第160話 アジトの3人

 僕と途中で別れたダンは、そのまま領主の館へと走り、事情を話したようです。

 領主から、館に残していた私兵を数名借りてこちらに向かう途中、後発のバンジーたちと合流、無事捕り物に間に合ったってわけ。


 「相変わらずデタラメな魔法だなぁ。」

 ヒューっと口笛を吹き、ダンがそう言ったけど、今回はちゃんとコントロールできてるからね?バンミなしでこの被害だと、褒めてもらってもいい範囲、だと思うんだ。


 それでも・・・・


 はぁ、と目の前の惨状を見てため息をついたよ。

 もちろん僕がやったんじゃなくて、犯人が暴れた後だ。

 まぁ、外のは・・・あきらめてください。だって風って言ったもん、ヨシュアが。

 風で飛んじゃった分は仕方ない、よね?


 僕が言っているのは、中の方。


 店の扉は蝶番が外れているし、扉の内側がえぐれてる。

 窓とかディスプレイも誰かが暴れてぐちゃぐちゃにしたって分かる程。

 扉の所には、机とか椅子とか、ちょっとした棚とかでバリケードを築いていて、床なんかもところどころめくれてる。

 まったくもう、元に戻すのは大変だよ。


 念話でも話したけど、どうやら客の振りして居残ってた人が、他の客がいなくなったのを見て、ナイフを突き立ててきたらしい。

 と、同時に、ドドドって勢いで複数の人間が飛び込んできたんだって。

 その様子に2階でいろいろやっていたヨシュアたちが気付いて、慌てて飛び降りてきて、まずは店内で乱闘になったらしい。

 で、なんとか、店の中のやつらをやっつけたんだけど、そのタイミングで外から弓と魔法が撃ち込まれた。で、慌ててバリケードを築きつつ、ヨシュア達戦える人間が戸外に出た。


 ヨシュアたちが飛び降りたと同じに、本店へとモールスを送ったのはナン兄ちゃんだったんだって。でもナン兄ちゃんは魔力が少ないから魔石を使ったって事もあり、必要最小限の伝言。幸いそれが無事ギルドまで伝言ゲームできて、ギルドスタッフの機転でいち早くゴーダンの耳に入れたってことみたい。



 ゴーダンとも念話を繋ぎつつ、情報を僕らが共有している間に、騎士団の人達が、拘束した襲撃班の人達を連れて行った。

 このまま憲兵の所に連れて行く、とのことだけど、捕まった人の何人かに見覚えがあるってことで、虐殺の輪舞も、一緒に戻っていったよ。

 彼らによると、見知った人っていうのが、あまり評判の良くない冒険者達だって言うんだ。お金でなんでもするような人達、らしい。

 どこかから流れてきて、ここ1年ちょっとぐらい前からトレネーにいるって話でした。



 お店だけど、しばらく休業かなぁ。

 幸い2階の居住区は大丈夫。ていうか、壊れちゃったのは店の部分だけで、奥の倉庫とかも問題はなかったようです。

 「屋根はなおさなきゃだけどね。」

 と、ヨシュア。アハハ、あれは僕のせいだよね、ごめんなさい。

 とりあえずの応急処置だけはして、今日は終了です。


 みんなで宵の明星のアジトか宿屋へ行こうって誘ったけど、2階は問題ないし、不用心だからってみんないつもどおりここに住むって。

 一応、DやEランクの冒険者レベルの人もいるけど、大丈夫かなぁ?

 ま、僕とヨシュアがいるから大丈夫・・・って、追い出さなくても良いじゃん。

 「二人の寝床はありません。私たちからベッドを取り上げる気ですか?」

 なんて笑顔で脅されたので、僕らは仕方なく撤収したよ。

 なんていうか・・・商会主の家族だからってそんなに気を使わなくて良いのにね。


 て、ちょっとぶぅたれていたら、笑いながらヨシュアが僕を抱き上げたよ。

 「ちょっと、もう抱っこされる年でもないんだし、はずかしいから降ろしてよ。」

 「私がダーを抱いていたいんです。家族とずっと離れ離れで頑張っていた父に優しくしてくれないんですか?」

 「いや、父って・・・」

 「ダーは認めてくれていないんですか?ミミとのこと。」

 ヨシュアは悲しそうな顔をする。

 そんなわけないじゃん。

 僕は、否定して、大人しく抱かれることにしたよ。まったくいつからこんなわがままなパパになっちゃったんだろう・・・


 フフ、って、ヨシュアが笑って、ちょっと僕は頬を膨らませる。

 ヨシュアの腕の中はあったかくって、寒くなってきたこの時期にはなかなかのくせ者です。

 昼にこっちにやってきて、それから走るか話し合い。

 結構ヘビーな時間だった、よね?

 ヨシュアが歩いてるそのリズムも心地よくて、気がついたら僕は夢の中・・・・



 串焼きの良い匂いで目が覚めたら、トレネーのアジト、のソファの上だった。

 ゴーダンも戻っていて、どうやらご飯も調達してきたみたい。

 ご飯の用意をしつつ、二人がなにやらお話ししてるよ。

 あ、ホーリー!


 「いや、今日はまだいい。明日朝一で塀の外に集めた品にかけることになった。」

 ゴーダンが言ったよ。でも早い方がいいって・・・

 「そうなんだがな、お前さん、今日はかなりの魔力を使っただろう?魔導師、つうか特にネリアが切れてな。どっちにしろ、人の拘束が主になってるってのもあって、とにかく全部集めるまでダーは休ませろっと。」


 ゴーダンによると、あの風の魔法=トルネードなんてぶっ放したら普通は魔力切れでダウンなんだって。それ以外にもちょこちょこ使ってるしってことで、なんていうか、念話のこともバレてたみたい。長距離念話っていうか、ゴーダンと繋げていたのが僕の魔力だってことも気付いてたようで、なんていうか、僕の心配をしてくれたらしい、多分。

 ゴーダンとしても、マジックバックを使ったなんちゃって転移とかもあるし、やっぱりホーリーは日をあらためて、って思ったみたいで、一度解散。

 黒い魔力を帯びた物を集めているところは、魔導師たちが集まって、結界を順番に張ってるんだって。


 「相変わらずネリアはすごかったぞ。ギルド長に、『あんな小さな子に全部背負わせて雁首揃えて何やってんのよ!大人の威厳はプライドはないの?!』なんて啖呵切ってなぁ。とにかく今日はダーの魔法は打ち止めです、って有無を言わせなかったんだ。」

 「彼女は昔っから、うちのダーの保護者にこだわってますからね。」

 ゴーダンが嘆いて、ヨシュアが微笑ましげに言ったよ。

 僕もだけど、ヨシュアも、ネリアの捲し立ててる様子が想像できちゃった。

 ハハハ、って、僕は乾いた笑いをするしかない、ね。


 ゴーダンとヨシュアと僕。

 あんまり多い組み合わせじゃないなぁ。けど違和感なんて全然なくて、なかなかに穏やかな時間。


 そうだ。


 僕は二人にママ特製のマジックバックを渡したよ。

 ゴーダンはちょっと硬めの革のリュックだね。

 あ、ヨシュアのは僕のよりもだいぶ大きいけどポシェット、ていうかヒップバックっぽい?

 二人にそれぞれ血をもらい、宙さんにお願いしてのマジックバックの作成には、やっぱりそれなりの魔力が持って行かれちゃって・・・

 アハッ。

 これを見たらまたまたネリアが怒り出しそう。

 さすがに僕も魔力が随分減ってぼうっとしそうです。


 でもこれで、二人にも渡したし、メインイベントは・・・・明日のホーリーもあったっけ。


 だけど、今日はもうおしまい。

 おやすみなさい。

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