第156話 手紙の配達の件で・・・

 「まずは、アレク王子、いやダー、手紙の速やかな配達、感謝する。」


 ゴーダンと僕が残された部屋。

 ワーレン伯爵と、その右腕のおじさんだけが残ったその部屋で、伯爵が頭を下げたよ。

 「さすがにここまで早く届けられるとは思っておらなかった。」


 ハハハ。

 メール並とまではいかなくても、半日弱で王都からトレネーへ手紙が配達、なんてびっくりだもんね。前世よりすごいかも。

 普通に移動すれば前世換算で1ヶ月ちょっと。商人だともうちょっとかかるのかな?


 ただ、グレンじゃないけど、シューバ以外でもっと足の速い魔物を使う早便とか、鳥の魔物を使う航空便なんてのがないわけじゃない。

 それでも最速で5日とか、そんな感じ。特に早いのは航空便だけど、操る人がいっしょじゃないから、迷子とかでいなくなっちゃったり、他の魔物にやられちゃったりして、届かない率も高かったたりするらしい。敵に捕獲されて情報漏れたなんてのも、結構ある。

 地上便でも、足の速い魔物を使って早く届ける用途なら、少人数、なんだったら一人で駆けるから、途中で魔物や人に殺されたりもあるしね。


 だから、早い便は本当に緊急とか、届かない危険が高いことも考慮しつつ使うもんなんだ。対策として、通常の配達方法とのダブル便が普通。まずは速達で送って、正式に通常便って感じかな。

 そういうのもあるから、速達扱いの手紙は、暗号を使ったり、超簡便に要点だけを書いたり。


 だけど、今回のは、ちゃんとしたお手紙だった。

 速達に使う簡易なものじゃなくて、ちゃんと詳細付の何枚もに渡る報告&指令書って感じかな?

 本当ならこんなに早く着くような形のものじゃないはずなんだ。

 ただ、まぁ、絶対にないってわけじゃない。


 いずれにせよ、素早い鳥に持たせて最短5日で届くんだもの。

 この世界、時間の感覚は随分緩いから、1日でついたか、5日かかったか、は誤差でしかない。トレネーにいた僕の所に5日程度前に発信した手紙が届いたから、僕が慌てて届けた、っていうストーリーは、そんなに不自然じゃないはず、なんだけど・・・


 「《ダーに手紙を持たせる。至急対処を。》そう連絡が来たのは今日の昼だったんだがね。」

 「え?」

 「電信の魔導具だったか?愛称トンツー。あれは便利じゃな。」


 あちゃー。


 トンツーの魔導具。前世のモールス信号を魔法に置き換えたもので、ナッタジ商会の商品の1つ。といっても、コスト面でこれを持っている領はまだ多くない。どっちかっていうと、冒険者ギルドとか商業ギルドが買ってくれてるみたいだし・・・

 ただ、王都には1つは献上、複数購入されたらしく、騎士団とかも持っている。

 基本的には魔力を充填するか、魔力たっぷりの魔石を燃料にするし、ペア機でのみしか交信はできないようになっている。

 これは盗聴防止っていうよりも、魔導具に宿った魔力を指定する形で交信するから、複数の魔力を一つの魔導具に与えるのは大変で、それだったらペアにして決まった魔導具同士のみ交信ができるような形にする方がコストも大きさもベターだってことなんだよね。

 ちなみに、ナッタジ商会や宵の明星で使用のものは僕の魔力がメインになってるから、この原則はちょっと破綻してたりします。えへっ。


 とはいえ・・・


 先ほど、伯爵の言ってた内容が発信されたっていうんなら、まぁ、今日ぐらいに僕が持ってくからよろしくね、とも取れるわけで・・・


 「気づいたかどうかは分からないが、これが書かれた日が最後に書かれていた。」

 伯爵に渡された手紙の最後。

 あらら。ちゃんと書いてあるよ。

 「冬の始まり中旬第2の日」

 はい、今日です。


 えっとね、この国、というかこの世界は、暦はざっくりしている。

 まずは「春」「夏」「秋」「冬」にわけるでしょ。それが「始まり」と「中」と「終わり」に3分割される。

 そして、それぞれが「上旬」「中旬」「下旬」ってなるんだ。

 ただね、各旬は約10日だけど、きっちり10日ってわけじゃない。

 各季節の始まり上旬の1日が国から発表される。うん、年4回。

 たぶん、前世で言う、うるう年とかうるう日っていうのの関係だとおもうんだけどね。

 ちなみにこの発表は国ごとに違うんだって。

 他の暦を使っている国もあるらしいけどね。

 こんな暦の話も、養成所で習うんだ。


 国に指定された1日のあとは、季節はじめの上旬1日から数えていく。

 とはいってもこんなことをしているのは、お役所だけ。

 しかも、かなり上級のお役所。

 普通の人は、1日の発表すら耳にすることはなく、だいたい今は中旬頃、とか、そろそろ冬の季節に入ったかなあ?とか、季節の挨拶程度でしか思ってない。

 いや、それすらももっとざっくりしてるかも。

 「行商の人って確か去年の秋頃来たよね。今年も秋かなぁ。」

 「いや、あれはまだ夏だったんじゃないか?暑かったし。今年は遅いなぁ。冬になるんじゃないか?」

 なんて会話が普通だったりします。

 うん。

 平民なら、春夏秋冬ですらだいたいなんだよね。


 でもまぁ、さすがに各ギルトは使ってる、かな?

 依頼の関係である程度は暦もカウントしてるんだ。

 でも、短期依頼とかだと、せいぜい5日ぐらまではカウントするけど、それ以上だと単位が旬になっちゃうんだ。

 「3日以内に荷物を届けて」

 「2旬程度の護衛任務」

 とかね。



 だからね、こんなちゃんとしたお手紙でも、普通なら書いた日は、「春のはじめ」だったり、「夏の中頃」だったり。細かくても、「秋のおわり下旬」なんだよ。

 なんで、ピンポイントで日まで書いてるの?

 やっぱり僕が届ける日数を把握するため?

 これはごまかすべきか、ってか、ごまかせられる?

 僕は、どうしようって思ってゴーダンを見た。

 ゴーダンは、ちょっぴり困った顔をしつつ、鼻の頭を掻いてるし、役に立たないなぁ、もうっ。


 「ハハハ。ダーよ、そんな難しい顔をせずともよい。早々に届けてくれたことに感謝を。それだけじゃよ。なんでこんなに早く届けられたか、気にはなるが冒険者の企業秘密を聞き出すほど野暮じゃないつもりじゃ。」

 おじいさんだけど、いたずらっこみたいな目をして、伯爵が言ったよ。

 「願わくば、その力をこの国のために、いや、そこまで要求はせん。じゃが、くれぐれもこの国へと仇成す力にはしてくれるな。」

 「え?そんなこと・・・」

 「ダー。お前はこの国の王子なんてものになっちまった。陛下も領主殿も、そうすることでお前を守りたいと思ったからだ。お前がとんでもない力を持っていたとしても、そのことで辛い思いをさせたくない、そう考えておいでだ。だからお前に力を使うことは強制しない。やりたいようにやっていい。そう仰せなんだ。」

 ゴーダンが言ったよ。


 その話は以前にも聞いたことがある。


 僕が王子になる前、ちょっとだけ僕の力がいろんな人に欲しがられたってことがあったんだ。僕の知らないところで、やれ子供にする、とか、娘をやる、とか、まぁ引く手あまただったんだって。その申し出の人間には我が国の貴族もいたし、他国の王族とかそれに類する人もいた。完全にそれらを拒否するのは、ある程度のおうちの子として後ろ盾を得るしかない、って話しになったそうです。

 そのときにはじめはワーレン伯爵の子になることが決まりかけたこともあったらしい。けど、結局より強い後ろ盾ってことで王家に入ることになったんだ。

 そのとき交渉したのが、ゴーダンとドク。仲間の意見ももちろん聞きながら、二人が矢面に立って交渉し、僕の王家入りと、仲間達がその家臣的な位置で貴族になるってことになったらしい。


 僕の意見?

 特に言ってない。ていうか知らない間に決まったんだけどね。

 当時はまだ6歳とか7歳だったし、ママが保護者で、ゴーダンやドクも保護者みたいなもんだった。他の仲間たちも家族みたいなもん。


 彼らが決めたんだったら、僕に悪いはずはない。

 僕のために申し訳ないって気持ちはずいぶんあったけどね。


 もともと貴族だったけどそれがいやで飛び出した人が、うちのパーティは多いし、ゴーダンだって、何度も貴族にならないかってお誘いがあったけど断ってきた。

 なのに、僕が変な人のものにならないようにって、貴族になっちゃったんだもの。

 だけど、仲間達は、それでいいって言ってくれて、ずっと側にいてくれてる。


 でね、そのときの契約で、僕に力の使用を強制しないって項目があるらしい。

 力のせいで狙われた僕に、まさかその行使を強制なんてしないよね、なんて半分脅したとかしてないとか・・・

 まぁ、今、伯爵やゴーダンが言ってるのはそのことだろう。



 「王子の義務でこれを届けてくれたとは思わんよ。宵の明星見習い冒険者ダーよ、大儀であった。して、今後この件について、我が領に貢献してくれるかの?」

 「えっと・・・僕は見習いでリーダーはゴーダンです。決めるのはリーダーだよ。ねぇ?」

 「違ぇねぇ。ワーレン伯爵。我ら宵の明星、指命依頼とあれば、喜んで参じましょう。」


 僕の目の前で、あらためてゴーダンと伯爵が握手をした。

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