今の魔法の発動の常識には、種族的に難しいってのもある。


 普通は魔法っていうのは師匠から長い詠唱を習ってそれを覚え、その詠唱がどんな魔法を作り出すかを覚えるんだって。そして詠唱終了と該当魔法の発動が無意識レベルでリンクできたとき、魔導師として当該魔法を習得した、って認められるんだ。・・・と、学校で習ったよ。

 さらに高度な魔導師は、正しい詠唱と新たな魔法をすることができる。うん、発見なんだ。

 前世で言うと、数学者が公式を発見するに等しい感覚、だそうです。ちなみにこれはモーリス先生の説明ね。


 でもこの常識は間違っている。

 強くイメージした内容を魔力に乗せれば魔法は発動するんだ。

 要は術者がどれだけ信じるかってこと。

 僕なんかは、前世のうっすら知識でゲームとかの魔法が頭にあった。

 ファイアーボールとかウィンドカッターとかストーンバレットとかね。ボタンやスティックの操作で名前を選んで、当然のように魔法が発動する、その感覚でできるって、簡単にできたし、無詠唱だってその延長。

 で、この僕の感覚に近いことをここの獣人の魔力が多い人にやってもらったの。

 要は魔法なんて当然できるよね、って信じれば良い。

 心の中で疑わず信じること。それがどんな魔法なのかしっかりイメージすること。

 基本はこれでOKなはずなんだ。


 でね、恥ずかしながら僕はひいじいさんの影響もあって、ここの村では神様かその使徒様扱い。僕が言うなら正しいっていうまるで信仰みたいな感じで思ってくれてる。

 ちなみに厳密に言えばこの世界に宗教はない。つまり神様って発想はないんだよね。でも、なんていうのかな、導いてくれる人っていうのは、超越者として現実にいる、って思ってる。ていうか、平民にとっての貴族ってそんな感じ。


 いろんな種族がいてそれぞれに特徴があるから、一概には言えないんだけど、獣人族にはボスを崇拝する、そんな感じの感性があって、ひいじいさんの場合は、一番困ってたときに手を差し伸べて新しい世界をくれたから、ボスを超える導く人、もう神様レベルで思われているし、信仰に近い崇拝が生まれちゃったって感じです。

 なんていうのか、前世では神様は実際には見えないのに信仰してたでしょ?

 この世界では見えるタイプの超越者について行くけど、見えない神様っていう発想自体がない、て感じ。


 まぁそんな感じで信仰に近いものをひ孫の僕に抱いてくれてて、だから僕が「できるはずなんだ。」って言えばそれを信じてくれるし、魔法を見せればそれをイメージの中に落とし込むのも、むしろ獣人族の人は得意だ。なんたって、目で見た物だけを信じるっていうリアリストな面が強く、逆に目で見てこれができるよ、って言われたら、そんなもんか、って信じられるから。


 てな感じで、前提段階の魔力の通り道を通した後、魔法の練習をして、はじめてできるようになったのがネコさんなんだ。

 そうそう。獣人の人が魔法をできないって理由の一つに魔力の通り道を通す訓練をしたことがない、っていうのは大きいと思うよ。

 これは魔力の通り道が通っている人の協力がなければ普通はできないはずだから。僕の場合は・・・ま、これはもういいか。


 獣人でこれができている人がいないと他者に通せない以上、他種族の魔導師の協力が必要だ。これがなされていなかったってのは、・・・・まぁまぁいろいろ勘ぐれることもあるんだけどね、ハハハ。


 「ヒコさんが村長をやめてからやりたいこと?」

 「そうなんです。フフフ、おじいちゃんはエッセル様のこと大好きですから。」

 ?

 どういうこと?

 確か、ひいじいさんとは会ったことがあるらしいけど。


 ちなみに獣人族の平均寿命って短いんだよね。

 だから代替わりも早い。

 5,6年前初めて会ったときは、ワコ君は子供だったけど、今はすっかり凜々しいい青年だ。今ではお父さんのミコさんに次いですごい戦士になってるらしいです。

 ・・・・

 あれ?

 そういや、ネコさん・・・


 ネコさんはワコ君のお姉さん。

 最初に会ったときは、ほんと、お姉さんって感じだったんだけどね。

 今はどう見ても、ワコ君の妹です。


 「魔法を使えるようになった人は、なんか若いんです。特に魔力が多いって言われた人ほど若くって、しかも大人も長生きになっちゃった。」

 だそう。

 ワコ君も魔法が使えるようになったから、通常よりも若い、んだそう。だけど、魔力量の差で見た目年齢が逆転しちゃったみたいだね。


 僕ら人族でもそういう傾向はあって、普通に成長はするんだけど、第2次成長期が終了するくらいから、魔力の多い人ほど年を取りにくいし長生きする傾向があるんだ。これは一般的には魔力による自然治癒力のために、自動修復力が働いて老いにくいんだろうって思われています。

 まぁ、僕なんかは魔力が多すぎるせいなのか、魔力の通り道を通しちゃったのが早すぎたから、か、第2次成長期なんてくるずっと前から成長が遅いのが悩みの種なんだけどね。


 「せっかく私長生きできそうなんだけど、でもダー様を見ているとダメダメだなぁ、って思います。」

 「え?」

 「ダー様はずるいです。まだまだ子供の時間が長そうなんだもん。」

 えっと・・・これはこれで悩ましいんだけどなぁ。

 「私は、ワコが引退したら、おじいさまみたいにやりたいことをやろう、って思っていたのになぁ。」

 「えっと・・・夢があるってことかな?」

 「そうです。おじいさまと一緒、までじゃないかな?でも似た夢があるんです。」

 「それは?」

 「おじいさまはエッセル様が大好きで、エッセル様が望んだものを探し出すのが夢なんですって。本当はエッセル様がいなくなったから諦めてたみたいだけど、今はそれをダー様にお渡ししたい、って。それで、村もこんなに安心にしてもらったし、元気な間に旅に出る、って張り切ってるんですよ。」

 「ひいじいさん・・・エッセルの望んだ物?」

 「・・・うちのお米はエッセル様の望んだ物とは少し違うんだそうです。だからエッセル様が欲しがっていた米を探すんですって。それと大豆っていう豆。それで調味料や水を固めた白い食べ物とかを作るんですって。まったくどんな物かは想像できないですけどね。」


 ハハハ、ひいじいさんってば何を教えてるんだか。

 うるち米に大豆。

 きっとご飯に醤油、豆腐とかを食べたかったんだろうね。

 それを村長を引退してまで旅に出て探す、って、そこまでする?なんて思うんだけど、きっとそれこそが夢ってことなのかなぁ、なんてことも思う。


 ということは、ネコさんも旅に出て何かを探す、のかな?


 「私ですか?私の夢は・・・・ダー様について行くことです。ダー様がお話ししてくれたでしょう?世界は広いって、たくさんの冒険話をしてくれました。私もそんな広い世界を見てみたい。できればダー様と一緒に、・・・なぁんて、あ、私がおばあちゃんになったら、ってことですからね。連れ合い、とかそんな恐れ多いこと考えてないですから。私はこの村を守って発展させるワコの手伝いをしていきたい。そしてワコがミコになって、そしてヒコになって、それを無事に次代と引き継いだら、そしたらダー様とともに世界を回るんです。」

 ネコさんは、どこか遠くを見ながら、そんな風に語ったんだ。


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