第186話 精霊のお話し
コツンコツン。
僕とアーチャは家から出て、結界の外を見る。
あれ?グレン?
それは、結界を前足の爪でノックするグレンの姿だった。
『森の精霊にダーを手伝えと言われて、花ののところを通ってきたのだ。』
びっくりする僕たちに、グレンは事もなげに言ったよ。
どうやら以前グレンと使った道と同じように、南の大陸の森にある森の精霊のところから、この北の大陸の森にある花の精霊のところを繋げてもらったようです。
「えー。そんなことをできるんなら、こっちに何人か回してもらおうよ。」
宙さんの空間をまたぐのは難しいけど、グレンが来たルートなら安全だと思うんだ。
『無理だな。』
でもグレンはそう言ったよ。
『森の精霊は認めた者以外、ダンジョンコアに近寄らせないであろう。』
?
でも僕は何度も行ったよ?
あ、森の精が自分の場所にしているのは、グレン達のおうちの奥。
洞窟が小さなダンジョンになっていて、コアがある。
で、そのコアの力も使って、精霊の力としている、らしい。正直、僕にもどういうことかあんまり分かってないんだけどね。
ちなみに、ダンジョンコアってのは、ダンジョンの命みたいなもので、ダンジョン内でも特殊に区切られた空間に鎮座しているんだ。専用の小部屋があるんだよね。
森の精霊はその小部屋を自分の場所に変化させて、グレンだけをその部屋に入れている。あ、森の精霊の子供とも言うべき森の妖精は別だよ?妖精達は自由に出入りしている。ていうか、そこで生まれてる、もあるかも。
『精霊の下に招かれるのは、我とダーのみだ。』
うわぁ、知らなかった。僕、特例で入れてもらえたんだと思ってたけど、どうやらOKな人って扱いだったらしいです。
ちなみにランセルだってグレン以外は入室できないんだって。なのに律儀に洞窟や精霊を守っているんだから、入れてあげてもいいと思うけどね。
『そんなことできるわけないだろう?』
当然のように言うグレンだけど、うーん、その理屈は僕には分かりません。
「ダー。君は簡単にバッグを通ったり、精霊の道を通ったりできるけど、やっぱりそれは当たり前のことじゃないんだ。異界を通るっていうのは、世界を移動することと同じ。一度入るとこの世界とは別の世界に出ちゃうかもしれない。そんな怖いことでもあるんだよ。」
アーチャにそんな風に叱られちゃった。
確かに、違う次元をくっつけたりして通ってるんだもん、危険だし、簡単なことじゃない、ってのは分かるんだけどね・・・・
危険を今まで感じたことなかったから、みんなも使えれば便利なのに、って思っちゃいました。
『我も、あまり使いたいと思わぬ。狭間へと落ちぬとも限らんからな。』
まさかのグレンも、ドキドキしながら通ってたようです。
でもまぁ、グレンが来てくれて助かったよ。
戦力的にどうしようっていう問題も、かなり解消できるしね。
『ダーに役立つかもしれぬ情報があると、花のが言っていた。まずは、あれの下に参ろう。』
情報?
それはありがたいけど、なんだろう。
エアは分かるのかな?
ちなみにエアは花の精霊のところの妖精だった子。僕についてきちゃった妖精。
妖精って聞いて僕が前世でよくあった妖精の挿絵=羽の生えたかわいい小さな女の子、をイメージしちゃったから、そんな姿になってる特殊な個体、です。
いつもは、ほとんど重なってるちょっと違う次元に身体を置いてるけど、呼べばこの次元に現れたりします。出たり入ったり、妖精らしく気まぐれだけどね。
『エアも花ののところにいたぞ。』
あ、そうなんだ。
そういや気配、ないよねぇ。
まぁ、宙さんの空間を通るときは、いつもいないんだけどね。
精霊って自分のすみかを別次元に作るんだけど、その子である妖精はその次元に自由に出入りできるらしい。たとえどれだけ距離があっても、ね。
ただし、別の精霊の空間だと存在が消えてしまう可能性があるんだって。
だから、僕がバッグの中を通るときは、勝手にどこかへ行っちゃうんだよね。
でも、エアはなにかが僕と繋がってるらしくって、宙さんの空間を通って、全然別の場所に出ても、華さんの空間を使って僕の側に来れるんだ。よくわかんないよねぇ。
でもまぁ、なんの手がかりもなく樹海で転移に関係してそうな何かを探す、なんてことは難しい。小さな情報でも、大助かりです。
てことで、僕らは華さんのところに行くことにしたよ。
グレンにアーチャと二人またがって、さぁ出発です。
てことで、到着~
華さんのところって、樹海じゃない普通の森の中にあるんだ。
宙さんの空間は、宇宙空間みたいなもの。
森の精霊様は力をずいぶん減らしたとかで警戒心も強く、人を拒否している。
そんな感じで、僕の知る3人の内2人の妖精は自分の空間に他者を寄せ付けないんだけどね。
ここにいる花の精霊はちょっと違う。
他者がわちゃわちゃしているの大好きで、気まぐれにお祈りしてくれた人を、自分ちに招き入れたりする。
特に子供は大好きで、お花を供えてくれた子をご招待、なんて時々やってるらしい。
なんかね、精霊っていうのは思いが産み出すものなんだそうです。
で、思いが強ければ強いほど強い精霊になれる。逆に思いが減っちゃったら、力を失い最悪消滅するんだ。
てことで、こんな風に人と接触を持ち、祈られる存在ってのは、どんどん力をつけられる、らしい。
そのために自分ちに招いてる、なんて見えないこともないよね。うん
でも、割と純粋にふれあいを楽しむのが華さんの目的みたい。結果、良い方に作用してるんだけどね。
今日も誰かを招いたりするのかなぁ、なんて考えながら、僕らは華さんの結界の中へ入ります。
うわぁっぷ!
入った途端、妖精の突撃に遭っちゃったよ。
彼らに質量とか重量とか、そういうのはないんだけど、大量に突進されたら、一瞬ワップ!ってなっちゃうよね。
彼らが群がってくるのって、僕と遊ぼうっていうのもあるんだけどね、ハハハ僕の魔力目当ての食いしん坊さんなんです。
なんかね、おいしいんだって、僕の魔力って。
精霊とか妖精とかって、魔力がご飯みたい。自分に対する祈りは質の良い魔力と同じなんだって華さん=ここの花の精霊ね、は言ってたけど、不思議な感じです。
『だめぇ!』
妖精に群がられてる僕を救出したのはエアでした。
『ダーちゃまはわたしのなんだからね!!』
ハハハ、まさかの救出は独占欲からでした・・・
ぷんすかとみんなを牽制しながら、僕たちを華さんのところまで案内するエアに連れられて、小高い丘にあるかわいい小屋にやってきたよ。
小屋の前にはかわいい丸テーブルとおしゃれな椅子が用意されていて、華さんがにこやかに僕たちを迎えてくれたんだ。
僕とアーチャは勧められた椅子に座り、良い香りのハーブティーをいただく。
グレンにもなんだか良い香りのするお水を出してくれました。
「うちの子たちが、お友達から聞いたことなんだけどね・・・・」
ちょっとした世間話をした後、本題です。
てことで、華さんがこんな感じで話し始めたんだ。
あ、ちなみにうちの子ってのは花の妖精たちで、そのお友達は虫とか鳥とかなんでも移動をしてくる生き物みたいです。
僕らは、タールの魔物って聞いて樹海を思っていたんだけどね、花の妖精たちが仕入れた話だと、樹海じゃなくてもっと寒いところ、らしい。その寒いところに人間がタールの魔物をおびき出してるって言うんだ。
最初は樹海の方でもその人間を見たらしいけど、最近はずっともっと寒いところでおびき出してる、ってことなんだそう。
「そうは言っても、うちの子たちもお友達たちも樹海に長くは入れませんからね。樹海で何かやっている人間がいても分からないのです。」
とは、華さんの弁。
でももっと寒いところってどこらあたりだろう?
「以前あなたも近くまで行った場所ですよ。黒い魔物を倒したことがあったでしょう?」
華さんは優雅に微笑んだよ。
・・・って・・・・あそこかぁ。
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