第181話 ガーネオ
ガガガガ・・・
開かれた扉の向こうも破壊し、強化されていた木の小屋を半壊させたガーネオ。
ヒィッ!!
なんとも素っ頓狂な悲鳴を上げたのは誰だったのか。
ただ、剣士の女の人はそれなりに優秀だったのか、固まっていたガイガムの服を引っ張って、自分のそばに引きつけ、瓦礫から守っていたように見えた。
ひょろ長い人は頭を抱えて座り込んでいて、その横で太った男の人=服装から会頭だろうけど、は、呆然と立っていた。
魔導師らしき人は、とっさに扉へ向かって結界を張ったのかな?
その人の周りに半円形で瓦礫が落ちていて、そのおかげか中の人はほぼほぼけがはなかったようです。
「思ったより優秀じゃねえか。」
そんな彼らの様子を見て、ゴーダンがからかうように言ったよ。
「にしても味方も巻き込むかね。」
ニチャって感じで、ゴーダンはさらに続ける。
けどガーネオは耳に入ってないのか、歯ぎしりしながら、でもって、まだうなりながら、僕をにらんでいたよ。
でも、なんで?
僕は確かに彼の計画を阻止したメンバーではあるけれど、任務を失敗させた嫌な奴かもしれないけれど、それだって別に僕だけがやったわけじゃない。むしろたくさんのメンバーの中の一人だと思うんだ。
「おまえのせいで・・・おまえのせいで・・・・」
ガーネオは、うなされたようにずっと言ってるよ。
うー、悪い夢を見そうです。
「ガーネオよ。うちのアレクが気に入らんのかもしれんが、どちらにしても貴様は終わりじゃ。詳しい話を聞くから、おとなしく捕まってくれんかのぉ。」
ドクが僕のことを隠すように前に出ながら穏やかに言った。
ガーネオは、小屋を潰すぐらい強い魔法を放ったけど、ドクが展開した決壊は砂粒一つもこちらに届けてはいない。その力量差は明らかだった。
でも、ガーネオは敵意をまったく沈めない。
どころか、さらに血走った目を僕とドクに向けて、絞り出すように言った。
「気に入らない?気に入らないだと?ふざけるな。そんな生やさしいことであるはずがないだろう。いいか。私は努力した。努力し続けたんだぞ。足りない魔力を補うために多くの魔法陣を作り出し、誰よりも認められたんだ。リヴァルド様には、希代の天才と喜ばれ、魔力量だけで粋がっていた奴らを使い潰してやった。それを、おまえらは、おまえら天才は、涼しい顔でぶっ潰したんだろうが!!!はぁ?何が天才だ、何が至宝だ!幼児で戦略級魔法を操る、だ?私の強化した魔法を打ち破る?
ふざけるな!!私は、私は、天才だぞ。リヴァルド様に認められた、ワージッポ・クグラノフを上回る魔法陣の天才なんだ!!私には天才にふさわしい華やかな未来が約束されていたんだ!なのに、そのふざけたガキのせいで、ちょっとばかりきれいな髪を持つってだけで、全部、全部かっさらわれた。私は任務を失敗し、リヴァルド様に失望され、ガキの捕縛という、しかも面通しだけの任務に左遷された!来る日も来る日もガキの顔を見るだけの仕事だ。ふざけるなふざけるなふざけるな・・・そうだよ。そうとも。その顔だ。その、ガキのくせに無駄に整ったその顔だよ。ハハハハ、見つけたぞ。見つけた。おまえをリヴァルド様の元へ連れて行けば、私は元のエリートに戻れるんだ!!!」
体をゆらゆら揺らしながらそんな風に一人でわめくガーネオに、僕はものすごく怖いものを見たよ。
だいたい、もうリヴァルドは失脚して、精神を壊しているって聞いた。
だから、僕を連れて行っても、誰も褒めてはくれないんだよ?
「行かせない!!」
ギャッ!!!
そのとき、小屋の向こう側で、火の手が上がった。
火の壁が立ち上がっているのが小屋越しに見えたよ。あれはアンナだ。灼熱の砦なんていう二つ名の元になった火の壁が、小屋の向こう側に展開したようだ。
僕らの視線は、ガーネオも含めて一瞬そちらに向く。
どうやら中にいた人たち、こちらの騒動にチャンスとばかり、こっそり反対側から脱出を図ったみたい。
でもあっちには、アンナとミランダがいる。
ギャッ、とかワァっとか聞こえるよ。
「待て!」
ミランダの声だ。
誰かを取り逃がしたのかな。
彼女の風の刃が、防がれた気配を感じた。
一人が、多分性別不明の短剣と小盾の人かな、・・・ん?石の小屋へと向かってる?
「なっ!」
僕の意識がそちらに放れていると、ゴーダンが小さく驚いて、構えなおすのを感じたよ。と、同時にドクの結界が強められる。
僕はそれにビクッてなって、ガーネオに視線を戻した。
ガーネオは懐から小さな壺?香辛料を入れるような小さな瓶を出していた。
それは手のひらにほぼ隠れる程度で、石をくりぬいて作ったもの。蓋も色の違う石で作られているよう。
ガーネオはその瓶の蓋を歯で挟み勢いよく抜いたんだ。
あ、あれは?!
蓋が開いた瓶からは、強力な魔力が湧き出した。
最近見慣れたあの魔力。
そう。黒い魔力だ。
黒い魔力は一瞬吹き出すように噴水みたいに出てきたけど、ある一点へと吸われるように向かったよ。
それは、ガーネオの胸にかかったペンダントへ、だった。
狂気に満ちた演説を身振り手振り激しく動かして行っていたガーネオのフードのついたマントは大いにはだけ、首からかけられた、見たことのあるような魔導具のペンダントが露わになっている。
そのペンダントへまるで吸われるように入ってて行く黒い魔力=瘴気。
言わずもがな、黒い瘴気の魔力は濃い。
あのペンダントは人の魔力を必要以上に引き出すものだったと思ってたけど、どうやら魔力の集積能力も追加されているみたい。
黒い魔力はペンダントに吸い込まれ、練られて、ガーネオの内へと入っていく。
そしてその魔力をガーネオは自らの魔力に取り込み、何やら変形させているよう。ブツブツと詠唱を行っているのに合わせて、合体した魔力がうごめいているのが、僕の魔力を捉える目には映っていた。
「朽ちろ!!!」
詠唱が終わったガーネオが叫ぶ。
両手を僕らに向けて魔法を放つ。
それは、今まで放ってきた、一応はペンダントで強化されていた魔法の比じゃなくて、僕らを包むドクの結界すらやばい!!
「ホーリー!!!」
僕は思わず叫ぶ。
今にもドクの結界が壊れる、と同時に僕はホーリーを唱えていた。
白い魔力が炸裂する。
ガーネオが放った魔法には瘴気がたっぷり含まれているのが見えたんだ。
ガーネオの魔法はドクの魔法を打ち砕いたけど、ホーリーに触れて、どうやら白く朽ちていったよう。
土がバラバラと白くなりながらも、まだこちらに迫るけど・・・
「こんのぉ!!」
ゴーダンが大きな剣を振り回し、もろくなった土を跳ね飛ばす。
ボワン
ドクもすぐに壊れた結界を張り直し
パラパラパラパラ
さっきより軽い音をして土は進行を阻まれ、地面に降った。
「なっ・・・」
自分魔法が、とっておきの強化された魔法が防がれたことにショックだったのか、ガーネオは固まって、徐々に崩れていく。
今なら捕獲できる?
ゴーダンも同じ考えなのか、崩れゆくガーネオに向かい足を踏み出そうとした・・・んだけど・・・これは!
ウッ
急に広まる瘴気の渦。
何が起きた?
思わずふらつく僕たち。
「何をしてる。行くぞ。」
目の前に影が浮かぶ。
魔導師の人か?
ガーネオに何か言っている?
魔導師の男は、布のような物をガーネオの口に当て、肩を貸しているようだ。
引きずるように、ガーネオを連れて動いていく。
(待て・・・)
僕は瘴気に当てられてふらふらしながら、そう言おうとして、けど、口が動かなかった。
瘴気のせいか、体が言うことをきかなかった。
かろうじて生きてる感覚は魔力検知のみ。
それで、仲間がみんなうずくまっている様子が感じられる。
対して、石の小屋からや、木の小屋の向こうからよたよたとではあるけどとある場所に集まってくる者たち。
彼らは・・・転移の魔法陣に集まっている・・・のか?
男女不明のあの短剣の人と魔導師の男が石の小屋から何かを、ううん今更だ、タールの魔物が入っているであろうあの壺をいくつも抱えてきたのが感じられる。
と・・・
ガシャン!!!!!!!
短剣の人が壺を1つ大地に、ううん、転移の魔法陣に、たたきつけた。
一泊置いて、瘴気が立ち上がり、もれなく転移の魔法陣へと吸い込まれる。
そう。ガーネオのペンダントへと吸い込まれたように魔法陣へと吸い込まれていく。
その間、長い詠唱か。
魔導師の男が何やらブツブツ言っている。
展開する?
魔法陣が展開する?
止めなきゃ。
それにこの瘴気の中では、魔力が多いメンバーで残っていたとはいえ、僕らも危険だ。
でも、頭がモーローとしていて、僕は自分が立っているのか転がっているのかすらわかんない。
みんなは?
みんなも、か?
やだ。
このままじゃみんな瘴気にやられちゃう。
死ぬの?
それとも・・・僕らがタールの魔物に・・・
やだやだやだやだ
「ホーリー!」
僕は最後の力を振り絞って、すべての魔力を解放した。
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