第158話 トレネー支店急襲?!

 「ゴーダンさん。ナッタジ商会トレネー支部からの緊急連絡です。ただいま正体不明の敵に襲撃され応戦中とのこと。至急、応援に行ってください!!」

 モールスでうちのトレネー支店から、多分冒険者ギルドにいるであろうゴーダンにって連絡が来たらしい。


 モールスはペアじゃなきゃやりとりできない。

 ただ、ダンシュタの我が家とダンシュタにあるナッタジ商会本店においてあるものはちょっと特別。魔力押しになるけれど、切り替え装置を入れたでっかいやつ。いわば番号指定ができる電話型にしているんだ。


 で、トレネー支店からどっちかへと連絡して、それをここのギルドにある魔導具へと伝言形式でモールスを送ったんだろう。

 ギルドのとうちの固定式のとも繋がるように設定してあるからね。


 「ゴーダン!」


 僕は、飛び出そうと、ゴーダンに呼びかけた。

 けど、ゴーダンってば、手に顎をのっけて何か考えてるみたい。

 考えてる場合?

 僕は焦ってさらに声をかけようとしたとき、ゴーダンが口を開いた。


 「いや、俺はこっちに残ろう。ダー、商会にはヨシュアがいるはずだ。他にも戦闘ができる従業員もいるし、そっちはお前らでなんとかしろ。」

 「おい!」

 僕が答える前に、部屋にいた人が咎めるような声を出した。

 そこそこ古株の冒険者だね。

 作戦に参加する予定の有力なパーティリーダーも会議に参加しているんだ。


 「ダーが強いと言ってもナッタジ商会を襲撃するようなヤツらだぞ!」

 「それは分かっている。が、こっちも急を要する。特に例の黒い魔力、あれを帯びた物品は触るのも危険だが、ある程度集結させる必要があるといっただろ?ダーの魔法を頼るにしてもばらけるとそれだけ無駄に魔力を使う。触るにはある程度の魔導師が必要だ。素材を運べる魔導師がな。」


 実際、先ほどの話し合いで、黒い魔力を帯びている物をできるだけ中心部から離れた場所に固めて、それにホーリーをかける、という話になっていたんだ。

 しかも、それには冒険者の中でも魔導師たちを中心にってね。

 先に制圧しなきゃなんないけど、同時に黒い魔力、特にタール状のがあればなるたけ早く処理しようってなってる。


 生憎、魔導師はそんなに多くない。パーティに1人魔導師がいれば良いなぁって感じ。ゴーダンみたいに一応戦士枠だけど魔導師としても超一流って人がわんさかいるわけないし、だからこその高ランカーだ。

 だから、収集班からゴーダンがいなくなるのはキツい。

 彼は、取り押さえ班にも入りつつ、臨機応変に収集移動を指揮することになっている。

 僕は・・・


 そもそも計画では、集められた物にホーリーを使うってだけ。

 ただ、使う場合、ゴーダンだけが側にいて、あとは離れてもらうことになっていた。

 確保段階である程度黒い魔力を帯びちゃうだろうから、ホーリーを受けて何か影響があっても困るっていうことで、大丈夫だった実績のあるゴーダンが、側につくんだっていう建前と、特殊な魔法を秘匿するっていう本音?というかみんなの遠慮、かな?


 どっちにしても突入にも収集移動にも関係しない僕の出番は本当に最後の最後。

 だから、ここにいるより僕は商会に向かう方が良い。

 ゴーダンなしでってのがキツいけど、どんな襲撃かわかんないけど、でも、僕の大事なホームを荒らす奴を放っておくわけにはいかないよ!


 僕はゴーダンに頷いて早速出ようとしたけど、そのときゴーダンは僕を引き寄せて片手でハグをした。


 (それにな、今のお前なら、領都の中で俺と心を繋げるだろ?いつでも念話ができる状態にしておいてくれ)

 身体に触れることで念話=テレパシーが簡単になるんだけどね。

 このように、ゴーダンだってお手のもの、なんだ。


 僕はママたちと産まれてすぐに話をしなくちゃいけない状態に陥ったことで、テレパシーが使えるようになった。

 普通は、今ゴーダンがやっているように、身体を接触させて、かつ、お互いが受け入れることでテレパシーで交信ができるらしいけど、僕は最初から触れてないバージョンでやってたんだよね。


 人の心もテレパシーを使うことで読めたりする。

 まぁ、人の心を読めたって良いことなんか何もない。だから普段はテレパシーを作動させないようにしてはいるけどね。

 ただ、相手が強い感情を持ってたりすると勝手にキャッチしちゃうこともあるし、テレパシー能力を使おうとすれば普通に心が分かる場合もある。まぁ、普通は人って論理立てて考えてないことも多いから、ぼやっとした感情を、絡まった糸をほどくように解析する感じではあるけれど・・・


 ただ、ゴーダンの言うのは正しい。

 多分、意識して魔法を使えば、よく知っているゴーダンの魔力を感じることはできるし、魔力さえ感じられればそれに言葉を乗っけて会話っていうか念話?ができると思う。

 まだ領都中心部と郊外にある商会っていう長距離で試したことはないけどね。多分、できると思う。ゴーダンだってたいした魔力量だからってのもあるけど。


 (このタイミングってのも怪しい。ダーがまず行って正確な状況を報告してくれ。適宜指示を出すが、俺が向かっていないっていう情報を掴ませる方が相手も油断するだろう。何かあったらすぐに駆けつける。頼んだぞ。)

 ゴーダンがさらに念話で言ったよ。


 「おいおい、ゴーダン。そんなに心配ならついてきゃいいだろうに。まぁ、魔導師が必要だってのも分かる。よし、ダーには俺たちがついてってやるよ。魔導師組はゴーダンに預ける。」

 ゴーダンが僕のことを抱き寄せたように見えたから、ゴーダンが心配しているって思ったのかな?

 会議に出席していた、このギルドでうちと双璧をはるパーティのリーダー、虐殺の輪舞のバンジーがそう言った。


 え、いいの?

 だって、虐殺の輪舞っていえば、すごい戦力だよ?


 「まぁ、領主のところの兵と憲兵だけでも、対人はある程度事足りてるし、こっちの作戦にはネリアが来てくれれば充分だ。すまんが、ダーを頼む。」

 「ジムニもそっちで使え。・・・てことだ。坊主。ダムとお前で先行しろ。その方が早いだろ?」

 そういうと、バンジーは僕をゴーダンから奪うように小脇に抱き上げ、部屋を出ると階段の上から、

 「おーい、ダム!仕事だ。ダーと先行しろ!」

 と叫んだ。

 呼ばれたダムが上を見たのを確認すると、僕をダムに向かって放り投げる。


 って、何するんだよ!

 ダムがちゃんとキャッチしてくれたし、ここから落ちたくらいで、肉体強化されてる人間がどうなるってもんでもないけど、ひどいと思わない?


 が、ダムは慣れた様子で、「ウスッ。」て言うと、僕を抱いたままギルドを飛び出した。

 「で、どこまで?」

 「あー、うちの商会。トレネ支店。」

 「了解。走れるか?」

 「うん。」


 ダムは器用にも走りながら僕を降ろすと、それなりのスピードで支店に向かって走り出した。

 僕も、必死でそのスピードに食らい付いて走り出す。

 けど、ダムにとっちゃ、僕に合わせたゆっくりペースなんだろうな、って思うとちょっぴり悔しい。

 まぁ、ダムはこういう先行が専門の斥候なんだけど・・・


 なんとなく負けた気がして、僕は、さらにちょっとギアを上げたんだ。

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