第155話 手紙の内容
「騎士団、憲兵で手分けして、レッデゼッサ商会の全施設、私邸を差し押さえよ。人、物すべての移動を制限せよ。領都はもちろん、我が領土の全施設だ。」
僕が渡した手紙を読み進むにつれ、怒りで顔が真っ赤になっていく伯爵を、全員が静かに見守っていた。
読み終わった伯爵は、顔を上げると、鋭い目で憲兵さんとか騎士さんとか、まぁ、そういう武の関係の偉い人を睨むようにして、命令したんだ。
部屋にいた内の3人が、短く「ハッ。」と応答し、走って出ていった。
何の説明もないのに、急ぎの命令と見るや飛び出すのは、本当に訓練されている証拠と言えるだろう。もっとも、ある程度ここで近い話し合いは行われていたのだろうけれど。
伯爵は、まず手紙をゴーダンに渡し、ささっとゴーダンが目を通す。
ゴーダンはちょっとため息をついたけど、大して驚いていないよう。
そのまま、伯爵に戻そうとしたら、目線で他の人達に渡すように命じたから、残っていた伯爵の従者の人に渡し、その後順々に回されたよ。
なんていうか、読んだときのリアクションは、人様々だった。
青い顔をする者。やっぱりって感じの人。
青い顔の人はチラチラとゴーダンを見てたみたいだから、どうやらゴーダンが話をしてて、それを疑ってた感じかな?
貴族の人って、平民出身の意見を軽視する人も多いからね。
今は、ゴーダンだって子爵だし、なんだったらチラチラしている人より偉かったりする。それでも元々はたかが冒険者、平民だって内心は侮蔑してたり。
ワーレン伯爵自身は、僕たちを大事にしてくれるけど、それ自体が気にくわない古参の部下もいるからね。そこまで僕らは気にしちゃいない。
王子様、なんて跪きながら、元奴隷が、なんて内心蔑視している人なんて山ほどいるんだ。
そう、件のレッデゼッサみたいにね。
僕の所に手紙は・・・・・ハハハ、回ってこなかったよ。
最後の人が純血主義のおばあちゃんだったから。
仕事はできるらしい、内政のプロ。しかも代々ね。
主に、各地の農作物の管理をしている、って言ってたっけ?ええっと、そうだイケルデ子爵だ。
一応畑はあるけど、商人と冒険者でやっている僕らナッタジ家。正直あんまり接点がない。
真面目なおうちの人であるイケルデ子爵家は、代々、各代官から農地開発やら農作物の出来具合の報告を受けて、それが正しいかをチェックしたりするのがお仕事らしく、まぁ、下々の者はズルをする下賤な者だって意識が強い。
しかも身分が下に行くほどずるくてバカだった信じていて、そういう者たちを厳しく取り締まるのが、高貴な血である自分たちの使命だ、なんて信じてる人たちなんだよね。
まぁね、数字をごまかそうとする代官も多いらしいし、そんな代官たちの目をかいくぐってごまかす領民達も多い。自分たちが生きる分を確保しなくちゃならないし、いろいろ仕方が無い面もあるんだろうけど、それをチェック回収するお仕事を真面目にやっている人からすれば、身分の低い者ほど悪いことを平気でする、なんて思っていそうです。
僕はそんな中でもとびっきり身分の低い出だからね、王子になろうが、信用ならん奴、なんて思われているんだろう。いや、むしろ、小ずるく王家に取り入った、とびっきりの悪人として、目を光らせているんだろうね。
ただし、身分だけは自分より上。
だったら、まだまだ未成年で、本格的に仕事を任せられる年じゃないし、いないこととして、この場を乗り切っているってことなんだろう。
そんな感じで、手紙は自分で終わり、と、伯爵へ戻し、それに、一瞬咎めるような目を伯爵がしたけど、伯爵はため息をつきつつ、僕に手紙を渡したよ。
「しかし、本当でしょうか。王都を魔境に、など・・・」
こちらも、僕が気に入らない内務のおじさん。
僕が手紙を読み終わってないのに、お話しを始めたよ。
ま、いいけど。
そこからは、信じられない、というグループと、陛下の知らせを疑うなど何事か、とたしなめるグルーブ、そして対処について話そうとするグループ。
とはいえ、皆さん自分の言いたいことを言ってるだけで、人の話を聞こうなんて思ってないようです。
伯爵が、先に命令を出して、騎士や憲兵を送り出したのって、実はこの話し合いもどきが起こるのを知っていたから、なのかも、なんて思っちゃった。時間だけが無駄に過ぎて、本当にやりたいことができなくなっちゃマズイもんねぇ。
ちなみに・・・
手紙は、主に王都で起こった事件の顛末、だったようです。
あの馬車暴走事件から始まったやつね。
荷物を運び入れたのはビレンゼ領に席を置くアルドラ商会で間違いないんだけど、アルドラ商会はあくまで運送屋として依頼されただけだ、って主張したようです。
それも実際間違いは無く、複数の商会が荷を出し、また荷を受けることになっていたってのは、分かったみたい。
それらの商会は当然摘発され調べられてるんだけど、どうやら斡旋役を行ったとして、レッデゼッサ商の名が上がったんだって。
南部の濃い魔力を含んだ魔物を扱えば大もうけできる。南部で育てた普通より強い家畜の肉やミルクは、上質で美味い。
そんな情報が一部商人の中に広まり、実際、魔物の素材は、素材そのものも加工品も高く売れたらしい。モーメーだけじやなくて、いろんな家畜の肉とかもね。
そんな中、たまたま拘留中のレッデゼッサの者がいた。
うんガイガム君。
ガイガム君は、王都への南部素材の持ち込みの話を振られると、それが悪いことって知らないみたいで、自分の家は奴隷が始めた新興のナッタジと違って、強い魔物の素材を調達できるルートがあると自慢し、ただでさえ強い素材をさらにレベルアップする薬剤を手に入れ使っている、と、これも自慢していたよう。
基本、「えせ王子の家と違い、歴史あるレッデゼッサは~」、なんて話していしるらしく、不敬罪的な罪で彼は今拘束中だそうです。
ただ、そんな中、今は小さな薬剤を使っているけど、そのうち手に入れたら、大量の薬剤を王都に持ち込み、自分の家が所有するすべての素材を強化する予定だ、と話たところから、緊急性が増した。
レッデゼッサの本拠はここトレネー領都。
ってことで、一刻も早くトレネー領主を通じレッデゼッサを押さえる必要が出たための手紙、ってことみたいです。
ちなみにこの薬剤っていうのは、タールになった魔物のことみたい。
あれは魔力を呑み込む性質がある。
あんなものが持ち込まれたら、魔力を求めて王都を蹂躙し、瞬く間に魔境となるだろう、そんな考察が最後にされてました。
「とにかく、王命はレッデゼッサの確保。その正否を
残った人も「ハッ。」って応じ、順々に部屋を出ていったよ。
僕も退出しようって思ったんだけど、伯爵は、ゴーダンと僕に残るようにって言ったから、その命令にちょっぴり不服な人々の視線を感じながらも、僕は、みんながいなくなるのを待ったんだ。
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