第171話 森を行こう

 南部に行くには、王都よりトレネーの方が直線距離だとずいぶん近い。

 まぁ、ランセルに乗ってるから街道とか無視できるしね。

 それにしても・・・

 旅慣れたゴーダンでさえ、その景色には時々感嘆しているよ。



 グレンたちは森に住む種族だからね。なんと、木の幹とか枝も足場にして走っちゃうんだ。本人(本狼?)たち曰く、地面はぼこぼこしてるけど木の幹はほぼまっすぐだから走りやすい、だそうです。

 表面ゴツゴツのボコボコだよ?って言ったら、あの程度は誤差、だそう。うん。足の裏、かったいもんね。


 森の中って思った以上に、表情豊かでした。

 今までも街道沿いとかなら森の中に入ったし、狩りや採集なんかで森の中にも入ったことがあります。そんなときも、不思議な光景は見たことあったんだけどね、でも今回はその比じゃないよ。

 草の色は緑、なんていうのが、思い込みだって知りました。

 黄色や茶色ならまだしも、赤にピンク、白に黒、なんだったらストライプとか水玉まであるんだよ。

 そうそう、ここは気持ちいいからって休憩をすすめられた場所なんてね、群生している木がでっかくて、大人が4、5人ぐらいでやっと幹を囲めるぐらいのがいっぱいなんだけど、その分木と木の間が広くってね、その間の地面がふんわりしてて、えんじに白なんだよ。でさ、よくよく見るとそれは全部きのこでね、えんじのベースに模様が白で、どう見てもその白で描かれてるのが、唐草模様。なんか、ププッて一人で笑っちゃった。ちなみに実際立ってみるとポワンポワンして、高級ベッドみたい。思わずトランポリンみたいにして遊んだら、なんか、紫の粉が舞って、怒られちゃった、あはっ。



 時には危険な場所もあったよ。

 あのね。木って火も噴くんだね。

 あれは、ギザギザの葉っぱが痛いって思った木でした。

 グレンたちが幹をポンと蹴るとね、頭上から火の玉がいっぱい降ってきたんだ。

 サイズはパチンコ玉ぐらいの小さいのだけど、それがシャワーみたいに降ってきて、ほんとアチチだよ。まぁ、降る前に駆け抜ければいい、ってのがランセル流だったみたいで、直撃したのはグレンのいたずらだったみたいだけどさ、ほんとびっくりしたよ。

 ヨシュアがこの火の玉のことは知っていて、空気との摩擦で着火する細い枝になる瘤みたいなやつなんだそうです。そうっと採集して、スリングとかスリングショットっていわれる武器の玉にするんだって。

 あ、空気の摩擦で、ってのは僕の解釈です。

 ヨシュアは、今回みたいに高いところから落としたり、思いっきり投げたら、燃え出すって教えてくれたんだけど、たぶん、空気との摩擦かな?なんて思ったんだ。



 火の玉だけじゃなくて、水で攻撃する草もあったよ。地面から勢いよく吹き出てきたから、これもびっくりした。

 何の変哲もない、っていったら変かもだけど、大人の膝丈ぐらいのまっすぐな草。

 それがどこから出るんだってぐらい水が噴き出すんだ。目に当たったら失明するレベルの勢いで・・・

 「こいつが生えているところの近くには沼があるから注意な。」

 ゴーダンが言ってました。

 これも割と知られている草、らしい。

 いやあ、実際に体験しないと覚えられないけど、僕もまだまだ勉強しなきゃならないこと、いっぱいです。



 森の中は、大きな魔物より、小さな魔物の方が危険かもしれないです。

 ここらにはまだいないけど、ゲンヘだって小さいもんね。

 大きな魔物って、木が茂っているところにはそんなにいないんだって。

 いれば、木とか草とかが折れてるからわかりやすいし。

 ちなみに、ランセルって器用に体を動かせるから、幹を蹴って移動する段には草木が折れることはないです。まぁ、足形、てか爪形?は残るけどね。

 それに草とかだと、ほとんどのは魔物に踏まれたぐらいじゃすぐに元通りになるんだって。さっき言ってた唐草模様のきのこもいったんへこんでも、ぽこんって音を立てて元通りになってたし。あ、その音も楽しくって走りまわったってのは内緒だよ?



 森の中でランセルみたいな高速の移動だと、その魔力の濃度の変化がよくわかる。

 人がいないところの方が魔力は満ちているのは知ってたけどね。緑の香りの強さと魔力の量がなんとなく比例する、みたいな。

 けど、そんな森の中でもところどころ魔力が多かったり少なかったりするスポットがあるようです。

 そんな中でもさらに魔力が濃くなると、瘴気っぽくなるのかなぁ?でも、今のところそこまで濃いところは走らなかったけどね。


 実際、北の大陸はこの南の大陸よりも全体的に魔力が濃いって気はします。

 人が開拓して土や石のところが多いからかもしれないけどね。

 そんな魔力の濃い大地でも、樹海はさらに濃いし、今まで走ってきたところでも樹海までの濃度はなかったと思う。


 そうだ。


 僕の違和感はそこかもね。


 ずっと気になってたんだ。

 なんであのタールの魔物が魔力が多めの南部とはいえこっちの大陸にいたんだろうって。

 だってさ、タールの魔物は北の大陸でも樹海かそれに匹敵するほど魔力が濃くなったところに現れるんだ。しかもそんな高濃度の樹海の中でも突発的にさらに魔力が濃くなって僕が瘴気って捉えられるほどに濃くなった、そんな魔力溜りの中からね。

 けど、一度だけ見たあの南部に出たタールの魔物、あれがあった場所の周りは、濃いけど、北の大陸レベルだとだったと思う。


 そうなんだ。

 


 「まぁ、そういうのも含めて、なんかヒントになるかもしれん。とにかくグレンたちが見つけたその人間とやらが何をしているか、それを探るのが先決だ。」


 まぁ、ゴーダンが言うのが正解なんだけどね。



 ランセルの背に揺られること、たった7日。

 僕らは南部でも最南端の、まだ名もない最前線の村へとたどり着いたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る