第187話 北の大陸での彼らの噂は?
華さんのところを出て、僕たちはパッデ村にやってきました。
なんで、パッデ村?
単純にナッタジ商会の面々と会っていろいろお話ししやすいからです。
えっとね、パッデ村っていうのは、獣人さんたちの隠れ里?
簡単に言うと獣人さんたちは、ナスカッテというこの国で、非常に立場が弱く、虐げられていたために、町から逃亡する、なんてこともちょくちょく起こってるらしい。
このパッデ村は、もともとそういう逃亡獣人さんたちが築いた集落で、国としては存在していない村。
たまたまひいじいさんがこの国を訪れて森で狩りをしていたときに、追われている彼らを助けて、村づくりにも貢献したんだって。
貢献したっていうか、ほぼほぼ趣味?
なんたって、この世界に、日本昔話の村を作り出した、って言えば正解だと思う。
ひいじいさんは村の人たちに神様みたいに思われていて、なぜか僕がその後継だと信じられている。うん、純朴な人たちなんだよ。
この村では、米、といっても餅米だけどね、とか、蜂蜜、といってもこれも土の中にいる蜂というより蟻が作る蜜、とかが名産品。ちなみにこれらを仕込んだのもひいじいさん。
あとは、近くの森に自生する竹で作った竹細工。
こういった品々を作っていて、今ではナッタジ商会の立派な仕入れ先です。
村には、僕らナッタジ商会関係者専用の迎賓館的なお泊まり場所まで、いつの間にか作ってくれていたようで、僕らが今回目指すのはそこなんだよね。
ナッタジ商会の出張事務所みたいになってるけど、まさかこの大陸にうちの商会の事務所があるなんて知っている人は、ほぼいません。
ハハハ。
そもそもパッデ村はナスカッテ国に存在しない村、ってことになってるしね。
村が見つかったら実はまずいことになるらしいです。
国に税金も納めず密かに暮らしているのは、ある種の犯罪らしいからね。
とはいっても、この手の村は実際にはたくさんあるらしく、仮に取り締まりの役人とか兵士が来たところで、逃げて別のところに村を作るっていうのの繰り返し。
産物をなんだかんだで、町に持ち込んで売っているから、完全にそういう物が納入されなくなると町の人も困る、なんてこともあるらしく、取り締まりもそうそう厳しくはないんだって。貧乏集落を没収したところで実入りがない、というのが、本当の理由だろう、って誰かが言ってたよ。
ただパッデ村は特殊です。
もちろんバレないように暮らしているんだけど、バレたらきっと接収されちゃうだろうって。
だって他所にはない作物もいっぱいだし、独自の文化は素晴らしいことになってるからね。
でも、この村の人たちは花の精霊である華さんに守られてます。
僕もお願いしたし、そもそも集落の人たちが華さんにいっぱいお祈りしてるから、敵対する人から村を隠してくれているみたい。
これって精霊の得意とするところで、妖精によって道を惑わしたり、結界で側に寄れない精神状態にしちゃったり、なんてことができてるみたいです。
それでも、もちろん、絶対見つからないとは言えないから用心は必要です。
もし話し合う前に相手が強硬手段に出てきたら、僕らも対処のお手伝いをしよう、って決めてるけどね。
パッデ村の人たちは、とっくに僕らの家族だから。
てことで、この大陸の拠点の1つは、ここパッデ村でもあるんだ。
もちろんドクの家もいいけど、あっちはそもそも隠れ家で、しかもドクが1人で住むための物。
一方このパッデ村のは、迎賓館なんて言っちゃうほどでかいです。
何人もで報告しあいっこするから、広い方が良いでしょ?
まぁ、ドクの家はそもそも普通の従業員さんたちじゃ出入りできないんだけどね。
そうそう。ちなみにこの迎賓館の2階には畳の部屋があるんだ。
モーリス先生が初めてここに来たとき、ジャパニーズカルチャーの代表である畳の上のこたつにミカンっていうのがやりたいなぁ、なんてつぶやいたのを聞いた村人が興味津々、僕とモーリス先生の話を聞いて作っちゃったんだよね。
ただし、温州ミカンみたいな手でむけるミカンは今のところ発見できてないんだよね。いつか発見できると良いなぁ。
今回アーチャがこの大陸にやってきたのはナッタジ商会の商船に乗って、だったんだって。
あいにくとエッセル号じゃないけど、ドク達の手が入っているから、それなりの立派なお船です。
サイズはエッセル号ぐらいで商船としてはそんなに大きくない。
というのも、このパッデ村へは川を遡ってくるルートで来たから、だそうです。
ちなみに、普通ならナスカッテの首都であるトゼの港につけるんだ。
ただ、今回はアーチャがウィンミンさんに呼ばれたってことで、速度を優先したらしい。このサイズならトゼにいかず、川を遡ってパッデ村の近くに泊めれば、半分の時間でいけるんだ。船足も速いことから、だけどね。
そもそもこの寒い時期に商会が北の大陸に来たのは、お米が理由だったりする。
つまり目的地がパッデ村だから、正直トゼに回る必要性もないんだよね。
トゼだとこの国の商人の人とか、偉い人とかと会って渡りをつけるっていうのかな、そんな販路を広げるまたは保持するための外交をするには良いから大きな船で行く方が多い。けど今回は、そこまでこの外交に利点があるわけじゃないから小さい船で川周りのルートにしてくれたんだ、そんな風にアーチャから聞きました。
商会の目的は今回はパッデ村。
秋口に収穫したお米でお餅にする方法は村人みんな覚えたんだけどね、それを薄く切って乾燥させる。その乾燥させた物を我が商会で買って帰るんだ。
知ってる?この乾燥お餅をあぶるとおせんべいができるんだよ。
乾燥すると日持ちするし、うちの新たな乾物として、結構人気が出てきてるんだ。
フフ。王子様業とか、冒険者業もちゃんとしてるけど、僕、ママのお手伝いで商会のお仕事=商品開発にだってちゃんと取り組んでます。エヘン。
アーチャと一緒にやってきた商会の人は、乾燥餅を荷造りしたり、船へと運び込んだりしてます。また、蜂蜜なんかも持って帰るのかな?
逆にパッデ村の人たちは、最近では金物を欲しがってくれるから、うちの製品とかも買ってくれます。ドワーフの仲間が増えて、日用品を金属で作ったら、結構ヒットしてるんだよね。
そんな感じで商会の人たちは普通のパッデ村での仕事をしていたんだけど、今回、こっちの大陸でレッデゼッサとか、ガーネオが何かをやっているらしいってことで僕が来たことから、二人?2組?の噂を集めるお手伝いもしてくれているみたいです。
で、その報告をしてくれるはず、ってアーチャが言うので、僕らもこの村へ来たってわけ。
僕らが到着して、村の人たちとお話しもしたよ。
村の人たちも一緒に噂を探してくれてるらしくって、感謝感謝です。
先に戻っていた商会の人、僕らの後から戻った人、いろいろお話しが集まってきたね。
僕とアーチャ、そしてアーチャと一緒に来ていたパッデ(ちなみにたまたまこの村で生まれて、村の名前をもらったんだって)で、もらった情報を精査することにしたよ。
噂、だからね。玉石混淆。
何か分かれば良いんだけれど・・・
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