第165話 ホーリー&ヒール
ホーリー
あまり魔力は込めないで、でも癒やしの気持ちはたっぷり込めて、僕はホーリーを唱えたよ。
いつもどおり、白い何かに包まれる。
?
おや?
なんだか、どこかに魔力が引っ張られる、そんな感覚。
3分の1か、4分の1か、そのぐらいが、この簡易建物の中じゃなくて、どこかに引っ張られた感じがした。
おかしいな。
簡易建物を範囲として結界を張っていたんだけど。
王都でドクがやってたのを真似て、アンナの属性もあるから土魔法で結界を張っている。
アンナがかけたその上から僕がかける、みたいな二重にしたし、そりゃドクみたいに上手じゃないけど、それにホーリーって独特で、結界自体があんまり役立たないのも分かっているんだけど・・・
「どうしたの?」
僕が?を浮かべているもんだから、アンナが怪訝な顔をして問うてきたよ。
そりゃそうだ。
ホーリーの副作用っていうか、黒い魔法と相殺して、魔力のない物体に替えちゃうってやつの影響が、ここに寝かされていた100名ちょっとプラス後で連れてきた20名ほどの人に作用しているはず。
実際、魔力切れみたいにフラフラしている人とか、気を失ってる人もいっぱいいる。呆けている場合じゃないんだよね。
特に大変なのは重傷者だ。
アンナたちや、もっと低レベルの魔導師にも見えるレベルの黒い魔力(黒いって見えるのは僕だけみたいだけど)を帯びていた人は、特に危険だ。
僕が見た感じだと、そういう人は外に出る前に内臓が汚染されているっぽいから。
胃や腸・食道が、黒くタールに近くまでなっちゃってる人は、そんな内臓が壊死してしまっている。
どんなに魔力が低くても本来ゼロってわけじゃない。石だとか土だとかっていう無機質のモノだって魔力を帯びているこの世界、本来ゼロなんてなくて、今のところ、ドクですらそんなのは僕のホーリーと黒い魔力がぶつかったところでしか見たことがないし聞いたこともないって言っている。
とにかく、魔力を失った分をできるだけ補填しなくちゃなんない。
大地が白くなった場合と違って、生物なら魔力譲渡で補填ができるみたいだから。
今、それをやっているのがアンナだ。
アンナは、いっても優秀な魔導師で、魔力の道を通すような作業ができるから、人の魔力をいじれるってこと。その一環で、魔力の供給だってできるらしい。
僕は、これに関しては、見てるしかない。
できなくはないけど、多分、多く供給しすぎてしまうから。
ただし、これだけの人数だ。
アンナの魔力量は人より多いとはいっても辛い人数。
ってことで、アンナの魔力タンクは僕が務めます。
僕?
今のところはまだ余裕あるし・・・
そこそこ時間がかかったけど、無くした魔力をアンナがある程度供給できたら、こんどはヒールです。
これが必要な人は、内臓が壊死しそうな人。
タール状になりかけでも、完全になってないなら、なんとかヒールで持ち直せるかもってことです。
ヒール、っていうか治癒魔法ってね、本来は欠損とか治せるものじゃないんだそうです。
ママの「痛いの痛いの飛んでけ~」は、脅威の回復で、ちょっとした欠損なら治るし、僕もヒールってのはそんなもんだっていう、まぁ前世ゲームから持ったイメージがあるから、治せたりするんだけどね。
古傷は無理でも新しければ、切られた四肢とかは、現物があればくっつくし。ちなみに、前世で手術できるのと同じレベル、かな?これが可能なのって。
そういうこともあって、内臓が壊死していたとしても、少しでも元の部分が残っていたら、復活できるはず、というのが、僕とアンナの読みです。
ヒールの場合、あんまり魔力過多でやばいってのは少ないんだけど、なんせ僕が治療するのってうちのメンバーがほとんど。
こういう一般人に大丈夫か、正直ちょっと不安です。
たぶん、ヒールをかけると、自然治癒力を恐ろしく上げるんだと思う、そうモーリス先生も言ってるし、これ、あげ過ぎちゃうと、細胞分裂にバグが入るかも、なんて怖いことを先生が言ってたんだよね。
てことで、アンナのサポートの元、僕はヒールを施していきます。
とりあえず、睡眠香の効果時間内で、なんとか終わった、一連の作業。
でもね・・・
全員は助けられなかったよ・・・グスン・・・
僕は神様じゃないし、あらゆる命を救うことなんてできないのは分かってる。
分かってはいても、17名の命。僕がホーリーを使わなきゃもっと長く生きれたかもしれない。そう思うと、うん、そんなの傲慢だって分かってるけど、やっぱり罪悪感に襲われちゃいます。ハハ、僕にお医者さんは無理、みたいだね・・・
ちょっぴりショックを受けている僕がアンナがやさしく抱きしめてもらっていると、外がなんだか騒がしくなってきました。
お迎え&医療班、かな?
一応、お香の効果が解ける頃に、ここを管理するお医者様とかお役人が来て、僕たちと交代することになっていたんだ。
入ってきた人に、アンナが成功だ、と、報告しています。
でも助からなかった人とか、瀬戸際の人がいる、ってことも報告。
「ダー、良くやった。少なくともここに寝かせていた100人は、そのままじゃ助からない命だった。よく救ってくれたな。」
あんまり表情を見せないジャンさんが、しょぼくれている僕の所にやってきて、頭を撫でながらほほえみました。
でも・・・そうだったんだ。
隔離施設、的な話を聞いていたけど、本当は今後の対策のために経過観察したり、解剖とかまで、考えていたようで、なんていうか・・・・辛いね。
しばらくして、僕とアンナは、ジャンさんたちとこの集落から出る、ってことになったんだけどね・・・
入ってきた場所とは反対側、正確には120度ぐらいの方向に、違和感を感じて、僕は見たんだ。
そこは森の中に出ていくときに使っていた道みたい。
まぁ、集落の裏口ってことだと思うけど、その森の中に、一筋の白い線がうっすらと続いていたんだ。
そういえば、ホーリーを唱えたときちょっと魔力を引っ張られたかんじがしたんだった。
その白い道は、点々といった感じで続いている。
たぶん、土の中に紛れていた黒い魔力に、ホーリーが反応したんだと思うけど、夕刻になった暗い森に、薄白い土がポタポタ、まるで雫が続くように、続いていたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます