第173話 命に代えて同行します?

 僕たちを部屋に案内だけして、いそいそと出て行こうとするディルの腕を僕はガシッてつかんだ。

 「とりあえず、状況説明、お願い。」

 「だよねぇ。」

 ディルは天井を仰いでつぶやいた。

 横でリークも頭を人差し指で掻いててなんか気まずそう。

 そんな顔したって、説明はしてもらうもんね。

 僕が絶対逃がさない、って二人を見てるとね、

 「まぁ、なんだ。王都まわりで情報が来てるんだろ。」

 ドカッてゴーダンはソファに座りながらそんな風に言った。

 ディルとリークは、まぁ、とか、ですとか、口の中でもごもご言いながら、口を開いた。

 あ、お茶をリークが入れてくれたよ。一応リークはディルの従者だし。まぁまぁ上手、かな?僕には渋かったけどね。


 そのまま従者に徹しようとするリークも座ってもらって、僕とヨシュアも座って、事情聴取です。


 二人の話によると、やはり王都から僕らが来るってばれたよう。

 なんかね、パクサ兄様が、僕に会おうとリッチアーダに張り付いていたようです。

 まさか、僕が、トレネーに行ってるって知らなかったみたい?

 ていうか、なんかおかしいって思ってたようで・・・


 なんかね、陛下から僕が手紙を預かって、トレネーのワーレン伯爵に渡すように言われたらしい、なんてのをどこからか知ったみたい。

 でね、塀の外での馬車の浄化の事件、あのときは僕がいたわけで、いつトレネーに向かった?なんて思ってたところに、トレネーでのレッデゼッサ商会捕縛事件の詳細が入ってきた。

 モールスでの通信網だ、って話にはしてたみたいだけど、なぜか僕がお手紙を持ってトレネーに行ったようだって話も同時期に耳に入ってたから兄様は混乱したって感じだったみたいだね。

 で、僕はどこにいる?ってなったようで、王都でのメインの滞在先であるリッチアーダに張り付いていたところ、ランセルで王都のメンバーをピックアップするって話を聞きつけたようです。

 どうやら、兄様がランセルに乗って自分も行く、なんて言い出したみたいで、それを巻くため(?)もあって、アンナたちを待たずに王都を出発したってことだったみたい。もちろん時短にもなるしね。

 さすがの兄様も、宵の明星のフットワークには勝てない、っていうか、準備をしにお城に帰ったすきに出発した、ようです。


 ていうような話が、兄様を通して王城にも伝わり、宵の明星が何を追っている?って話になり、あのタールの魔物の関連で南部に行ったってことが伝わり、その話がここの領主=辺境伯にも伝わり・・・、とまぁ、こんな具合で、自分の領地で何か起こっているなら、自分も知らねばならぬ、なんて言って、バルボイ領主を筆頭に、領都からこの辺境、名もない最前線の村まで一族引き連れてやってきた、ということのようです。


 いやね。

 別にいいんだけどね。

 情報がランセル発信でしょ?

 領主一族が動き出すのは早すぎる、と思うんだよね。

 第一、どのくらい危険かなんてわかんないし、場所が場所なだけに、つまりは、魔物の版図と言ってもいいような場所にいる、かもしれない、怪しい人を見つける、ってだけのことに、公の組織が動くのは、いかがかな、ってことで・・・・少なくともこの段階ではね。


 「それは分かってるんだ。もともと領内とはいえ、治政が届いてない場所だし、話がうさんくさいっていうか、ね。宵の明星がみんなして南部に行った、っていう噂のみで、その目的とかはパクサ殿下が言ってるだけだし。一冒険者パーティが、どこで何をしたって、それは彼らの自由、だしね。」

 「まぁ、とはいっても、魔物がらみ、それもうちバルボイ領発で、犯罪に深く関わってるかもしれないっていうなら、多少気にしなきゃならないだろ?」

 「はじめは冒険者ギルドで、いつでもあなたたちのヘルプができる体制を、と、口利きをしようとしたんだけど・・・」

 ディルとリークは、そんな風に言うと、互いに目配せし合い、ため息をついた。


 「領主どの、か。」

 そんな二人に、ゴーダンが言う。

 二人は、肩をすくめると、小さくうなずいた。


 「どういうこと?」

 僕はゴーダンに聞いたよ。

 「辺境伯殿は、好奇心旺盛であらせられる、からなぁ。」

 ゴーダンは頭を掻きながらそんな風に言ったよ。

 ?

 どういうこと?

 僕が頭をひねっていると、ヨシュアが言った。


 「例の瘴気に侵された魔物が異質なのはダーも知ってるでしょう?あれらはこの大陸では、南部の深い場所でしか見つかっていない。が、ここに来てあれらを利用しようとする何者かが現れた。利用できるなら興味深い、また、利用の仕方が分かれば敵としての対処の仕方が出てくるだろう。戦うにしても調べるにしても、まぁ、興味深い対象だ、と思っても不思議ではない。それに・・・」

 「それに?」

 「それに辺境伯と陛下は仲がいい。情報交換も密だと聞きます。当然、塀の外で行った馬車の浄化のことも耳に入っているでしょう。いや。ひょっとしたらトレネーでの件も入ってるかもしれませんね。だとしたら、瘴気に対応する方法に関しても。」

 って、僕?

 ヨシュアもゴーダンも、僕をジッと見ているよ。


 はぁ。

 確かにそのどっちもに対応しているのは僕だ。

 一応、ドクのお手伝いっていう名目ではあるけど、少なくともってことは知ってる、か・・・


 ディルも、僕を見てうなずいた。


 「パクサ殿下の話が本当なら、ここに高い確率であなた方が現れるであろう。であるならば、宵の明星に協力して怪しげな者を捕縛し、また、黒い魔物への対処の方法を手に入れたい、そのためには領の全力を挙げて協力する姿勢を見せねばならん、と、叔父上が・・・」

 ディルが、はぁ、ってため息をついたよ。

 きっと、これでもオブラートに包んでいるんだろうね。

 っていうか、どう考えても辺境伯が面白そう、って、最前線の村まで駆けつけた、みたいな?


 「叔父上は、アレクたちに同行したいみたいだ。けど、とにかくそれは阻止するつもりだよ。それに・・・」

 気まずそうなディルだけど、強い光をたたえた目で僕を見たよ。

 「それに、私としてはアレク王子に従いたい、と思ってる。だからあなたがアレに対処できる力を持っている、ということは口にはしていないし、今後もするつもりはない。」

 「信じてもらえるかわかんないけど、俺もディル様もアレク王子の魔法のことは誰にも言ってないから。」


 そっか。

 二人はホーリーを見たもんね。

 で、いろいろ話を聞いたら、ホーリーで僕が浄化したんだって分かっただろうに、黙っててくれたってことかな。

 家族とか、直の上司っていうかあるじ?そんな人たちに対しても、ホーリーの魔法は黙っててくれたってこと、かな?


 「我々が何かを知っているということは、母にしても叔父上にしても多分気づいてる。だから、申し訳ない、としか言えないけど・・・」


 ディルは本当に申し訳なさそうな顔をする。


 けどさ。

 そんなの全然、だよ。

 こっちに情報教えてくれたのに、家族にも僕の魔法を内緒にしてくれたなんて、なんかすっごく申し訳ないよ。僕にとって家族ってすべてだから・・・

 僕が二人の立場なら、ペラペラと家族にしゃべっちゃうよ。

 そんなに僕にごめんなさいみたいな顔をされると困っちゃう。


 「二人とも、そう気落ちするな。うちの王子様は家族にまで黙らせてしまったことの方を気に病むたちでな。ま、こいつの保護者として、こいつを大事にしてくれてることを感謝する。どっちにしろバルボイ領の誰かがお目付役ってことなんだろ?だったら、二人に頼みたい。できるか?」

 ゴーダンが言った。

 「もちろんです。」

 「命に代えても、我々がご同行いたします。」


 ピシッと騎士の礼をとる二人。

 うん。うれしいよ。

 でもさ。

 命に代えなくても、いいかな?

 

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