第174話 雨はしのげそうだ

 うん。雨はしのげそうだ。

 僕は、外を見ながらそんな風に思ったんだ。


 昨日は、最果ての村に到着して夜は辺境伯とかと一緒にご飯を食べた。

 と、その前に、王都からこっちへと向かっているアンナたちとも連絡はとったんだけどね。

 まぁ、みんな僕が渡したマジックバックは持ってるし、僕が移動してもいいかな、なんて思ったけど、この迎賓館?には、辺境伯たちもいるし、どんな魔導具が仕込まれているも分からない。なんせ人類最前線と言ってもいい場所だし、みなさん強い人も多いからね。

 僕がマジックバックで移動をしてここから消えたら、いなくなったことがばれちゃうかも、ってことで、連絡はすでに販売もしているモールスです。

 そのときに、後3日から遅くても5日内には約束の場所に着くらしい、って聞いたんで、それまでにできることをやっておこう、ってことになったんだ。



 てことで。

 着いてすぐ、ここでの状況はざっくりディルたちに聞いたけど、ご飯の時とその後の歓談時にさらに新しいお話を辺境伯たちから聞いたんだよね。


 例の高魔力を垂れ流しているレッデゼッサが中心と思われる禁制品事件(あ、王都では禁制品問題が中心となってるんだよね)を、以前の誘拐事件がらみと同じ南部関連事件として強引にパクサ兄様のチームが扱うことになったんだって。で、その首謀者が行方不明だけど、こっちにいるかもしれない、なんていう証拠はない噂レベルの強引な理屈を放り込んで、その兄様のチームが再びの南部遠征を行っている、らしいです。

 ディルたちもここまでは知らなかったみたい。

 南部では、前回のゲンヘの事件で兄様たちは、まぁまぁ印象がいいみたいだから、ディルたちは喜んでいたけどね。


 僕としては・・・


 んとね。パクサ兄様は大好きです。

 けど、お立場を考えてください、と言いたいんだよね。

 だってさ、陛下の血のつながった孫で、王様が代替わりしたら第2王位継承権者になる人だよ?プジョー兄様にもしものときは王様になるべく育てられているはず。

 なのに、危ない場所に行きすぎだ。

 僕が、ホーリーもあって冒険者として今回関わっているってのが原因っぽいから、余計に・・・ね。


 前にドクが言ってたんだ。

 僕が危険な場所に行くのに兄である自分が後ろで鷹揚に構えるのはいかがなものか、なんて言いながら、パクサ兄様が怒鳴り込んできたって。

 とくに南部発祥の一連のことって、パクサ兄様が事件に関連したことから捜索が始まり、僕ら宵の明星が関わることになったから、妙に責任を感じているようで・・・

 パクサ兄様は知らないけど、僕はホーリーがあるし、うちのメンバーは強いから、全然、僕は安全なんだけどね。


 兄弟と言っても、もともと僕がこの髪色のせいでいろんな人に請われるから、それこそ外国の人たちまで自分の元に置きたがるから、って強い後ろ盾として、王家がついてくれたってだけで、たまたまそこにパクサ兄様もいたってだけなんだよね。

 それなのに王家の方々はみんな優しくて、本当の家族のように接してくれる。パクサ兄様だけじゃなくて、プジョー兄様だってポリア姉様だって、本当の弟みたいにかわいがってくださる。もちろん皇太子夫妻である父様母様も本当の息子として扱ってくださるんだ。


 「おまえのことを国に取り込むためさ」

 なんて、バンミなんかは言ってるけど、たとえそうでも、ありがたい、って思うんだ。


 だからこそ、僕としては、なんかいやな予感のするこの事件には、深く関わってほしくないんだけどなぁ。

 って、僕が言ったところで、兄様を止めるすべはないんだけどね。



 ただまあ、兄様がやってくるとなると、30日前後の余裕があるってことになる。

 まぁ、それまでには解決のめどをたてようね、って僕らは話し合ったんだけどね・・・

 やれやれです。



 一方、辺境伯たちは、ランセルが見つけたという、そのって場所に、自分たちが先頭で駆けつけようとしていたみたいです。

 実際、この話を聞いて、僕たちが来る前にこのアジトを押さえようって思ってたみたいなんだ。


 まぁ、普通なら来るだけでももっと時間がかかるしね。

 話を聞いた当時、辺境伯たちは領都にいたから、慌てて準備してここまで南下したけど、到着が僕らと2日しか変わらなかったみたいです。

 とはいえ、そんな中でも捜したみたいだけどね。

 けど、なんせアジトらしきものの場所を知っているのはランセルたちだけだしね。

 結局、僕らが来る前に見つけることはできず、でも南部の問題だからと、どうしても同行はしたかったみたいです。


 でね、さすがに情報源がランセルだしね。

 僕にとっては大事な仲間の言うことだから、全くもって疑ってはいないけど、さすがにご領主たる辺境伯様直々に行くのも、いや、それどころかその息子たちとかでもまずいでしょ?だいたい普通に開拓作業を順次やってるんだし、そういう開拓の場所からはちょっと外れている、ってグレンたちも言ってたし・・・


 てことで、ちゃんとした公式の領のメイン戦力が冒険者みたいなロマンを追うのはいかがかと、なんて、感じで、とりあえず説得をしたんだよね、うちの大人たちが。で、それに参戦したのがディルたち。

 ディルたちは僕のホーリーの魔法を知ってても、誰にも、それこそ親にも領主にも言わなかったみたいだし、もうしっかり仲間枠だね。

 ディルは領主たる辺境伯の妹の息子だ。

 ってことで、ギリギリちゃんと南部の息のかかった人を同行させますよ、の理屈が通るようです。

 なんかそんな感じの主張をディルがやって認められた感じ?


 てことで、南部からの同行者はディルとリークの2人。

 これで押し通したよ。



 ってことで翌朝。


 僕らの後をこっそりつけようとしていた辺境伯に気づいていたけど、僕がグレンに、そしてゴーダンとヨシュアが乗っていたランセルにはそれぞれディルとリークが同乗し、あっという間に未開の地へと走り去ります。

 うん。

 辺境伯とそのお供に人たちは、あっという間に置いてけぼりにしちゃった。アハッ。



 そこからしばし走ること、前世換算で1時間ぐらい、かな?

 まだお昼にはほど遠い感じの頃から、空模様が怪しくなってきたんだよね。


 『もうまもなく、こっちがアジトとして用意した場所だ。』

 ポツポツ降り始めたとき、グレンがそう言って、スピードをアップしたよ。


 その場所は切り立った崖の中腹だった。

 崖の至る所から水がしみ出した感じで、崖に接していた地面は湿地になってたけどね。

 でも、グレンたちの足には切り立った崖だってどうってことはない。

 崖の中腹にぽっかりと開いた穴。


 「おいおい。こんな洞窟、魔物でもいるんじゃないか。」

 そうゴーダンが驚いたぐらい、立派な穴なんだよね。

 それに、僕の感覚には強そうな魔物が数体、中で息を潜めてるって引っかかってるし。


 『魔物は退治したから問題ない。仲間が番をしている。』

 そういえば、確かにランセルっぽい魔力かも。

 でも、魔物を退治した?

 『ここがちょうど見張るにいい場所だったから、そこにいた奴は殺したぞ。』

 いやいや。

 後から来て迷惑じゃん!

 『魔物の世界は弱肉強食。奴が弱いのにどけと言ってもどかなかったから悪い。それに肉がうまいしな。まだ残っているといいんだが。』

 え?

 僕らを迎えに来たりでずいぶん倒してから時間がたってるよね?

 まだ肉があるかも、ってどんだけ大きいの?ってか、どんな魔物だったの?

 『こんな奴だ。がわは硬いが中はなかなかの美味だぞ。』

 そう言うとグレンはイメージを僕に送ってきたよ。

 って、亀?


 なんか、亀とかスッポンの甲羅みたいなので、ただ足は6本。顔はちょっと長細くて亀とスッポンの中間みたいな感じ?いや、とっちかっていうとワニっぽいかな?まぁそんな感じのイメージを僕に送ってきたグレン。

 一応、僕経由でみんなにそのイメージを送ったら、南部の二人は知ってたみたいです。

 ほぼ岩みたいな魔物で、普段はまったく動かないけど、攻撃を仕掛けられたらむちゃくちゃ俊敏だって。

 甲羅に刃も魔法もほぼ通らず。

 顎が強くて、噛まれればシューバですらぺちゃんこ。

 その巨体で体当たりしてくるだけじゃなく、でかい体でジャンプして押しつぶす、なんて攻撃もしてくるんで、見つけても近づくなって言われている魔物だそうです。

 湿気が多いところにいるし、雨の日は動くので注意、だって。

 ランセルが倒したって聞いて、ちょっと引いてました。


 でも、まぁ退治してるんなら、ってことで僕らは洞窟の中へ。

 でっかい魔物がいたってことで、奥は深い。

 ってか、奥ほど広くなってる?


 で実際死んだ魔物の甲羅があって、その周りに3頭のランセルがいたよ。

 お留守番ご苦労様。

 お肉もちょっとは残ってるって。って、ハハ、結構な量だね。もともとでかいからが多かった。どんだけでかいって、ほぼほぼ3階建てのお屋敷がすっぽり入るサイズ。甲羅だけでね。

 ていうか、僕らが入ってきたところからだと通れないんじゃないかな?どうやら別に出入り口もありそうです。


 うん。

 雨がひどくなってきたし、しばらくここで雨宿り。

 っていうか、せっかくのランセルの好意だし、ここをしばしの拠点にしよう、って、いろいろポシェットから出すことに。

 ふふふ。

 さすがのディルとリークも人数分のベッドやらイス・テーブル、料理用のコンロまでポシェットから次々出てきて目を丸くしているよ。

 この世界、マジックバックってないからなぁ。収納系の魔法もないみたいだし。


 これも守ってほしい僕の秘密なんだ。そう言うと、

 「とうに我が主はアレク王子と決めております。今更殿下の秘密をばらしはしませんよ。」

 なぁんて、騎士の礼で言われちゃった。

 そういう堅苦しくなくて、仲間、でいいんだけどね。

 僕は、ちょっぴり困った顔で、洞窟の入り口へと向かう。


 うん。

 この洞窟。

 雨はしのげそうだ。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る