第175話 いつか見た・・・

 「おんなじだよね。」

 「ああ、同じだな。」

 僕とゴーダンがそうため息をつき、ヨシュアが険しい目をに向ける。



 ここは南部にある前人未踏の森の中、ということになっている場所。

 切り開かれていない森の中は魔素が濃いとでも言うのかな?なんていうか、森でないところより魔力が満ちている。

 まだ人の入ってない地は、人が入っている地よりも魔力が満ちていて、そのせいなのかそこに住む魔物たちも強い、っていうのは、この世界では常識なんだ。

 そして、この世界で、知られている2つの大陸のうち、北側は魔力に満ちていて、南側は逆に魔力が少ないのも知られているところで、そういう意味でも北は強い魔物が多く人が住みにくいから、かの地から逃げ出した人たちが南の新大陸に住み着いた、というのは少なくとも北の大陸に住む人にとっては常識で、逃げ出した人々として嘲りの対象となっている、っていうのもよく知られた話。


 ただし。


 この大陸でも人類未到の地は人が住む北の大地と比べても魔力は多いんだよね。

 そりゃ、北の大地でも特別に魔素が濃く魔物の版図として知られる樹海とかは別として、人の版図にある森とこのあたりで比べると、そう遜色ないんじゃないかって思うんだ。まぁ、北の普通の森が南の大陸の未踏の地と同じ程度っていうことで、北の方が危険、ではあるんだけれど・・・



 まぁ、そんな未踏地とされているこの辺りではあるけれど、今僕の前には、小屋レベルではあるけれど、どう見ても人が作ったであろう建物がある。うん。未踏地じゃなかったってことだね。

 でね、この建物の周りはちょっとしたスペースが作られてはいるんだけどね。それこそ馬車の2,3台は止まれるスペースが。

 けど、そこに至る道は、んだ。


 僕らは拠点とした崖の上の洞穴からランセルに乗って、雨が上がってぬかるんだ大地を木々の幹も踏みしめながら、前世換算でたったの5分ほど走って、この近くに到着した。

 うん近くだね。


 でね、そこには認識阻害をする結界が張ってあったんだ。

 注意深く見ると気づくんだけどね。

 人も魔物も、そこにあると思って近づかなくちゃわかんないような結界。


 よくこれに気づいたね、って言ったらね、グレンたちはあのタールの魔物の気配を感じてこの近くにやってきたんだって。

 あれが危険だって知ってるし、気配は分かってるから、森の精たちがあちこちチェックはしてるらしい。そんな中突然現れた気配に仲良しのグレンたちを呼んだみたい。

 この結界は、さすがにあのタールの気配を消すことはなく、グレンたちはここにある結界に気づかずに近づいたみたい。

 だからって、グレンたちに中にいた人は気づかなかったらしいから、この結界は認識阻害だけして触れたものとか入ってきたものの感知まではしないようだ、って僕らもんだよね。



 まぁ、そんな感じで認識阻害の結界をそおっとくぐり抜けた僕たちの目の前には、まぁ、さっき言ってた小屋が現れた、ってことなんだけど・・・・


 「おんなじだよね。」

 「ああ、同じだな。」


 そんな言葉を交わす僕らの前に、昔々、まだ僕が王子になる前の冒険で何度か目にした、胸くそ悪くなる魔方陣が、小屋の近くの開けた場所に描かれていたのが目に入ったんだ。



 魔方陣。


 それは、魔力を通すと魔法が発動する、一種のプログラムみたいなもの。

 その第一人者として有名なのはなにを隠そう我が仲間ドクことワージッポ・グラノフ博士だ。

 そして世界中で様々な魔方陣を開発しては名をあげようとしたり、一攫千金を夢見る魔方陣の開発者がいる。


 まぁ、それはいいとして、魔方陣は一種のプログラムって言ったように、図柄と文字で指定した魔法を魔力を使って発動するもので、基本的には魔力を媒介とする魔石に流して発動する。魔石にもある程度魔力を保存していて、その魔力を回路に流すのに使用者の魔力がいるって感じかな?魔石の中の魔力をつんって押す、的な?

 そして場合によっては、魔石を通して使用者の魔力も使って魔法を発動するってのもある。

 一般人が使うようなのだと、軽く押すだけの魔力でOKだけど、魔導師が使うことを前提としているものは使用者の魔力をあてにしたプログラムになってる、って言うのが正解かな?


 そして・・・・


 今、僕らが見つけたのはでっかい魔方陣で、大地に直接描かれている。


 そして、この魔方陣を僕らは見たことがある。

 我が聖王国と、そして隣国ザドヴァで、だ。


 そうそう。

 魔方陣てね、さっきも言ったように魔力を使って魔法を発動するんだ。

 魔法って言っても簡単なのから複雑なものまで多種多様。

 だけど、それでも誰でも知っている法則がある。

 強い魔法ほど多くの魔力が必要だってこと。

 魔方陣に魔力をいくら注いでも、必要量が足りなきゃ魔法は発動しないってことと。


 そして、僕らは知っている。

 強引に魔力を引き出す魔方陣があって、本来なら人として当然の防御反応が起こるはずの過剰魔力の吸い上げを行う方法が、もちろん邪法とはいえ存在するってことを。

 過剰に魔力を引き出すとどうなるか。

 普通は気絶したりして、体が拒否するんだけどね。

 この拒否反応を無視できれば、おそらくは生命維持に必要な力をも引っ張り出してしまう。そしてその後訪れるのは、だ。


 その昔、僕らの敵となった人たちは、人が死ぬまで魔力を引き出し魔方陣を発動させる、なんてことをしていたんだ本来不可能な魔法を発動するために、ね。


 そして、今僕らの目の前にあるのは、そのときに彼らが発動させていた魔方陣と同じものだった。

 この世界では不可能だ、とされる転移の魔方陣。

 必要魔力が多すぎる、そんな魔法。

 ダンジョン、と呼ばれる不可思議な空間でのみ確認されているその魔法。

 かつて僕らの前にそんな転移の魔方陣を作った、ある意味天才の魔導師がいた。

 人の命を使って発動させる、なんて胸くそ悪い方法で発動まで持っていった、とんでも魔導師が。


 僕ゴーダン、そしてヨシュアは、目の前の魔方陣を見て、あのときのことを思い出す。


 人の命を使い潰す魔方陣。


 でもアレは廃棄されたんじゃなかったっけ?


 首謀者は檻の中。


 研究所は崩壊し。


 なのにどうしてこれがある?


 「リヴァルドは、ザドヴァで拘留されています。それに、すでに正気を失っていて戻る気配はない、と聞いてます。ですが・・・」

 ヨシュアが言った。

 「ですが、そもそも魔方陣を開発したのは、リヴァルドではない。」

 「なるほどな。」

 ゴーダンが苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 きっと、僕も似たようなもんだったろう。


 そう。


 魔方陣を作る才能を隣国ザドヴァの魔導師長だったリヴァルドに見いだされた男がいた。我が聖王国に潜り込んでいた、リヴァルドの懐刀。

 そういや、ザドヴァの政変の時には姿を見なかったっけ。

 気にもしなかったけど、奴ならこれを、この魔方陣を描ける。

 だからって・・・・


 僕は、数年前のそのできごとに、気分を沈ませたんだ。

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