第172話 VIPのお出迎え

 えっと・・・・


 僕の目の前には、なぜか辺境伯様と、その二人の息子、および辺境伯の妹そしてその息子および息子の従者、ってな顔ぶれが並んでいます。

 うーん。

 ここは南部バルボイ領その最果ての村。

 まだ名前もない村とはいうけど、言ってみれば最前線の補給基地扱いの集落で、バルボイ領らしいっちゃあらしい場所、ではあるんだけどね。


 一般的に辺境伯っていえば、国の端っこを守るのがお役目で、国境線の守りに徹する、なんてのが役割の最たるものって感じだと思う。

 けど、ここバルボイ領はちょっと違う。

 今なお、人間のすみかを広げるために森や砂漠といった未開の地を切り開き、常に国土を広げていく最前線の地、を意味するんだ。


 もともと我がタクテリア聖王国は、伝説の龍を倒した勇者の血筋たる聖王家の御旗の元、魔物のそれから人の領域を徐々に広げていった、と伝説では語られている。

 その龍を倒し封じた地が、王都のお城の下、つまりはあのソフトクリームの頭みたいな丘の下だっていうんだけど、そこから始まって徐々に人の地を広げていって今の聖王国の版図ができあがっている。

 王族だけが治めるには広くなりすぎて、徐々にその一部を部下に任せていくことにより各領ができていく。まぁ、部下が治める地って感じ?

 王族は必要最小限の地を直轄地としながら、他はほかの人に治めさせてたんだけど、それが1人じゃ大変だってことで複数の領地に分かれていったんだって。


 バルボイのもともとは領っていうより、開拓前線基地だったみたい。

 王族がそのトップにたって、開拓を進めていく。

 まだほかに治める人がいない場所を仕方なく最前線の人が治めてて、それがバルボイ領ってなったんだって。


 バルボイ領は移動する。


 戦闘より治政が得意な人に譲り渡す形で、バルボイ領は場所を移動してきた。

 大概がその譲り渡した残りの部分の最北の町が領都ってなってきたようです。

 南部っていわれるぐらいで、開拓は聖王国の南へと行ってるからね。

 北の方の町の方が古くからできていて、その分都会だから。

 それにまつりごとをするのは安全な場所の方がいい。最前線から遠いほど安全性はあがるってわけ。


 ちなみに領が移動するのは領の割譲って形で行われるんだけど、僕が生まれてから、そんなことは起こってはいません。

 長い歴史の中で、そういう形でバルボイ領は存在してきたってだけで、そう簡単に領が広がりはしないんだよね。

 ちなみに、最前線、とかいってて、もっとも新しいここ、未だに名前のない村も、僕が生まれる前からあるよ。ちなみに呼び名はずばり「最前線」だそうです。



 てことで、僕らはグレンたちに乗っかって、ものすごいスピードでトレネーの領都からここにやってきたんだけど・・・


 一応ね、王都組と合流はこの村ってことになってるし。

 村っていうだけあって、宿もあるんだ。


 っていうか、最前線で働くのは何も騎士たちだけじゃない。

 冒険者にとっても稼ぎ場かつ未知の領域に入るっていう、まぁまぁなんていうか、冒険者の冒険者たるゆえん=ワクワク心が大好物、を満たしてくれる格好の場ででもあるんだ。

 それは商人にとってもそう。

 ここで活躍する騎士や冒険者に商品を提供して儲ける、ってだけじゃなくて、見たこともない新しいもの=魔物や植物・鉱物なんかを誰よりも早く手に入れられる、かもしれない。

 ここ、最前線ではそういったまだ見ぬものへの憧れとか期待を胸にした人々がたくさん集まってくる。

 乱雑で熱っぽくて、それでいて騎士もいっぱいだから妙に整然としている。

 そんなワクワクする空気がいっぱい、の集落、・・・のはず、だったんだけどなぁ。



 村は、最果ての地とはいっても、人にとってのそれであって、魔物がわんさかで最果てどころか森のど真ん中、しかも王国内においても強い魔物が跋扈する場所にある。

 だから、その防備は他の領の地方都市よりも幾分かしっかりしている。

 もちろん塀に囲まれているし、しっかりとした門もあって門番もいる。

 ランセルに乗ってやってきた僕らは、当然門番の注目の的で・・・

 あ、ちなみにグレンたちは門で僕らを降ろして、森に入っていったけどね。人間のところは面倒なんだって。


 ただ、ランセルに乗ってやってきた僕らが誰何されて捕まったってことじゃないよ。

 もっと領都に近いところでも、僕はランセル、ってかグレンに乗ってうろうろしてたし、冒険者ギルドとかを通して仲間だって報告も通ってるしね。

 実際、ランセルに乗った僕を見たことのある人も、そこそここの村にもいるみたいだし、噂もとっくに回ってるようです。

 はぁ。

 僕が、名ばかりとはいえ、王子だってことも含めて、ね。


 そんなこともあって、赤いランセルに乗った子供と、その保護者二人組は、門にたどり着く前に、王子とその一行、なんて認識をされちゃったみたいで、なんか、門番をしている人だけじゃなく、そのあたりにいた人だろうね、たくさんの兵士?騎士?なんだかそんなような人たちが整列して迎えてくれちゃいました。

 まぁ、それを見てグレンが僕を放り出した、ともいう。


 でね。


 なんていうか、そのまま身分確認もせず、僕らはちょっと身分の高そうな騎士っぽい人に連れられて、村の中央にあったちょっと大きな建物へ。


 そしてそこには・・・・


 なぜか南部の重鎮?まぁ、辺境伯様をはじめとした、お久しぶりです、の方々がずらり勢揃いでお出迎え、ってなっちゃったんです。


 「いやぁ、よくおいでくださいました、アレク王子よ。想定外に早いですなぁ。ランセルの騎乗、これほどまでの速度とは、いやぁ恐れ入りましたぞ。私も分けていただきたいものだ。ハハハ。冗談ですぞ。殿下のものを取り上げるなど、そんな浅ましくも恐れ多いことなどいたしませんぞ。しかしまぁ、早かったですなぁ。まさかこんなギリギリになるとは思いもしなかったですぞ、ワハハハ。」


 なんかご機嫌に辺境伯様がまくし立ててます。

 えっと・・・

 そう思って、ここに並んだ人の中では仲良しの二人、ディルとリークに目をやったんだけどね、貴族の礼のためか、困った顔はするものの、教えてくれなかったよ。


 「あの、これは・・・」

 王族から貴族に対する物言いではないけど、いいよね?

 「お、これは失礼つかまつりました。陛下より委細伺っております故、我らも殿下の手伝い方、駆け参じた次第でございまする。いかようにもお使いくだされ。」


 いやいやいやいや。

 お使いくだされ、ってあんたここのトップでしょ!

 目がキラキラしてるのは、もめ事大好き、って言ってるみたいなもんじゃない!!

 てか、陛下って、・・・何を聞いたんですか?

 僕は、パニック、ってほどでもないけど、突っ込みどころ満載で、でも身分的にも信頼度的にも、ちょっと突っ込める雰囲気じゃなくて、なんかすっごく疲れちゃった。


 「えっと。先に宿を取りたいんで、いったん解散にしてもいいですか。」

 「お、これは気づきませんでした。皆様の部屋は、当然ここにご用意しておりますぞ。後ほど夕餉の折にでも話はさせていただくとして、まずは旅の疲れを癒やしてください。案内はディルたちに。」


 伯爵はそう言うと、ディルとリークに目くばせしたよ。

 「こちらにどうぞ。」

 なんていうディルたちに案内されて、どう見ても公共施設っぽいこの建物の上階へ。

 一人ずつ別の部屋をあてがわれた僕たちだけど、どう見てもここは迎賓館だ。

 やんごとなき人々を接待する部屋、って感じ?

 特に僕の部屋、でかくない?

 応接セットまでついている僕の部屋にとりあえず集合して、出て行こうとするディルの腕を僕はガシッてつかんだよ。


 「とりあえず、状況説明、お願い。」

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