第180話 あの人は・・・誰?

 「どうなってんの?」

 バフマ、クジ、ナザ以外の全員と、ランセルに乗って小屋のある場所に到着した僕は、思わずそう言ったよ。

 現場には複数のランセルと、ミランダ、リークがいた。


 本来は、そこには認識阻害の結界があったから、周囲と同じく深い森がつながっているようにしか見えないはず、なんだけどね。

 ミランダたちは、結界の中ではなく、ちょっと離れた木陰に身を潜めていた。

 小屋は見えるけど、ある程度の距離をとった場所にね。


 そう。

 小屋が見えるんだ。

 木の小屋と、その周りのちょっとだけ開けたところ。そして転移の魔法陣。

 しっかりと僕らの目にはそれらが見えた。

 ちなみに石の小屋は木の小屋の向こうだから見えません。


 ミランダたちが結界から離れているのは、グレンたち僕らと一緒に来たランセルたちが発見して、そのすぐそばに僕らも身を潜めたんだけどね。


 これって、結界がなくなってる?


 「しばらく小屋の中で言い争いがあったようです。先に到着していた冒険者たちが商会側ともめた、という感じでした。どうやらそれが言い争いから直接的な暴力に変わったようで、突然結界が消失。数名が武器を手に小屋から出て行きました。ランセルが2頭、後を追っています。」

 ミランダが口早に報告したよ。

 小屋から出てくる気配を感じたミランダたちは、ここまで下がったみたいです。


 「争い?」

 「約束が違う。とか、報酬がどうの、と聞こえました。」

 リークが言う。

 そっか。

 こんな小さな小屋だし、ずっと閉じこもってたらストレスもたまるよね。


 「出てきた冒険者たちからは血のにおいもしていましたし、魔法も使っていたようです。多少の金銭を奪った、という感じでしょうか。」

 ミランダの見立てでは、戦闘があったのは間違いなさそう。

 にしては、小屋が壊れてないなぁ、なんて、ちょっぴり思いました。

 それはドクも同じ意見みたいで、

 「どうやら木の方の小屋も、強化されているようじゃのう。」

 て、言ってます。

 ちなみに石の方は封印の効能っていうか、そういうのの内容として不壊の効果があるやつみたいです。まぁ不壊って言っても100パーセントじゃないから、正確には難壊、て言うべきかな?


 「ヨシュアはラッセイとディル、リークを連れて、冒険者の方を追ってくれ。状況を把握したい。できるだけ生け捕りな。他は俺と小屋を確認だ。アンナはミランダと裏を頼む。」

 みんなはうなずいて、それぞれ散ったよ。

 ちなみにランセルが追っていった冒険者たちだけど、ヨシュアたちはランセルに乗ってるから匂いで追えるんだって。


 僕は、ゴーダンとドクと一緒に小屋の正面に回る。

 ゴーダンが先行して、扉から中を伺う形だ。

 僕は後方から、小屋の中の様子を探る。

 「1、2、3と・・・ガイガム入れて全部で7人かな?って、索敵に気づかれた。多分魔導師の男。」

 僕は前半は小声で、けど、気づかれたことをアンナたちにも知らせるために後半は大声で言ったよ。


 僕に気づいた魔導師が、それまでゆったりしてたのに、慌てて小屋から出てきた。

 ってか、ものすごい圧だ。

 僕に対して恨み?

 そんな感情で思わず飛び出た、って感じで・・・・


 人が近づく気配に、扉近くにいたゴーダンは、とっさに下がる。

 と同時に大きな剣を出てくる相手に構えた。


 相手も、扉を開けると同時に、強烈な魔法?

 これは土の塊、かな?

 ゴーダンはさらに下がって僕らの前で、打ち出された土をいくらか弾き飛ばし、ドクが3人を守るように風の性質を帯びた結界を張って、跳ね返す。


 出てきた男は、会頭と一緒にやってきたフード姿の魔導師ってやつだろう。

 魔法に対して防いだのはゴーダンとドクだってのに、フードに顔は隠れていても、まったく隠さない悪意に満ちた視線が僕に、僕だけに注がれている。


 さっきの魔法の威力といい練度といい、こんな強そうな魔導師に恨まれる記憶なんてないんだけれど・・・


 「何もんだ!」

 ゴーダンが誰何する。

 男は完全に無視しているが、ウーウーと、まるで獣がうなるようにうなる声が不気味に響く。


 カタン


 そんな彼の後ろから覗くのは、レッデゼッサの残った人たちか。

 メイスを携えたガイガムに剣を持つ女、そしてでっぷりした男とひょろ長い男。

 短剣と小盾を持っているのは顔が見えないから男女すらわかんない。

 もう一人は杖かな?これは多分男の人。けど、この男の人は切られて重傷って感じ。出ていった冒険者にやられたのかな?

 冒険者にやられたっぽいのは、さっき出たひょろ長い男もそう。こっちは殴られたっぽく、目の周りが青いし、唇からうっすら血が出てる。


 で、


 カタン、って音を鳴らしたのは、殴られたっぽいひょろ長い人だった。

 立ち上がったイスに寄りかかっていたようだけれど、イスの脚が浮いたんだろう、カタン、って音が鳴ったんだ。


 カタン


 ていうその音で、にらみ合っていた空気にブレイクが入る。

 ていうか、僕が思わず視線をそちらに向けちゃったんだよね。


 「何をよそ見している。」


 フードの男がうなるような声で言った。

 「この化け物が!!!」

 男はそう叫ぶ。

 体全身でそう叫んだ男のフードがはらりと後方に落ちる。


 ・・・?


 だれ?


 目は血走っていて、肌は土気色。

 ガリガリで頬もこけていて、髪はバサバサ。

 その目も感情も、憎悪に満ちていて、まっすぐにそれが僕に向いているのはわかる。

 だけど・・・


 誰?


 「だれ?」

 思わずつぶやいた僕の言葉に、目の前の魔導師の体がピクンってはねた。


 「誰、だと?」


 相手のボルテージがさらに上がる。

 魔導師はマントの中に手を入れて、胸元で何かをつかんだみたい。


 「誰、だと!!!ふざける-----!!!」


 さっきよりも激しく土の塊が繰り出される。


 バババババ・・・・


 ドクの結界は全然無事だけど・・・

 ドクの顔は、あんまりみないぐらいに怖い顔。


 「無詠唱か。」

 ゴーダンのつぶやきに、そういえば、って僕も気づいた。


 魔法は詠唱が大事。

 この世界の常識。

 でも詠唱なんて正直関係ないんだよね。

 魔法はイメージ。

 詠唱は本当はイメージを固定しやすいから生み出されたんだって。

 師匠から伝えられたちゃんとした詠唱で魔法が発現するって信じ込みやすいって話。

 イメージがおろそかだと魔法は発現しないか、しても弱くなる。

 だから詠唱をなくしたり省いたりして、魔法の強さは諦めて早さをとる、なんて戦法も、高度な魔導師ならできる、らしい。


 てことは、この人は高度な魔導師?

 だって、無詠唱でもこの威力。


 「魔導具、じゃな。」

 僕の思惑に反し、ドクがそんな風に言い、ゴーダンがうなずいた。

 「例のペンダントってやつか。」

 「じゃろうな。」

 「まぁ、生みの親だし持ってて当たり前か。」

 「え?ゴーダン、あの人知ってるの?」

 「なんじゃ、アレクは覚えてないかのぉ。まぁ、小さかったしの。」

 「?」

 「ダー、ミモザのザワランド子爵は覚えているか?」

 「そりゃ、まぁ。」

 「あそこにいただろ。魔導師のガーネオ。奴だ。」

 ???


 エーーーッ?


 全然イメージが!!

 っていうか、顔まで覚えてないよ。


 うん、いました。

 前のミモザの代官ザワランド子爵。そこにブレーンとして子爵を唆していた人だ。確か、変なペンダントを作ってた魔導師。

 それに、あの転移の魔法陣とか、あれもガーネオが作ったって聞いた。

 ザドヴァの魔導師でリヴァルドの弟子、だったっけ?

 超優秀、らしいけど、性格と魔力量に難あり、だったっけ?

 あんまり印象なくて忘れていたよ。


 僕は、二人に教えられて、「あー。」って、うなずいた。


 「ふざけるなぁ!おまえさえいなければ私は、私はぁっ!!!」


 爆発した魔力がコントロールされず、こっちだけじゃなく後ろにも飛んでいく。


 ガガガガ・・・


 開かれた扉の向こうも破壊した石つぶては、強化されていた木の小屋を半壊させたんだ。

 

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