第167話 とある集落跡の夜

 廃墟とはいえ、壁と屋根があって、森の中にぽっかり空いた空間からは、なかなかに素敵な夜空が見えます。

 さすがにこの季節は冷えるから、大きめの(ひょっとしたらこの集落の村長さんちだったのかもね)おうちの、土間を借りて火を炊き、ママのシチューで暖まり、モフモフ毛皮の毛布にアンナと一緒にくるまって、穴の開いた屋根からお空を見る。


 夜空のよう、って僕の髪はよく形容されるけど、前世で見るより色とりどりの星がきらめく様は、確かに僕の髪の毛とよく似ている。

 髪が目立つからって、一度僕は坊主頭にして、ものすっごく怒られたことがあったな、なんて話をアンナとした。


 この世界、なぜか髪の毛に魔力がにじみ出るように映し出される。

 濃い色であればあるほど魔力量は多く、また色によって持っている属性が表されるんだ。

 これを隠すのは、後ろめたいことを隠すことと同義と取られる。

 だから、坊主にした僕は、犯罪者か怪我や病気で髪を失っちゃったか剃らずにはいられなかったって見られて、特に今よりも幼かった当時は、犯罪者じゃないだろうから後者だろうって、会う人会う人に不憫がられたもんだった。


 まぁ、この世界でも必要に応じて帽子を被るとかはあるし、魔力を多く見せようと髪を染めたりすることはあるんだけどね。

 特にお年寄りになって魔力が減り、白っぽくなっちゃった人とかは、若い頃の髪色に染める、なんてこともある。力を落としてるってことを分からせないために貴族とか軍人、冒険者なんかでは、よくあることです。これについてはあんまり変な目では見られません。まぁ、強く見せるんだからバレたら鼻で笑われるかも知れないけど。

 まぁ、マナーとして見て見ぬ振り、かな?


 力こそ正義、みたいなところが前世よりも強いかも知れないこの世界では、あなどられないように力を多く見せることはそんなに非難されないです。けど、逆に力を下に見せたり隠すのは卑怯、みたいな風潮があるんだ。

 まぁ、わざわざこんなに強いよ、って言いふらすわけじゃないし、過小評価してもらって油断してもらう分にはいいんだけどね。勝手に誤解しちゃうのは相手の責任だし。

 実際僕なんかは、髪色が濃いから将来有望だ、ぐらいの感じで思わせて、油断を誘うような戦いをすることもある。ていうか、僕の場合、僕は強いよって言ったって信じてもらえないまであるからね。・・・・て、自分で言ってて悲しくなっちゃった。


 まぁ、普通に考えて、魔力の通り道をやっと通して、なんだかんだ魔法を使えるようになるのは、早くて12,3歳がいいところ。英才教育の貴族なんかで才能があれば10歳ぐらい、かな?戦闘で使えるとしてってレベルだとね。

 貴族で7~10歳ぐらい、平民だとさらに遅い段階で魔力の通り道を、才能差があるけど1旬(前世で10日)から1季節(同じく3ヶ月)ぐらいかけて通すんだ。で、それを身体に馴染ませて、魔道具が使えるようにする。まぁ、ここまではほとんどの人ができるんだけどね。

 この先は才能がある人とか魔法を習う余裕のある人が、魔導師の指導の下または養成所とかに入って魔法を習う。これは年単位になっちゃうかな?

 コップ1杯の水を出せたり、竈に火をつけられたりしたら、魔法が使えます、って堂々と言えるらしい。就職に断然有利って話です。

 さらに才能のある人が、魔法で戦闘ができるレベルってことになるね。ここまで来たら魔導師って言っていいらしい。

 7歳から英才教育を受けたお貴族様で早くてここまで到達するのに10歳は超える、らしいです。


 だからね、僕の年齢だと、得意属性の攻撃魔法で木の幹を貫通できたら天才レベルだそうです。外見年齢だと魔力の通り道もまだ通してない、って思われるかも・・・


 まぁ、ここダンシュタでは、僕がいっぱしの魔導師で、剣だって同年齢どころか成人したての人なら軽くあしらっちゃうレベルってことは、少なくとも冒険者や憲兵さんたち騎士さんたちは知ってるから面倒はないんだけどね。

 だからこそ、昨日の魔法だって、「さすがダーだね」、で済んじゃう。

 トレネーでも上層部は知っているし、それなりのクラスの冒険者ならご存じです。だって、僕の冒険者としてのホームだし。


 「だからって、ひけらかすんじゃないよ。どこで恨みや妬みを買うかわかんないからね。」

 アンナが言います。

 「博士が師匠って全面に出してるとはいえ、あんたの魔法は特別すぎる。今回のホーリーも、レストランの件がなけれゃこっちの大陸で使わすつもりはなかったんだけどねぇ。」


 アンナが言うように、僕が変な魔法(?)を使っても、ドクに教わった魔法、でごまかせてはいるんだけどね。ドクって凄い人だし、凄い魔法については学校じゃなく師匠から教えられるってのは常識だから、あんまり問題にはなってない。この髪とドクの名前でほぼほぼ納得されはするんだ。

 けど、だからって魔法を盗もうとする人がいないわけじゃないし、なんたって僕は初見6,7歳に見えるヒョロッとした子供だ。ドクの魔法を強奪するために誘拐とか全然あり得るんだよなぁ。


 てことで、アンナにちゃんと自重してるから大丈夫って言ったら、大げさなため息をつかれちゃったよ。なんでぇ?



 マジックバッグを通したゴーダンとのやりとりで、明日朝、ゴーダンから指示があったら、そのまま宙さんの空間を通ってゴーダンのバッグから出現する、って決まったし、夜空から僕の髪の毛とか魔法の話しになって、色々とアンナと話をした。


 二人っきりってのは案外久しぶりで、なんかいっぱい話たような、話してないような・・・

 気がつくとそのまま寝ちゃってました。

 あ、ちゃんとはじめから決まってたんだからね。

 僕だってもうベテラン冒険者(見習いだけど)、ちゃんと順番に夜の見張り、できるもんね。僕がまず寝ることになってたから寝ただけだよ、ほんとだよ?



 体内時計でそろそろ交代の時間だなぁ、って夢うつつで覚醒しつつあるぐらいには更けた時刻。


 ガバッと毛布がめくれ上がる気配で、僕も目を覚ました。

 同じ毛布にくるまってたアンナが起こしてくれたみたい。

 そのアンナはすでに、そのまま用心深く立ちあがってるみたいだ。


 何事!


 そう思って、僕も瞬時に覚醒する。


 『我だ、ダー。』

 

 そのとき、僕の頭にちょっぴり懐かしい声が響いたんだ。

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