第188話 報告会*パッデとともに
「ってことで、レッデゼッサって名前自体無名なんだよね。」
この国での現状は、ってことでパッデが教えてくれたよ。
まぁ、我が国でも、せいぜいがトレネーの有名商会として知られている程度。
あとは、冒険者向けのおしゃれな装備を売っている、として知られているかな?
おしゃれだけど、機能性には難があるから、自分のレベルよりちょっと低めのところで使うには、満足度があるお店としては知られている、らしい。
「さすがに外国、しかも海を渡った先では無名ってことか。」
アーチャが言う。
実際、僕、この件がなかったら知らなかったし・・・
「いや、ダー君。さすがにそれはナッタジ商会の御曹司としてどうかと思う。」
パッデにも言われちゃった。
トレネーではナンバーワンと言ってもいい商会。同じくトレネー領で台頭してきているナッタジ商会の関係者としては、はい、反省してるよ。
「ダーはさすがに勉強不足、とはいえ、実際そんな程度の認知度なんだと思うよ。老舗かもしれないけど、トレネーじゃ、もうナッタジ商会の方が有名だし。普通の人が商会の名前をいちいち気にするか、って話でもあるんだけどさ。」
アーチャが言うのも正しくて、小さな町だったらそもそもが店なんてほとんどないし、トレネーレベルの都会だって、あの場所にある○○を売ってる店がある、みたいな認識。つまりは、普通の人は商会の名前なんて意識して買ったりしないんだよね。
扱う商品ごとに違う店舗を構えたりするのはあるけど、店の場所が違えば同じ商会が母体だっていう意識も持たないし。
だから、僕が商標みたいなのを作って、商品とかお持ち帰り用のバッグに貼り付けたのは、驚かれたのと同時に、一般の人に同じ店の商品っていう価値判断を作ってもらったいいきっかけになってるんだ。
だからこそ、チーズと食器が同じナッタジっていう商会の商品だって認識してもらって、それを持っていることを自慢できる、っていうベースができたんだけどね。
チーズも食器もナッタジのだから好き、そんな風に普通の人に言ってもらう商会なんて、ひょっとしたらうちが初めてかもしれないんだって。
「まぁいいけどさぁ。どちらにしてもレッデゼッサが無名ってことは確か。せいぜいがトゼの都で商売人相手にちょっとした取引をしている程度かな。主に魔物素材の売買で、こちらの大陸特有の魔物の素材を買って我が大陸に持ち帰り、逆に我が大陸の魔物素材をこちらの大陸で売る、そんな貿易を細々、といった感じかな。」
パッデの言うのは、まぁ、珍しくはない話。
違う大陸の商品を別の大陸に持ち込む貿易っていうのは、なかなかに効率が良いのも確か。珍しい物には高い値がつくからね。
ただし、ただでさえ魔物で行商やら貿易っていうのは危険。海を渡るならなおさらで、それだけハイリスクハイリターンが見込まれるんだ。
こんな危険を許容できるのは、安全対策をとれるだけの資力だったり武力がある商会だけ。そういう意味では老舗のレッデゼッサとしては、資力があるってことだよね。
「それと、これは未確認だけど、レッデゼッサが最近はトゼ以外にも船を進めているという噂もあるみたいだね。」
えっとね、このナスカッテ国のある北の大陸では、知られている国はナスカッテただ1つなんだよね。ちなみに南の大陸には我が国が一番大きいとはいえ、いくつもの国がある。
どうして北に国が1つしかないかって言うと、その地形も問題あるんだ。
この大陸は、南の大陸に比べて基本的に魔力が多い。
それが原因で魔物が強いし多いんだ。
樹海はある意味特別だ。
けど、そこまではいかなくても、森ってところは人が住むには適しているとは言えない。開拓し人の版図を築くのは、南の大陸よりずっと困難で、結果、放置されて魔物の地となっている森とかも多いんだ。
加えて、山とか崖みたいになっているところが多く、人が住むに適した平地が海沿いに限られてる。
都市は、従って海沿いに作られ、その往来は海から、というのが主流だ。陸地移動はそれだけ危険かつ困難なんだ。
そういう理由もあって、トゼ以外は小さな集落が中心だ。
国として成立できるだけの大きさになるのは難しすぎる。
てことで、あちこちの集落が集まって共存共栄を図る、それがナスカッテという国のあり方なんだ。たとえナスカッテ国の中枢がその存在を把握していない集落であっても、この大陸にある集落はすべてナスカッテ国に属する、そういう解釈。
ってことで、公式には1つしか国がないんだ。
理屈はともかく、共存共栄なんて言ってるんだ、それぞれの集落を守り大きくするため、魔物の版図を人のそれにしようと頑張ってはいるんだろうけどね。
ただそれはあくまでナスカッテの国の中での話。
南の大陸から船でやってきて貿易をするだけの利点があるか、っていうと、トゼ以外に船を進める利は少ない。結果、貿易なんてことをするのは、トゼ相手ぐらいなんだ。
だからこそ、パッデがいう噂、っていうのは、なんか変なの、って気にさせられちゃうのです。
「トゼ以外っていうと?」
ジブとかかな?僕はカイザーの故郷の町を考えながら聞いた。
ちなみにジブはドワーフ族が中心の集落で鍛冶が得意。
武器を扱うなら、直接取引するのに悪くないってわけ。
「北へ向かった、とか。」
だけど、パッデが言うのはちょっと違ったよ。
だって、ジブの方がトゼよりちょっと南なんだもん。
「クッデ、かな?」
僕とアーチャはそう言って顔を見合わせる。
最北の村クッデ。
知られている中ではナスカッテ国の最北端にある村だ。
ここは冒険者が多く、その理由はさらに北に版図を広げたいナスカッテ国の最前線だから。
つまりは南の大陸の最南端バルボイ領みたいな感じ、かな?
ちょっと違うのは、どんどんバルボイみたいに版図を広げてるかっていうと、それは違ってて、どっちかっていうと魔物から人間の住む場所を守っているのがせいぜいってところかな。
実は、華さんが指摘したのはクッデのことだと思う、っていうのが僕とアーチャの判断なんだ。
ここより寒くて、黒い魔物を倒したところ。
うん。ぼくたちクッデ村の先で黒い魔物と遭遇し、それを倒したことがある。
だから、華さんのアドバイスに従って、そっちに行こうってなってはいたんだ。
だけど、ここにぼやっとした感じではあるけど、パッデたち商会の人が集めてくれた噂。
行くっきゃないね。
「話はついたんで?」
クッデ村へ行く気満々になったところで、会議室に顔を出したのはメンダンさんだった。
メンダンさんは、ナッタジ商会の貿易部門でずっと船に乗っている人。ちなみに一番偉いのは、彼のお父さんのカッチェーさん。うちの船団の団長さんです。
「あ、メンダンさんだ。あのね、クッデ村に行こうか、って思ってたところなんだ。」
「クッデ村、ですか。アイアイサー。出発はいつで?」
「は?」
「だから船の出航ですぜ。併せて積み荷も積まなきゃならないんで。」
「あの、何言ってるのかな?」
「クッデに行くなら船なんだろ?いくら坊ちゃんでも泳いではいけないぜ。」
「そりゃそうだけど。」
まぁ、足は普通にグレン、って思ってたんだけどなぁ。
人間が進むのは難しくたって、グレンがいれば崖も森もへっちゃら、だしね?
「馬鹿言っちゃいけねぇ。あのな坊ちゃん。わざわざ意味のない危険を冒すのは馬鹿のすることだぜ。船があるんだから船を使えば良い。」
「でもそれは商会の船で、商会は商会のお仕事があるでしょ。」
「会頭から許可は出てますぜ。坊ちゃんが来たら、望むところへ連れて行くようにってね。最悪積み荷がやばそうなら、ほれ、坊ちゃんに持ってもらえば良いしな。ハハハ。」
商会の主だった人は、少なくともリュックのことは知ってるからね。そのことを言ってるんだろうけど・・・
ってか、ママってばいつの間に根回ししてくれていたのかな?
アーチャを見ると肩をすくめてるし、知らなかったんだろうね。
「で、いつ出発で?」
「あー、もうちょっと。ちょっと樹海まで足を伸ばさなきゃ、だしね。」
グレンがエアたちと、樹海周りに調査に行ってくれてるから、その情報もチェックしなきゃ。
僕がそう言うと、メンダンさんは了解して、出て行ったよ。
「じゃあ、僕はあっちを手伝ってくるよ。出発が決まったら教えてね。」
パッデがメンダンさんの後を追って、部屋を出て行った。
みんな協力的で助かります。
僕は商会の人とパッデ村の人にお礼の気持ちを込めて、宙さんに仕舞ってもらってる珍しくておいしい魔物肉をいっぱい提供することにしたよ。
さぁ、今日は宴会です。
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