第182話 寝ている間の出来事

 知らない天井だ・・・

 アハ、嘘です。

 そもそも天井って言っていいのかな?

 むき出しの洞窟の岩壁ならぬ岩天井?

 ここは・・・・

 アジトにした洞窟の、僕のベッド、だよね?


 『目が覚めたか。』


 ほっとしたような念話が届き、真っ赤な毛並みがヌーッと顔の前に突き出されたよ。


 「グレン・・・」

 『・・・ダーよ。驚かせるな・・・』

 「えっと・・・?」

 『覚えておらぬか?』

 「んと・・・ううん。多分覚えてる・・・と思う。」

 『そうか。しばらくここのままでいろ。我はを呼んでこようぞ。』


 ペロッと大きな舌で僕の顔を一舐めすると、伏せの状態からゆっくのと立ち上がったグレンは入り口の方へと去って行ったんだ。



 僕らはレッデゼッサの会頭が来たってこともあり、怪しげな魔導師を同行していると聞いて、みんなで敵のアジトへと向かったんだよね。

 そこで魔導師と相対して、そんな中瘴気が満ちたんだ。

 その瘴気はやばくて、みんなフラフラになっちゃった。

 で、僕は焦って、力の限りホーリーを唱えて・・・そこからは記憶がないや。


 そんな風に僕が記憶をたどっていたら、バフマがやってきた。


 「目が覚めましたか?」

 珍しく泣き笑いのような表情。

 心配かけちゃったかな?

 「あなたはまた無茶をして・・・魔力欠乏でしたよ。」

 うん。そんな気がしてた。力のセーブとか考えられる状況じゃなかったんだ。


 「みんなは?」

 「今、と言う意味でしたらみんな出払っています。」

 「出払ってる?」

 「あなたが倒れてから3日目の昼ですからね。」

 「うわぁ。そんなに寝ちゃってたんだ。」

 どおりで体がバキバキです。

 僕は差し出された薄いスープを飲みながら、今までの出来事をベッドで聞くことにしました。



 ホーリーの魔法は、爆発のような感覚を広範囲に届けたようです。

 レッデゼッサからけんか別れをした冒険者たちをちょっと前に確保したヨシュアたちは、すぐに僕に何かがあったと思って戻ってきたんだって。

 ホーリーの魔力が霧散した後そこに戻ってきたヨシュアたちは、僕らが倒れているのを見つけて、とりあえずランセルに乗せてアジトに戻ったんだそう。

 まぁ、僕以外は戻る途中に気づいたみたいだけどね。

 ちなみに、レッデゼッサの一味は誰もいなくって、転移の魔法陣はホーリーのせいか真っ白に朽ちていたらしいです。



 捕まえた冒険者たちから聞いた話として、あそこへはバルボイの領都近くに広がる、レッデゼッサの関連施設の牧場から順次転移してきたんだって。

 この南部地域は町の中というか外というか、まぁ周囲には魔物を食料や研究とかに使うために育てているようなところもあって、初めて南部についたときには、僕もその牧歌的な景色にテンションを上げたっけ?

 そんな牧場の中には特殊な方法で育てているモーメーの牧場があって、それをレッデゼッサの関連会社が持っていた。

 特殊な方法?

 どうやら瘴気を帯びたものを食べさせる、的な奴で、肉や乳をおいしくなるよう育ててた、って認識らしい。うん。ダンシュタや王都にもいっぱい入ってきていたモーメーは、ここで作られたやつだったみたいです。


 で、その牧場の一角には転移の魔法陣があるんだって。

 転移の魔法陣には多くの魔力を使う。

 昔、ザドヴァでは1から数人の魔導師の命までを使って運用していたんだけどね。

 どうやら、ガーネオってば、その魔力を黒い魔力を用いて確保する方法を見つけたらしいです。

 使用上の注意としては、特殊な布で口や鼻を覆うこと。

 それは魔法に強い魔物の皮を使ってて、空気の層をつくる魔法陣を施したもらしい。そんなのを転移の魔法陣を使うみんな持ってたらしい。

 それで口や鼻を塞いで、極力魔力を体内に入れないようにするんだって。軽い酩酊状態にはなるけど、それで瘴気に侵されるのを防ぐようです。

 まぁ、この仕組みが分かったのは、その布をドクが調査したからなんだけどね。所持人の冒険者たちは、危険な魔力を防ぐ布、的な意識しかないようだったって。


 ないようだったって、って僕が言うのは、僕はその冒険者を見てないからです。

 一晩寝て、次の日の昼過ぎには、ディルとリーク、そしてミランダとラッセイの4人で、最果ての町まで連行していったらしい。

 どうやら、パクサ兄様はまもなくバルボイ領都に着くようで、最果ての村から南部の騎士や憲兵たちに身柄を引き渡し、そのまま領都に連行してもらう予定だそう。

 南部の事件、ていう意味では、その捜査は兄様たちに任せればいいからね。

 僕らが気になってるのは、瘴気の方だから・・・



 「まだ帰ってきてないところを見ると、手続きに時間がかかっているか、手伝わされているのでしょうね。」

 とは、バフマの弁。



 また、ドクとゴーダン、アンナは、敵のアジトの調査に、連日、行ってるようです。

 なんかね、あの石の小屋、例のタールの魔物を入れた壺の置き場だったらしい。

 転移の魔法を使うために、いくつかを持ち出そうと、短剣の人が飛び込んだんだって。


 なんでも、ガーネオがキレて騒いでいる隙に、冒険者?用心棒?まぁ、残ってた剣士やら魔導師やらが、裏から主人たちを脱出させようとしたんだって。

 それを待ち構えていたアンナとミランダが阻止しようとした。

 アンナが炎の壁で軽く取り囲んだところまではよかったんだけど、短剣の人がすごいスピードで炎の中を突き進んで突破したんだって。

 どうやら短剣の人は魔導師だったようで、自分の体に風と水で膜を作って炎の中を走り抜けたらしい。その逃走を手助けしたのが、魔導師の男だったみたいで、剣士の女が会頭とガイガムを守ってたって。ひょろ長い人は、へっぴり腰でその後ろをついてきてたらしい。


 ミランダも風の魔法を使うけど、もう一人の魔導師もどうやら風を使うみたい。

 それに珍しい無属性っていうのかな?純粋な魔力を使って結界を作り、その中から針状にした風の刃を吹き出すんだって。

 ミランダが言うには、短剣の方も魔導師の方も、守りに特化した魔導師っぽいようで、特に短剣の方は完全にミランダを無視して石の小屋に向かって走り、魔導師の男がそれを助けてミランダを妨害した。

 そんな中、小屋に到着した短剣の人。


 中に入ると同時にパリン、と壺の割れる音がして、一気に瘴気があふれたんだって。

 パリン、て、音は、何回も聞こえた。

 たくさんの瘴気にフラフラするアンナとミランダ。

 一方、敵の方は布を取り出して、口元を押さえている。

 なんか、商人らしき人たち=会頭、ガイガム、ひょろ長い人は、すっぽりと頭から布をかぶったらしいよ。


 女剣士が、商人たちを誘導して逃げ出すのに、時間はかからなかったらしい。


 そうこうする間に、二人は立っていられなくなったってわけ。



 瘴気の発生場所から近かった二人は僕のホーリーに気づく前に気を失ったようです。


 一方、僕のそばにいた二人=ドクとゴーダンは僕のホーリーまでは意識を保ってたみたい。

 そのあとはさっき言ったみたいに、ヨシュアたちに発見されてここまで運んでくれたってわけ。



 ミランダたちが捕らえた冒険者たちをつれて最果ての村へと向かった後は、ドク率いるゴーダンとアンナの小屋探索チームと、ヨシュア率いるバンミ・クジ・ナザチームに分かれてるんだって。

 ヨシュアのチームは、ホーリーの影響を調べて森の中へ。

 小さな瘴気痕がいくつか見つかったんだそうです。

 ところどころ白い大地があったみたい。

 やっぱりこの辺りは、魔力量が北の大陸並みに多いところがあるようです。


 それと小屋だけど、ドクたちが行くと、壺が全部割られていたそうです。

 とっさに瘴気を武器にしたんだろうね。

 壺を割ったせいで閉じ込められて凝った魔力があふれてあっという間に人が生きるのが難しい濃度まで魔力が増えたんだろう。

 そんな中、敵の魔導師たちは、魔法陣を発動するためか、他にもあるのか、壺を持てるだけは持って逃げ無理なのは割ったってことかな。

 ここらが魔力に汚染されることも分かった上での強行だったんだろうけど、僕のホーリーで、瘴気の無力化はされたようです。

 ホッ。



 とまぁ、今はそういう状況。

 てことでみんな出払ってるんだね。

 今は、ヨシュアたちはさらなる瘴気痕を捜しに、ドクたちは木の方の小屋も物色しに行ってるみたいで、僕はもう一眠りすることにしたよ。

 まだ魔力は完全には戻ってないみたいだ。

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