第184話 洞窟風呂ではテンション注意

 「うわぁ、すっごーい!!」


 思わず叫んだら、

 すっごい、すっごごー、すっごー・・・・

 うわんうわんって反響もすっごいです。


 僕が寝ている間に、調査とかもしてたみたいなんだけど、その合間を縫って、ゴーダンたちってば、天然洞窟風呂を作っちゃってました。


 もともと、膝丈ぐらいの水たまりはそれなりの数あったんだよ。

 でも、洞窟の中はあちこち狭くなったり、小さな小分けした空間が連なった感じだったんだよね。

 小部屋と小部屋の間の厚みはそれぞれだけど、水がたまっている空間どうしは割と薄いみたいで反響音もしてたんだ。

 その壁を取ったら、そしてそれら水たまりをつなげたら、いい感じのお風呂にならないかな?そんなことを思って、やっちゃおうか、なんて言ってたんだけど、まぁ、知っての通りその場は阻止されちゃいました。


 でも、なんだかんだみんなお風呂が好きなんだよねぇ。

 ナッタジ商会って、全建物にお風呂ない?

 そんなレベルで、お風呂は日常だし、あったらテンション上がるもんね。


 で、僕のプランを、土魔法得意なゴーダンが中心に実現してたってわけ。


 ていうか、想像以上です。


 いい感じに柱みたいに元の岩が残ってるし、なんといっても鍾乳洞みたいになっててものすごく神秘的。

 しかもね、湯船は大中小3つもあったよ。

 で、それぞれ温度を変えた魔導具を沈めていた。ていうか、岩に直接魔法陣描いてるし。まぁ、このあたりはドクがチョコチョコってやったんだろうね。

 大中小と順番に温度は高くなってます。

 不思議だね。

 年齢が上がるほど、高い温度のお湯が好き、ってのは前世の僕の国と同じです。


 湯船とは別にシャワーもあるよ。

 シャワーっていうか打たせ湯?

 もともと岩から水がポタポタ落ちていて、この辺の地形を作ってたみたいなんだけど、その中でも染み出す水の多い辺りにちょっと小細工してパイプみたいにし、打たせ湯並みの水量を確保しているようです。

 ちなみにこれは全部水だね。魔法陣使って温めてないの。でも、そんなに冷たくないのは地熱でぬくめられているのかな?

 このシャワーを洗い場代わりに使うんだって。

 ちなみに排水は岩の隙間に自動です。環境とか考えるとだめかもだけど、自然に優しい石けんしか使ってないから、許容範囲、ってことでお願いします。



 お風呂は、ラッセイとナザとクジで入ったよ。

 この3人、ゴーダンに次いで頑張ったとかで、一番風呂一緒に行ってこい、って言われたんだ。

 ご苦労様です。


 「ちゃんとアーチャとかセスの人の言うこと、聞くんだぞ。」

 お湯につかりながら、そんな風に言うのはクジ。

 もともとクジってばお兄ちゃんぶって注意することが多いけど、成人してからは特に小うるさくなったよね。

 「ダー、聞いてる?」

 「はいはい聞いてるよ~。」

 「はいは1回。」

 「はぁい。」


 そんなやりとりを見て、ラッセイが笑ってるよ。

 最近はおふざけが減って、一緒に怒られてくんないのが玉に瑕。

 「あれはミランダが怖いからだぜ。」

 ナザがこそこそと僕に言ったよ。

 どうやら、近衛騎士としてお仕事することが増えて、ラッセイに対するミランダのチェックが厳しくなっているらしい。

 二人とももともと貴族なんだけど、厳しく貴族のお嬢様として教育されたミランダと、ある程度放任っぽく育ったラッセイとでは、貴族スキルの差がすごいんだって。


 ピュッ!


 ナザがそんな告げ口を僕にしていたら、お湯が弧を描いて飛んできたよ。

 ナザの眉間に直撃だ。

 びっくりしてその発射地点を見たら、ラッセイだった。

 ラッセイがなんか鳩の影絵するみたいな手でお湯から水を飛ばすんだ。

 ピュッピュッ!

 気づいた僕らに、連続技だ。

 キャッキャッ言いながら避けたんだけど、何それ?


 「サダムに教えてもらった手遊びだ。エッセル様が教えてくれたって言ってたぞ。ダーは知らないのか?」

 ?

 どういうこと?


 ラッセイに聞くと、前世でお風呂でする遊びだって言って、ひいじいさんが子供たちに教えたらしい。それを以前、たまたまお風呂が一緒だったサダム=バフマのパパだね、に教えてもらったんだって。

 そんな遊び、記憶には・・・・ないなぁ。

 ていうか、そんなことして叱られなかったのかなぁ?

 まぁ、ひいじいさんの教えたことなら僕たちも伝承しないとね。

 てことで、ラッセイに教わって、ピュッピュッです。


 意外と難しいです。

 どうやら手のひらどうしで空間を作る必要があるんだけど、僕の手は小さすぎるみたい。

 一人負けは悔しい!!

 よし、そうだ。

 魔法でちょっとぐらいズルしても・・・て、


 バッシャアーーーン


 あ、やばっ。

 クジに直撃して、すっ飛んじゃった。


 「ダ・ァ・ア・~!!!!」


 一瞬脳震盪か、気を失って沈んだクジ。

 けど、それはほんの一瞬で、クジの声とは思えない、地の底を這うような声を出して、ゆっくりとクジは立ち上がったよ。もちろんまっぱで。


 「ご、ごめん。」

 「ごめんですめば憲兵はいらない。」

 そう言うと、まさかの跳び蹴りを放ってきた。

 うわっ、と・・・・

 なんとか避けたけど、後ろに下がったらちょうど動線がラッセイの前だったみたいで、ラッセイに手で払われるし。

 地面との激突を交わすために手を伸ばしたら、今度はナザの首を持ったみたいで、「ゲッ」て蛙が潰れたみたいな声がした。


 そこからは、よくわかんない。


 気づけば4つどもえの状態で、バトルです。


 どのくらい暴れたのか、ってそんなに長くはないんだけどね、すぐに怒り狂ったアンナが来て、熱風でまとめて捕まえられちゃったよ。

 そのまま正座&お説教コースに突入です。

 男4人。

 まっぱで正座。

 テンションが上がってたとはいえ、お風呂は礼儀正しく静かに入ろう、そう決意した夜でした。

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