第159話 支店襲撃を救え!
ダムと二人、ギルドとかたくさんの商会とかが集まる中心部を(僕にとっては)最速で駆け抜けて、ちょっとそこから外れたあと、ダムは「先行して応援を呼ぶ」と言って、ピューンって消えちゃったよ。
僕だって、それなりに鍛えているし、冒険者としてもかなり早い方だと思う。
でも本職の斥候系の人はさらに早いし、そもそも
はぁ。
せめて、平均身長でもあればもうちょっと早くなれるのに、なんて、こういうときは思う。
周りの子供と背くらべしても6歳か7歳ぐらいの子とかわんない。
見た感じもそのぐらいに見えるっぽい。
ドクとかは、魔力の影響で成長が遅いから心配することはないはず、ゆっくり成長する分寿命も長いだろう、なんて言って喜んでるけどね。
一人で走っていると、関係のないこんなことをぼうっと思っちゃう。ていうか、しょうもないことを考えていないと、不安と怒りで押しつぶされそうになるよ。
僕の大切な商会が襲われている。
そこには、パパになってくれたヨシュアをはじめ、小さい頃から可愛がってくれてた、今はトレネー支店の番頭さんのナン兄ちゃんとか、他にもたくさんの大切な人達がいるんだ。
伝言ゲームになったトンツーのモールス信号を経ての情報、うちが急襲されているってだけの情報に僕は自分の足が遅くって悔しくって・・・
一体誰だ!
僕の大事なものを傷つける者!
絶対許さないからな!!
走る。
走る。
走る。
心臓がバクバク言ってるし、なんか鎖骨辺りがキーンって痛くなってる。
顔は見えなくても真っ赤だろう。いつ顔から火が噴き出すか、なんて想像しちゃう。
それでも、遠い。
焦っちゃだめ。
それは分かってる。
バンジーが僕に先行しろって言ったのは、バンジーとかジムニ、アルなんていう後から来るみんなよりも多分早いだろうから。
でも、みんなが後だからこそ、僕が守らなきゃ。
だから・・・
走る、走る、走る・・・
店は小さな湖畔に立つ小さなものなんだ。
領主が候補地を上げた1つで、一番綺麗だからってママが選んだ場所。
領主様が、うちの乳製品を簡単に買えるようにって、領主邸の近くにばかり候補を挙げてる、って、その選定の頃、みんなで笑ったもんだ。
領主邸や貴族の屋敷が多い地区にほど近いそこは、途中から領主の館方面と反対方向に行くことになる。
トレネーは、我が聖王国でも一番大きな領なんだ。
広さでは(未開拓地を入れれば)バルボイかもしれないけど、実際把握している広さではナンバーワン。
もともとは、王が直轄するのが大変だからと、はじめに家来たちに治めるよう命じた場所なんだそう。
王都を定め、支配が確定した土地を決め、そして開拓すべき土地を指定する。
開拓されれば確定した土地はどんどん広がる。
もともとこの確定した土地をトレネーといい、開拓地をバルボイって言ったらしい。当時の王が命じたのがトレネー公爵でありバルボイ公爵だったから、ってことらしい。
ちなみに歴史でいろいろあって、今はトレネー領主はワーレン伯爵、バルボイ領主はフォノペート伯爵。てことで血筋は変わってます。
それだけ大きな領の領都だから、その中に商業区、平民の居住区、貴族の居住区がおおざっぱにはあって、貴族の居住区近くには、慰安用の森が残されている。
塀の外とは違って安全な森は、この世界においてもリクリエーションの場として使われている。
そんな森の一角にあるのがナッタジ商会トレネー支店で、普段は風の音と鳥の声に癒やされる場なんだ。
あ、そうそう。商業区の方にも出店的な場所はあります。一般の人達はその出店の方をトレネー支店だって思っている人もいるみたい。
はじめはこの郊外の方だけだったんだけど、買いたくてもお貴族様がいっぱいで行きにくいっていう声が多く、小さな販売だけのお店も、これは商店が並ぶ地区の一角につくったんだ。
でもまあ正式なトレネー支店はこっち。
小さな店だけど、買うだけじゃなくて、イートインっていうのかな、中じゃないから「イン」はおかしいか?お店の周りにちょっとだけテーブルと椅子を並べていて、そこでちょっとしたものを食べられるようにしているんだ。
チーズとかヨーグルト、生クリームなんかの食べ方を見せるために始めたんだけど、なんていうか、貴族のあこがれのお店、になってるようです。
いつもはそんな自然と貴婦人達でゆったりと時間が流れる、わがナッタジ商会。
なのに。
やっと見えた僕の視界に映るのは、乱暴に蹴散らされたテーブルや椅子。
ただ、その蹴散らされた辺りに食器も食べ物も散らかっていないのはすぐに分かったよ。
店の周りは、うちの敷地として与えられている場所がわかりやすいように、木々は刈られている。
だから視界はそこだけ開かれていて、明らかに襲撃している人だろう者達が、玄関扉を囲むように円形に陣を組んでいるのがよく見えた。
僕から見えるのは、彼らの背中だ。
それを見て単なるチンピラの襲撃じゃないっていうのがよく分かる。
着ているのはバラバラではあるけど、革の鎧か金属の軽鎧。
でも、なんていうか、ちゃっちいのじゃなくて、ちゃんとした冒険者とか傭兵とか、それなりのクラスの戦う人が着るような物だって分かった。
そして、建物に向かっている様子にも、戦い慣れた者特有の侮れない感じが・・・
簡単に言えば単なる有象無象ではなく、それなりの腕を持った傭兵や冒険者たちだってことだ。
そんな彼らは、おそらくは店の玄関がある辺りに向かって殺気を込めた視線を送っている。
僕は最初、みんな背を向けているし、後方から襲おうか、とも思った。
けど、強そうな人たちが10数名。ひょっとした20を超えるかも知れない。
しかも、店に向かって警戒してるってことは、誰かがその向こうにいるって事。
仮に誰かいなくても、店に向かって魔法なんて撃てない。
てなると、剣?
たとえ後ろから襲ったってこの人数相手に、さすがに僕一人じゃ無理だろう。
僕は、魔力を広げ索敵をすることにしたよ。
どうすればヨシュアと連携を取れる?
感覚を広げると、やっぱりヨシュアだ。
ヨシュアが突出してるけど、その後ろに3人知った魔力の持ち主、うちの従業員たちだね。
そして、お店の中にも数名いる、かな?
あ、中には倒れているっぽい人が2名ほど。
それにヨシュアと襲撃者の間、襲撃者たちがいるところからちょっと離れたところにも、転がっている人が何人かいる。
少なくとも外で転がっている人は知らない人だ。
中で倒れている人も、少なくともよく知ってる人じゃなさそう。
僕と接点が少ない従業員さんもいるから、そういう覚えてない人の可能性もあるけけど、倒れている人に関しては全員敵の可能性が大きいかな?
つまりは、これをやったのがうちの人達で、返り討ちにしたってことだよね。
思った以上に強くて、攻めあぐねているのかなって感じです。
(ヨシュア、聞こえる?)
僕は、対峙しているだろうヨシュアにそっとテレパシーを送ったよ。
(ダーか?)
すぐにヨシュアが返事をした。
ヨシュアはテレパシーとかできるタイプじゃないけど、僕が言葉を拾う形で会話ができる。これは、宵の明星メンバーなら誰でもできるんだ。片方がテレパシーを使えればね。
(うん。今、襲撃者の背後にいる。状況を教えて。)
(客に紛れて襲撃を受けた。片付けを始めた時だったから、客に被害はない。最後の客が一味の一人ですでに拘束済み。こっちの被害はテマがかすり傷を負ったぐらいだ。客の振りをしていた女が接客したメケにナイフを突き付け、それを合図に何人か飛び込んできた。私をはじめ従業員で防衛。戦える者で外に押し返し、何人か片付けたが、ご覧の通りだ。)
僕は、ヨシュアの話をそのままゴーダンにも繋げる。
そのとき!
(ヨシュア右だ!)
僕らが会話していたことから、ヨシュアの気がちょっとだけ敵から逸れたのに気付いたのだろう、僕から見て左の男がヨシュアの右側死角から飛び出すのが見えた。
カキン!!
ヨシュアは僕の声に身体を即座にひねった。
と、同時に、鋭い音がする。
相手の男も短剣を使うようで、ヨシュアの短剣とそれよりも分厚い短剣が交叉した。
ヨシュアは弾ききれなかったけど、そのまま、上手にいなす。
力を逸らされ、たたらを踏む男の腹を膝で蹴り上げた。
男は、そのまま囲んでいる味方へと飛ばされ、陣が乱れた。
「ダー、風!」
ヨシュアが叫ぶ。
と、同時にヨシュアが3人に合図をして、店に飛び込みドアを閉めた。
「トルネード!!」
僕は両手を前に突き出して叫んだ。
すさまじい風が竜巻となって、集まっていた襲撃者達に襲いかかる。
机や椅子と共にその襲撃者達は地面から舞い上がった。
空中で椅子やらテーブルやら人通しがぶつかり合う。
もちろんちゃんとコントロールしたよ。
ちょっぴり土がえぐれたり、小枝が飛んだり、屋根もちぎれちゃったけど、一番広いところに竜巻を持ってきて、消したんだ。
ゆっくりと風が消えると、バタバタと襲撃者達が降ってくる。
お互いゴッツンコしたり、地面に落ちた衝撃で転がっているけど、それでも頭を振りながら立ちあがる人もいた。
やっぱりかなり強い人たちだ。
フラフラしながらも半数が立ちあがる。
もう一度魔法か、剣で仕留めるか?
そのとき
「任せろ、ダー!!」
後方から心強い声が聞こえたよ。
虐殺の輪舞がやってきた!
しかも、領主の騎士団を連れて!!
風が収まったのを見て飛び出したヨシュアたちと、虐殺の輪舞&騎士団の挟撃に遭った襲撃者達は、竜巻でのダメージも相まって、あっという間に全員拘束だ。
それにしても、いったいなんだ?
こいつらは、なんでうちを襲ったんだろう?
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