第163話 アンナ・・・灼熱の砦

 灼熱の砦。

 昔、まだひいじいさんたちと冒険者をしていた頃に付けられたアンナの二つ名だ。

 アンナの姿は、旅の時は剣士寄りの冒険者。でもまぁ、あの赤茶色の濃い髪を見れば魔導師としても凄いんだろうなって、みんな思うとは思うけどね。


 子供時代のアンナは騎士になりたかったみたいです。

 女の子ってだけで、簡単な護身術しか身につけられなかった教育。侯爵家ご令嬢だったアンナはそれがのも凄くいやだったんだそう。

 政治の駒になりたくなくて出奔しさまよっていたところをひいじいさんに拾われて、騎士としても魔導師としてもメキメキと強くなっていったらしい。

 もともと才能もあって冒険者としても有名になっていったんだけど、その猛々しくも頼りがいのある姿からついたのが、灼熱の砦って二つ名だったそうです。


 その髪を見れば分かるけど、アンナの主な魔力は火の属性なんだ。

 他にも、火が使える人がよく使える光と、土の属性魔法が使える。


 いかにも魔導師ですって人は、杖だったり人によってはメイスだったりを持っていて、それを媒介に魔法を使う人が多い。

 僕はほとんどそれを自分の肉体で賄っちゃってるけど、普通は媒介物に魔石を組み込んで、魔力を増幅したり指向性を与えて効率良くするって聞いてる。


 だけどアンナは杖を持っていない。

 持っているのは剣1つ。

 その剣が杖の代わりをするんだけど、その柄の部分にいくつかの魔石が組み込まれていて、魔法を使うにはそれらを上手に使うんだ。

 普通の杖みたいに剣を使って発動することもあるけど、彼女が特殊なのは、物に火を纏わせることができるってこと。

 どうもこれは土魔法が使えるからできる技らしく、剣に炎を纏わせて切るに焼くを追加した剣戟を行ったり、剣に纏わせた炎だけを飛ばして、炎のスラッシュみたいなのもできるんだ。


 僕?


 できなくはない、んだけど・・・

 コントロールが難しくて、火を纏わせた剣がダメになっちゃうし、そもそも火を飛ばすのもわざわざ剣を使わずにできるから、意味が無いっていうか・・・・


 でね、ここが肝心。

 魔法はイメージ、だよね。

 僕は前世の記憶もあるから、この感覚は難しいんだけど、命=炎って連想するのがこの世界の人達なんだ。前世でも命をろうそくの灯火に関連づけたり、って物語もあったけど、どっちかっていうと魂の様子を具現化したものって扱いだったと思う。少なくとも僕にはそう感じるものだった。


 だけどね、この世界では火っていうのは魔力を内包しているし、熱も持っているってこともあって、火を肉体でくるんでいるのが生物で、ほら、死んじゃうと動物って冷たくなっちゃうじゃない?だから、熱=火=命って考え方なんだよね。

 てことで、なぜだか治癒魔法っていうのは火属性だって思われてたりする。

 火と光は近い物として考えられていて、火の代表が太陽だから、太陽の光は暖かくて白いってことになる。

 ママの髪は銀髪だよね?これはまさに光の色。で、高名な治癒魔法を使う魔導師ってことになるんだ。

 なんていうか、光は火のもうちょっと上位な力ってイメージ、かな?


 そういうこともあって、火と光の属性を持っているアンナって、治癒魔法も使えたりします。って言ってもうちはママがいるし、そういうイメージは少ないんだけどね。火を纏った剣でバッサバッサって感じだし。

 あ、灼熱の砦ってのは、なんかたくさんの冒険者が集まった討伐の時にね、ゴーダンが築いた土の壁に炎を纏わせて、攻防一体の避難所を作ったんだって。弓を使う人に、木の矢を炎越しに撃てって命令して、たくさんの火矢を放たせた戦乙女、って有名になったらしい。



 古くからの冒険者なんかは、勇ましいのもう一つの魅力が、簡単な治癒魔法だって思ってるそうです。

 アンナが治癒魔法を使うのはほとんど知らない僕に、集まったベテラン冒険者たちが教えてくれたよ。

 「治癒というよりは、を絶やさないように協力するだけだがね。」

 とは、アンナの言葉。

 僕やママの治癒魔法、モーリス先生の医術を知った今では、自分の魔法は治癒とはいえないものだ、ってことらしいです。


 なんでもね、魔力を吹き込むことにより本人の魔力を活性化させ、自己治癒力を増加させる助けをしているってことらしい。

 ちなみにこれができる人は限られているし、そもそもこの世界で普通に治癒魔術って言ったらこういうのを指すんだって。

 ママや僕みたいに、傷口が見る見るふさがっていくのは、魔法のある世界でだって奇蹟の技だってことらしいです。

 この辺の感覚の差も、いろいろな人に非常識、って言われる原因の1つみたいだね。


 ちなみに・・・・

 ママのは本当に奇蹟みたいなものだと思う。けど、僕のは前世のゲーム知識から来るイメージで魔法を使っているからだよね。だって、ヒールって唱えたら傷が治るなんて当たり前の現象、だよね?そのイメージで疑問も思わずにやったらできた、このパターンも割と多くて困っちゃう。



 まぁ、僕らは置いておいて、アンナはこの世界の常識的な治癒魔法の使い手です。

 人に魔力を与えて活性化するって仕様上、魔力が多くないとできないしそう言う意味でも使い手が少ないとはいえ、アンナには可能なんだ。

 つまり何が言いたいかっていうと、アンナは魔力を人に分け与えることができる、ってこと。そうして本人の自己治癒力を引き出すことができるってことなんだ。


 僕だって人に魔力を与えることができるよ。

 でもね、残念ながら無駄に多い僕の魔力は、質も量もすごいらしく、ほんのちょっとって思っても、一般人には多すぎるらしい。

 過ぎたるは及ばざるがごとし。

 魔力の多い人に渡すのなら別だけど、そうでない人には魔力過多で下手したら死んじゃう。

 魔力が減って僕から供給するってときは大体は勝手に持っていってもらうって形を普段は取ってるんだけどね。ある程度人の魔力を操作できる力量が無いと、それも無理な話。



 ここで話は元に戻る。

 代官から、依存患者の治療を頼まれた僕だったけど、アンナが僕と二人で治療に当たるって言ってくれたんだ。

 依存患者はダンシュタでは問題になるほど多くなっていて、レストランの時の捕まっていた人達でも分かるけど、ホーリーで黒い魔力を消すのが一番だってなってるみたい。まぁ、あの魔力を黒いって認識している人はほぼいないし、ただ独特の強い魔力を帯びた状態だってのは、解析されているようで、それを僕が魔法で取り除いたってのが、みんなの認識みたいなんだよね。


 ちなみに、1回のホーリーで、ダンシュタの多くの黒い魔力を帯びた物は白い砂へと変わった。

 とはいっても、それは商店が多くある街区でだし、そもそも狙ってないうっすらとした魔力まで捕らえているわけじゃなかったようです。

 依存症の場合、内臓が強い魔力に浸食されていることが多いみたい。

 これは、レストランで助からなかった人の解体した遺体からの情報です。

 で、一応助かった人もいたわけで、アンナを含め数名の治癒魔力を持つ人が治療したけど、魔力をある程度渡して自己治癒力が高まった患者は、改善しつつあるんだって。

 そこで、あのときのホーリーに触れなかった依存症の人達が集められ、僕に依頼された、ってことみたい。

 まぁ、アンナの意見も多かったみたいだけどね。

 ホーリーの説明もあったし、相談する中で、治る可能性として、僕の魔法を使うってのが出てきたらしいんだ。


 僕のことを出したアンナは、ただし、って条件をつけたみたいです。

 ホーリーは内緒だからね。

 患者は眠らせておいて、治療室には患者以外、僕とアンナだけ。

 失敗しても、僕に責任はない。

 僕の体調等、都合優先で。

 当然、僕の意志も優先で。


 僕がいつ来るかも分からないまま、こんな話をしていたらしいんだ。

 思ったより早く現れたって、喜んでくれたよ。


 ダンシュタは、僕の故郷だ。

 いい人も悪い人もいるし、依存症になる人はなんでその前に立ち止まれなかったのかな、なんて思わなくもない。

 けど、頼りにされるのは嬉しいし、僕にとって大変な話ってわけでもない。あ、人数がいそうだから、ちょっと大変かな?領都でもホーリーを使わなくちゃなんないし、あの魔法は魔力を無駄に使っちゃうから。

 でもまぁ、色々思うことはあっても、助けられる人は助けたいって気もあるんだよね。


 「アンナの提案なら、いいよ。」


 みんなに注目された僕は、ニッコリ笑ってそう答えた。




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