第161話 大捕物の翌日は・・・

 翌日は、僕はお休みになっちゃった。


 なんだかんだいったって、トレネーナンバーワンと言っても過言じゃない商会の全部の施設を押さえるのは、半日弱じゃ難しかったらしい。

 メインのお店と、貴族並みのでっかいお屋敷と、知られた大倉庫を中心に、伯爵持ちの騎士団と憲兵さんと冒険者たち総出に近い人数で頑張ったみたいだけどねぇ。


 本当は、会頭とか主だった商会幹部を捕縛したかったみたいです。

 けど、大幹部レベルは全然見つかってなくって、施設長=各店舗の責任者とか、倉庫の管理人とか、メイド長とか、そんな人しか見つかってないんだ。



 なんかね、ここ数年の話として、レッデゼッサ商会って、業績が悪くなってきていたってのは、噂でも回ってたんだって。それでも大店には違いなくて、商業ギルドでも威張ってたらしいけどね。

 ただ、最近は母体でもあった冒険者相手の商売とかを中心に客を横取りされてるって、怒り心頭って様子が散見されてたんだそう。うん、わがナッタジ商会が彼らからしたら、大悪党、だそうです。


 ただね、もともと客層が違うんだよね。

 レッデゼッサ商会の扱う武器や防具って、量産品っていうか、鋳造、なんだよね。

 だから安いってのもあって、飾り気のないものは新人冒険者が手に取りやすい。

 あとは、見た目重視の、貴族とかお金持ち相手の飾り用のものとかで、特注のは派手派手。

 そういう二極化した商品がメインなんだよね。

 だから、中堅以上の冒険者にはそもそも需要が少なかったから、そのあたりは関係ないと思うんだ。


 でも、うちの商会、カイザーを中心に、ドワーフ産の武器防具を出したりもしてるからねぇ。そこが気に入らなかったみたい。

 そもそも、うちのは1本1本打ち出したものしか扱ってないんだから、商品としては全然違う物なんだけどなぁ。あ、ちなみに鋳造ってのは、型を作って、その中に金属を流し入れて作るやつ。

 わかりやすく言うと、クッキーの型を作って焼くお菓子と、手びねりで焼くお菓子の違い。ってちょっと違う?


 ただ、値段で考えると、当然1本1本打ち出しした物の方が高くなる。

 だから、うちの商品は高い。

 といっても、レッデゼッサ商会が貴族に向けて売ってるのよりは、安いのも多いけどね。あれは、宝石とか珍しい素材を使うから高くなってるともいうけど・・・それに、さすがにそういう特注物は鍛造=1つずつ叩いてつくっているんだとは思うけど。実物は見たことないし、多分、だけどね。


 まぁ、そうはいっても、最近は僕がたくさんのドワーフ鍛冶師と仲良くなっちゃって、一応僕が預かっていることになっている元トレシュク領に大勢住み着いてるんだよね。しかも弟子なんかを持ってたりするから、その弟子達が練習で打ったものをかなりお安く店に出してたりもするんだ。

 弟子の練習用って言ったって、親方が販売OKしたものだから、はっきり言ってレッデゼッサ商会の新人向けの物よりもずっと質が上。

 お値段はさすがに向こうより高いけど、自分の命を預ける物だからって、頑張って手にする新人とかそれに近い低レベルの冒険者も増えてきたらしいです。

 てことで、その分野での売り上げダウン。


 だけじゃなくって、貴族向けも・・・


 一応、見た目には随分華やか、なんだけどね、レッデゼッサ商会の特注品って。

 だけどね。なんだかんだっいったって、その世界じゃカイザーって超有名人なんだそうです。ひいじいさんたちと冒険者やってたのも知られてるし、今、宵の明星に所属して、頼まれれば武器や防具だって作ってる。

 カイザーのお眼鏡にかなわない注文でも、ほら、僕の友人のドワーフの親方もいるでしょ?カイザーの友人ってことでもあるから、そんな鍛冶師に作って貰った方が貴族だって自慢できる、らしいです。

 ってことで、かなりお客がそっちにも流れているらしい。

 当然、これも含めて憎きナッタジ商会の陰謀、なんだってさ。



 他にも、ちょこちょこ便利グッズ的な物を作っちゃったりして、どうやら庶民相手にもナッタジに客を取られた、なんて言ってるらしいです。

 ただね、本当に規模で考えたら、うちなんて、レッデゼッサ商会の1つのお店レベルでしかないんだけどなぁ。



 どっちにしても、レッデゼッサ商会会頭さんは、ナッタジ商会ってのが大っ嫌いみたい。

 ヨシュアの話では、あのおうちは代々、貴族っていうか身分に固執してるってことみたいなんだけど、うちみたいに小さい商会の人間がことごとく叙爵されてるってのも気に入らない原因らしい。

 って言っても、一応男爵位はもらってるらしいんだけどね。

 代々一代貴族としてだけど、会頭になるときに男爵に叙爵はしてもらってるんだって。子供たちまで引き継げないのは、割と商人を貴族にする場合には多いんだそうです。



 それなのにうちは・・・ってことなんだろうね。

 ママやヨシュアは男爵位だけど、一代じゃなくて、子供に引き継ぐことができる身分になってる。一口に男爵って言っても、身分差はあるんだよね。

 他にもゴーダン達なんて子爵だし、僕に至っては王子・・・


 きっと身内では悪口をいっぱい言ってたんだろう。

 特に僕やママが奴隷だったのに、とか、美貌で陛下達をたぶらかした、とかね。

 あ、美貌とかって僕が言ったんじゃないよ。そんなナルシストじゃないんだけどさ、この世界での基準で言ったら、単に髪の色って大きいってのもあるし、そういう評価がされるらしくって・・・うっ、言ってて恥ずかしい。

 まぁ、この発言は御曹司のガイガム君が、取り調べの折、していた内容、だってさ。byラッセイ。



 ま、そんなこんなで、鋭意捜索中のレッデゼッサ商会幹部としては、僕らナッタジ商会が大っ嫌いなんだよね。

 で、まさかまさか、の、トレネー支店襲撃、あれの命令は会頭ではないけどって話なんだけど、命令したのはその幹部だって話が上がってきたんだ。


 うん、予想はしていた。


 けど、捕まえた襲撃者や、レッデゼッサ商会の中堅幹部等の証言から、あの襲撃はどうやら冒険者相手の商品を担当している幹部が、伝手をたどって謀ったってことが分かったんだそう。

 なんでも、業績悪化が原因で責められていたらしく、さらには、知り合いの冒険者を通じてレッデゼッサ商会大捕物計画を聞き及んだ彼が、乳製品を扱う郊外の支店を襲撃して、うちに打撃を与えようって考えたんだって。乳製品を扱うイートインスペースをちょっと持つだけの店なんて軽くひねれる、って思ったそうです。

 意味が分かんないけど、店と店の従業員を人質に、高級素材だけでも交換する手はずだった、そう襲撃犯が自供したって聞いたよ。

 あ、その責任者は、目下追跡中で、まもなく捕まるだろう、って。



 とにもかくにも、捕まえた従業員たちを尋問して、すべての施設を割り出し、何もかもあきらかにするんだってワーレン伯爵が張り切ってるそうです。


 で、ホーリー、なんだけど・・・・


 結局、今日は保留になっちゃったよ。


 結界張ってる魔導師たち、大丈夫かな?そう思ってお手伝いでも、って覗きに行ったら、虐殺の輪舞のネリアに追い出されちゃった。トレネーの魔導師をなめんな、だって。いや、僕もそのトレネーの魔導師、なんだけど・・・


 ヨシュアも、ゴーダンも、冒険者として新たに判明した施設へ捕縛の手伝いに行っている。あわよくば幹部をいっぱい逮捕したいみたい。


 僕は、・・・さて、どうしよう。


 つまんないから、ダンシュタに戻ろうか。

 アンナも一人じゃ、寂しい、よね?

 マジックバックの配達に、僕は行くことにしたよ。

 

 

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