第164話 塀の外の廃集落
ダンシュタにこんなに人がいたんだ~
これが、僕の最初の感想でした。
んとね、例の依存症の人達。
集められたのは、小さな集落、っていうか、消えた集落を再利用した隔離施設?
ダンシュタって、トレネーの片田舎です。
トレネーはまぁ、都会だね。
王都も大きいけど、王の直轄地っていうのはそんなに多くなくて、むしろいろんな人に治めさせるのがメイン。
ていうか、すべての土地は王=国のもので、代理で治める権利と義務を領主に与えているだけ、っていう理屈で、この国は成り立っているからね。
王が、国をいろいろ分けて、それを領主に治めさせる。でも領地によっては広くて全部治めるのは大変だから、王様の許可を得て領主が代官を立て、領地を治めさせる。代官がすべて直に見てるわけじゃなくて、集落ごとに代表者=村長さんみたいなのを置く。そんな感じかな。あくまで、理屈は、だけど。
基本的には開拓は望まれます。
魔物を排除し土地を開いて、町や畑なんかを作るのは推奨されること。
切り開いた人は、ここを切り開いたから自分の土地にするね、って報告することで、所有者、うーん占有者?っていうのになるんだ。あくまで所有者は国だけど、使う権利を持つ、みたいな?
だから土地の売買っていうのは、この土地を使う権利の売買、なんだよね。
て言っても、そんなことを思っている人はいなくて、管理する国とかの偉い人の理屈ってだけだけど。
ていうことで、いろんな人が切り開いて、でも何かの原因があって過疎化し、果ては人が住まなくなった場所、ってのは無数にあります。
多いのは魔物とか盗賊に襲撃されて全滅またはそれに近い悲劇が起こった、って感じかな。
ダンシュタってのは代官が住んでいる場所です。
ちゃんとそこそこ立派な塀に囲まれた地方の田舎都市。
昔、開拓していって、そこから先には入っていけなかった、ってことで、ランドマーク的に作られた集落に、責任者が常駐し、そこを基地として、開拓村を作っていったんだって。
僕らの住む地域は、最近はナッタジ村なんて言われてるけど、そんな名もない村の一つだ。ダンシュタの衛星都市ならぬ衛星集落?
とりあえず、くくりとしてダンシュタの代官管理の集落の一つってところだね。
僕らの住む地域もそうだけど、この辺りはほぼ大きな森なんだ。で、その森を切り開いて集落があるわけだけど、特にダンシュタから徒歩1時間以内の所ってのは、本当にたくさん集落があるそうです。
まぁ、実際ナッタジの屋敷からだって、子供の足でも30分ぐらいでダンシュタに着く。
町中で暮らすとなると、当然お金がかかる。
けど、いろんなものがあって便利だし、何より安全なんだよね。
ナッタジよりも近い集落は、割と消えやすいんだ。
集落って言っても、下手したら10人もいない仲間達で森を切り開いただけのものも多い。
単に都市に住みづらくなって、だったら森に家をつくっちゃおう、っていう勇者だか蛮勇者だかわかんないのが時々出てくるし。
そう言う人達は、でも諦めるのも早くて、出身の集落に出戻っちゃったり、ダンシュタに舞い戻るなんてのも少なくない。
で、そういう跡地みたいなのは、塀を出てすぐにそこそこの数あるんだって。
そんな跡地の一つ。
もともとはあばら屋が数軒建っていたらしい、ちょっぴり開けた場所。
そこに、簡易な建物を作って、患者がたくさん詰め込まれていました。
なんかね、依存症で重症の人は、たぶん内臓が黒い魔力にやられてるみたい。
軽度の人は、魔力を帯びてもいない。少なくとも僕が見る限りはね。
ただ、本当に依存症って感じで、モーメーの肉とかを食べたくってしょうがなくなってるんだそうです。
内臓がやられていたり、暴れたために拘束されたり、そんな人がもともとここに集められていたんだって。
簡易ベッドに寝かされたり、縄でくくりつけられたりしている人。
そんな病床が100を超えて設置されていました。
で、僕に魔法を使ってもらうとしたら、ってことで集められた人がその5倍以上いそう。
ベッドじゃなくて集落の広い場所に集められています。
「黒い魔力じゃなきゃ、ホーリー関係ないかも。」
アンナに僕は言ったんだけどね。
「黒い魔力って形で見えるのはダーだけだからねぇ。黒い魔力じゃない人は、魔力摂取過多だけなのかもねぇ。さて、どうするか。」
「レストランで普通に出されていたのは、魔力は多いけど別に黒くなかったよ。」
「うーん。だったら摂取させなきゃ、そのうち治るのか。酒みたいなもんだよねぇ。」
アンナが言うように、この世界では依存症といえばお酒だったりする。あとは、ある種の薬。まぁ、麻薬とかね。
魔力の多いものは、麻薬としても用いられていて、実際そういう依存症の人もいるんだよね。
だから、魔力があまりない人は、魔力の多いものはあまり口にしない方がいいって言われてる。けど、美味しいは美味しいから、そうは言っても・・・・って感じで、口にしちゃって、依存症になるんだって。
でも、そもそも魔力酔いっていわれる症状は、乗り物酔いに似てて気分が悪くなったり、消化不良を起こすから、依存症になる人ばかりじゃないんだけどね。
依存症みたいになるのは、はじめは摂取量が少ないところから始めるらしい。
美味しいからって食べる量を徐々に増やしていく。そうすると、ある時点でそれがなくちゃダメ、みたいになっちゃうそうです。
で、そういう人の治療は、ひたすらその人がはまった魔力量の多い食べ物を食べさせない、っていう、まぁ、それだけなんだよね。
代官の秘書兼執事なジャンさんと主治医をやっているネガデリーさんが一緒に来てるんだけど、僕らの話を耳に挟んだのか、僕に聞いていたよ。
「普通の依存症と今回の事件の関係と、区別できるのか?」
と、ジャンさん。
僕が頷くと、
「分けてくれんか?通常の治療でかまわんなら、我々でもなんとかなる。」
ネガデリー先生が言う。
「ちょっとでも、王子殿下の手はわずらわせん方がいいだろう。いや、失礼。見習い冒険者殿でしたな。ハハハ。どっちにしても我々医者ができるならそれにこしたことはない。」
「ダー、やってもらえるか?通常の治療で良い者は別の集落に連れて行くことにする。」
アンナもその方が良いって言うしね。
魔法をできるだけ見せない方が良いってこともあるみたい。
あと、ホーリー自体の危険性とかが分かんない、とか。
魔力が消えるのは、あの黒い魔力だけだから、通常の魔力過多症には、そもそも効かない、よね。
てことで、黒い魔力を帯びてない人は退場いただくってことで、まずはより分け作業です。
一緒に来た代官の騎士や憲兵さんにも手伝ってもらって、僕は黒い魔力を纏っていない人を指摘していったよ。
集落の広場に集められた人のほとんどが、黒い魔力を纏ってなかった。
この人達は、もともと治療院にいたわけでもなくおうち療養中の人がほとんどで、そもそも療養すらせずにいた人も多いんだって。なんか問題起こして牢に繋がれちゃってた人とかね。今回、僕の魔法でなんとかできるかも、ってことで、治安維持のことも兼ねてつれてこられた人達だったようです。
だから、ここまで連れてこられた上に、すぐにまた移動ってことで、えらく怒ってた人もいっぱいでした。
でも、兵士さんたちは気にせず、どんどん連れ出していっちゃった。
別の集落で療養=半監禁状態にされそうで、ちょっと気の毒。
「気にしなくても、そもそもが我慢できなかったあいつらが悪いんだよ。1回2回じゃ、ああはならないんだからね。」
アンナにそんな風に言われて、気を取り直します。
ちゃんと処理しない高魔力のものを、耐性のない人が何回も食べちゃったことが原因。僕らみたいに耐性があれば美味しいってだけで済むのに、気の毒っちゃ気の毒だけどね。
それに、食べること自体は犯罪でもなんでもないしね。
魔力過多の物ってのは、摂取した人の魔力量によって善にも悪にもなる。ってことで、自己責任の世界。
それの影響で犯罪を犯したり借金まみれになったり、ってことが問題なわけで、摂取自体はなんらおとがめナシ、なんだよねぇ。これは麻薬もアルコールも同じなんだけど。
あ、無理矢理こういうのを人に摂取させるのは犯罪になるよ。自分が納得して摂取、は、犯罪じゃないんだ。
なんとなく、複雑な思いで、黒い魔力を帯びていない患者と、ジャンさんたちはじめとする同行者を見送った僕とアンナ。
うん、約束通り、僕とアンナだけで対処する。
大騒ぎの後は、人も減ってなんだか森の気配が濃厚になった気分。
広場に残ったのは20人ほど。
これなら、建物の中に入れるね、と、簡易建物に誘います。
ベッドは余ってないから、適当に床とか椅子とか座ってもらって、アンナがお香を焚き始めたよ。
ていうか、一種の薬草で眠りを誘うやつ。
僕は、僕とアンナだけ結界に包んで、しばらく休憩です。
半時間ぐらいかな?前世換算で。
僕とアンナ以外は夢の中です。
窓や扉を全開して、軽く風の魔法も使い空気を入れ換え。
さて、ちゃんと治療できればいいんだけど。
僕は、深呼吸を一つして、唱えたよ。
ホーリー・・・
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