第168話 合流しよう

 『我だ、ダー。』

 ぼんやり覚醒中の僕の頭に響いたのは、ちょっぴり懐かしい声。

 横では膝立ちになって警戒心マックスのアンナがいる。

 僕にも複数の獣の気配が感じられたけど・・・


 「アンナ、大丈夫みたい。あれ、グレン達だ。」


 そう。

 僕の頭に語りかけてきたのは赤いランセルのグレンだった。


 グレンとは、養成校の遠征訓練で南部に行ったときに友達になったけど、アンナは会ったことないから、驚いても当然だよね。

 でも、グレン達とのお話しはしているから、僕の大丈夫っていう言葉に、ホッと警戒を解いたみたい。

 まぁ、グレンもこっちのことを伺っていたみたいで、お互い警戒したんだね。

 そりゃ深い森の中の打ち捨てられた集落。魔物も人間も警戒してて当たり前なんです。



 アンナが警戒を解いたのを見て、それと、僕が起き上がったのを見て、かな?

 暗い森の中から大きな狼の群れが出てきたよ。

 先頭は他の子よりちょっと小さな赤いグレン。

 他にはグレンよりも大きなこげ茶っぽい、またはグレーっぽい毛皮のランセルたち。

 あ、ちなみにランセルっていうのは、前世風に言うなら狼かな。ウルフ種?

 このランセルっていう魔物はあちこちに出没する。けど、場所によって大きさとか色とかは違いがある。あとは、使う魔法もね。魔法を使わない種の方が多いけど、魔法を使うのもいるんだって。

 まぁ、ランセルっていう魔物自体はかなりメジャーで、怖がられている魔物、かな?そういうところは前世の狼たちと一緒かもしんない。



 グレンは仲良しで、なぜか僕と繋がっちゃった。

 この世界ではテイマーってのは存在しないんだけど、どうやら名前を付けた時点で何かが繋がった感じで、僕の魔力を美味しく食べたりしてるみたいです。

 ちなみに従魔、なんて言葉はあるにはあるんだよね。

 魔物を従えてる人はいるからね。

 だけど、どっちかっていうと前世でも猛獣を従えたりする人いるでしょ?サーカスとかさ。あれと同じで、エサだったり調教だったり愛情だったり?そういうので繋がっているだけ。


 で、首輪とか足輪とかの魔導具があって、それは所有者を指定したり、悪さをしたら電気ショックじゃないけど魔力が流れてビリビリしたり、物理的に締まったりとかするものなんだ。

 僕らが家畜奴隷とか言われて、家畜のする首輪とか足輪を嵌められていたのは、そういう類いの魔導具だったんだよね。

 ちなみに直接肌に魔法陣を描くことによって、もっと強固な縛りを行うのが奴隷紋。人間の場合普通はこれを描かれます。魔物に描かないのは、譲渡が前提とされるから。身体に描いちゃうと消せないからね。

 人にするの場合は、あんまりよく知らないんだけど、譲渡ってないんだって。主がいらないって言えば廃棄。主が死ねば一緒に、が常識だそう。唯一、例外が相続。でもこれはあくまで主の命令で子息の命令をきくって形になってるんだそうです。だからそう指示して主人が無くならない限り、殺されちゃうって聞いたよ。

 まぁ、それをくぐり抜ける策として、家畜奴隷、っていう、首輪とかで取引する奴隷があるんだそうです。そういう意味では一生物で購入するのが普通の奴隷、譲渡予定で売買するのが家畜奴隷なのかもしれないね。よくわかんないや。


 けど、昨今はこれに反対する貴族も多くなってきてます。

 その旗印的に頑張ってるのがミサリタノボア子爵、つまりは僕らを買った人だっていうんだから、世の中わかんないもんだよね。


 とまぁ、従魔とか奴隷とかは置いておいて、どういう形になってるか知らないけど、僕とグレンは友達だよ。主とか家来とかじゃなく、ね。

 ただ、ちょっとばかりグレンは忠誠っぽい感じを醸してきちゃう。まぁ、犬とかって縦社会みたいで、自分が決めたリーダーについてく習性があるんだそうで、狼も同じだって。本能だから仕方ないけど、うん、友達だよ?


 『まさかダーがここにいようとはな。我と目的は同じか?』

 グレンがそう言ったよ。


 『目的?』

 『が、呼び出したのを追ったのだ。ダーが言うところの黒い魔物、をな。』

 え?人が呼び出した?

 僕はビックリしてアンナを見上げたよ。

 アンナは僕の肩に手を置いて、僕を通してグレンの言葉に耳を傾けていたから、同じように驚いていた。


 『グレン。人が呼び出したってどういうこと?』

 『ん?ダーは知らなかったのか?前にダーと見たであろう。別の大陸から移動してきた瘴気、だったか?あれに覆われた魔物だ。』


 北の大陸、樹海。

 そこは魔力が豊富で、時折僕が瘴気って呼んでいる黒い魔力が現れる。

 そしてそれに毒された魔物は強くなり、果てはタールのような瘴気のかたまりとなり、しばらくして潰えるんだ。

 ただ、潰えるまでが強いし歩くだけでも周りを破滅に追い込んでいく。

 これに対抗できるのが今のところホーリーだけじゃないかって思われているんだけど・・・


 その瘴気が現れたこちらの大陸の南部方面。

 なぜか、その空間が、北の大陸と繋がっていることが分かったのが、僕が精霊の道を使って樹海へと向かった時だった。

 間違いなく北の大陸の樹海と南の大陸の南部の森が異空間?を通じて繋がっていたのを確認したんだ。

 あのときは、こっちのもあっちのも、瘴気自体は消滅したし、保留事案として置いておくしかなかったんだけど・・・


 『人が、呼び出した?・・・』


 一体誰が何のためにそんなことを?


 それよりも、一体どうやって?


 僕と同じ疑問をアンナも抱いたのが、置かれている手を通じて分かったよ。

 ついつい二人でどうすべきかって、目を見合わせたけど、確かめるしかないよね?


 「待ちな。さすがに危険すぎる。ゴーダン達とも合流すべきだろう。本当はパーティ総動員したいところだ。」


 そうは言っても、ね。


 まだゴーダンとヨシュアは領都だし、そんなにかからず合流できるけど、他は王都だったり、いろいろ散らばってるよ?


 『ダーよ。我らならば人間の馬車なんかとは比べものにならん速さで駆けられるぞ。ダーが望むなら、仲間達をその人間のに連れてやろうか?』


 僕らがどうしようか、って話し合っていたら、グレンがそう言ったよ。

 シューバがメインの馬車で1ヶ月でも、ランセルなら5倍以上の速度で森を駆けられる。街道を通る必要が無いって事を考えると、最短距離で森を駆ければさらに短縮できる、って、グレンから自慢げな思考が流れてきたよ。


 「なら、王都組だけでも合流しようか。だが、まずは領都だね。ダー。あっちでみんな待ってるんだろ?まずはあんたがゴーダンと合流してそっちの仕事を済ませな。」

 アンナが言う。

 『なるほど。では女。その王都というところで仲間を回収するのだな?お前がそこに案内しろ。我はダーの居場所は分かる故、領都なるところへ向かうとしよう。ダーよ。領都と王都、向かう我が群れを分けよ。』

 『え?王都にも迎えにいってくれるんだ。じゃあ、領都にいるのは二人だから、こっちにはグレン以外に2頭お願い。後は王都、かな?』

 アンナを見ると、頷いたよ。


 詳しい話は合流したあと。


 グレンによると、その怪しい人間ってのは、南部の人達が攻略している場所からさらに奥地でねぐらを作ってる、らしい。王都組も領都組もその手前で集合、ってことで、その場所はランセルたちには良い感じのところがある、とのことなんでグレン達にお任せだね。

 もともと、森の精霊からのお願いでグレンが動いていて、ある程度その人間のやってることが分かったら、僕を連れてこようってことになってたようです。

 ハハハ。

 森の精霊様も、人使いは荒いね。


 てことで、アンナを乗せた、グレンの一番の部下?、の、おじいちゃんランセルを先頭に、あっという間に走り去ったのを見た僕は、グレンにせかされてポシェットに潜ったよ。

 出るのは、ゴーダンのマジックバックの向こう、領都だ。

 

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