第162話 ダンシュタでのお願い
ダンシュタは言っても本店のある場所です。
お店はそれなりに大きいし、扱う商品も多いんだ。
乳製品に武器防具、後はママがはまって作りまくっている陶芸作品、まぁ、食器だね。その他いろいろ。
この世界では陶芸は珍しい。
庶民は木を削るか、適当な石を見つけるか。あとは大きな木の葉っぱ。高価な物として金属系、かな?
魔法がある世界だからか、大きな石をくりぬくってパターンもかなりあります。石鍋は少なくないかな。とくに平民なら、自分で拾ってきて作れる物が主だと思えば良いです。
けど、ダンシュタではわがナッタジ商会が陶器を広めてるから、割とお金持ちではなくても、陶器の食器を使うようになったよ。ほぼ素焼きなんで、僕としては釉薬になる物を探しているところ。ま、ひいじいさんメモが頼りなんだけどね。
トレネー領都で僕はやることがないってことで、自分の部屋の机の引き出しを通ってダンシュタまでやってきたよ。
こっそりと屋敷から出て、ダンシュタの店へと向かいます。
店に着くと、事務所になぜかジャンさんもいた。
ジャンっていうのは、ここダンシュタの代官ミサリタノボア子爵に仕える執事で、まぁ、代官の右腕ってやつ?
この人ももともとミサリタノボア子爵の奴隷だったんだけど、奴隷時代から重宝されていたようで、冒険者登録もしているって人。
無口でおっかないけど、なんていうか、忠義の人、なんだよね。
子爵の元奴隷ってことで、当然魔導師です。うん。魔導師を集めて喜んでいたのは過去の話だけどね。
うちの事務所ではアンナとジャン、そして、何人かの街の有力者が集まって相談事のようでした。
小さな町だし、この町じゃ我がナッタジ商会は有力な商会ってことで、みなさん僕とは顔なじみだよ。
でも、何の集まりだろう?
どうやら話によると、黒い魔力の事後相談ってことみたいです。
僕の魔法で、あらかたの魔力を帯びた物は白い粉になっちゃって、なんだったら魔力を帯びていた高価な素材とかが、価値を随分低くしたってことは、まぁ、みなさん知ったようだけど、あんまり問題にはなってないみたい。
関係者はほぼほぼ捕まっちゃったから、それは当然、そんな空気が流れてはいるんだけど。
「人的被害が思ったより深い。」
ジャンさんが僕に言ったよ。
よくよく聞いてみると、ダンシュタにはかなり以前から、人がおかしくなる、っていうか依存症になるっていう食べ物に関しては、問題になっていたんだそうです。
中心は乳製品。そしてお肉。
今捕まっちゃってるいくつかの食料品店から出された乳製品は、うちのより安くておいしいって無茶苦茶売れてたそうです。といっても、1口目とかはやっぱり安いだけのお味ではあるよね、なんて言って食べ始めるんだそう。だけど、食事が終わる頃には、すぐにでもまた食べたくなっちゃうようなものだったので、まぁ、うちのより美味しいんだろう、なんて感想を多くの人が持った、らしいんだよね。
ただ、それに首を傾げる人もいて、完全にうちからシェアを奪ったわけじゃないみたい。魔力がそれなりに多いと依存症にならない、またはなりにくい、ってのが原因だったみたいだけどね。
特に、これが顕著になったのは、夏の季節の頃だっていう。
今は冬の初めだから半年近く前からってことかな。僕らが南部遠征に行く辺りか、その直前って感じか?
魔力が多くて感知能力がある人は、明らかに魔力を多くを含む乳製品とかお肉に違和感を感じ始めてはいたんだそう。それに比例するように中毒性が高くなったり、魔力過多で体調を崩す人も出始めて、いろいろ噂も出始めたんだという。
特に、僕らが突入したレストラン。
たくさんの依存症と思われる人が列をなし、姿を消す人も現れ始めた。
そんな中、僕が起こしたホーリーからの大捕物劇です。
捕まったレストランの人によると、レストランに通いたくてもお金がなく借金までした人達を、レストランは借金を肩代わりした上で雇ったんだって主張しているんだって。
雇った人には試食品を食べてもらうという仕事をしてもらう。いわばモニターだね。住み込み仕事をして、もし何かの拍子に亡くなったならば、遺体を店に提供する、って契約だって。
怪しいは怪しいけど、ちゃんとした契約書だったみたい。
で、彼らは、与えられた部屋、っていってもあの隠された倉庫だったみたいだけど、そこで寝泊まりをしつつ、怪しい肉を堪能していたようです。
争うように肉に食らい付いていたんだから、レストランには非はない、なんて、レストラン側は主張してるんだってさ。
あの肉は、特殊な方法で熟成された肉、だそう。シェフ曰く、だけどね。
当局の調べでは、壺に入れた特殊な薬剤と一緒の部屋で熟成させることにより肉は旨味を増す、そしてそんな肉を食べた人間の多くは、なぜか魔力過多の症状を引き起こして亡くなってしまうんだけど、その遺体の血を特殊な生育法で育てたモーメーに与えると、さらに肉や乳の旨味が増すということが分かっているのだ、という。
この壺に入った特殊な薬剤については、禁制品を扱っているという噂の、まぁ、ホーリーで被害にあった商会の大半に知られている物だったらしい。生きたモーメーだけじゃなく、ある種の魔物の素材の価値も上げる効果があるのだとか。
よくよく考えると、おそろしいことに、この壺に入った特殊な薬剤ってのは、タールの魔物の欠片、のようです。うん。王都で暴走した馬車にあった、あれ、です。
王都に運ばれるよりずっと前から、ここダンシュタに運び込まれていたっていう、ゾッとするような話だったんだって。
でも、あの日、ホーリーを使ったあの日、僕は黒い魔力は感じたけど、タールのねとりとした魔力は感じなかった気がするんだけど・・・
ただ、モーメーの口に垂らされていた、ご遺体の血からはタールになりかけみたいな濃い魔力を感じたっけ?
あのときはまだ壺の事も知らなかったし、気付いてなかっただけかもしれないけどね。
「ダーがあの魔力を消したのだと聞いている。」
ジャンが言ったよ。
「あ、まぁ、そうなるかな?」
ホーリー内緒だし、と思いつつ、アンナにヘルプの目を向けながら、僕は答えた。
「レストランの奥に捕らえられていた者達の中には、助かった者もいた。もっとも手遅れな者もいたがな。」
ジャンが言う。
その報告は、一応聞いてはいたけどね。
黒い魔力の浸食が激しいと、白い砂状になっちゃう。人間の内臓だって同じみたい。だけど、その範囲が少ないなら、回復するというのもありだそう。なんていうか治癒魔力とかで再生させるか、自然回復に頼るしかないんだけど。
ママがね、普通の魔力を補填してから治癒魔法をかければ治るんじゃないかって提案してたらしい。
魔力が消えて白い砂っぽくなるから、まず魔力を与えてあげないと、治癒の魔法が役に立たないんだそうです。
といっても、これは、王都で事後処理するに当たって、預かったモーメーの治療をママがしたから分かったことなんで、人間では確認してないけどね。
「これは代官からのお願いなんだが、ダーに依存患者の治療を頼めないだろうか。」
ジャンの言葉に、集まった人達の真剣な目が、僕へと向けられた。
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