第153話 事件、その後・・・

 「ふむ。これは先に持って帰って儂から報告するか。」


 壺を、正確には壺の中の底、いろいろな角度で見つつ、うんうん唸っていたドクが、ついにそう言ったよ。

 多くの証拠品は、多少表面が白くもろくなったようだけど、それをどければ普通の素材とかになったみたい。といっても、魔力はホーリーのせいでスッカラカンになっちゃったっぽいけどね。

 まぁ、なんていうか、無害な物質になったは、なったんだ。


 とはいえ、ドクが、持っている壺はさすがに別だった。

 何らかの魔法で保護はされていたようで、外っ側は、普通に壺だけど、ドクが覗いたりひっくり返したりして調べているのを遠目に見ていたら、中はなんか、溶けちゃったぽいです。溶けて固まってガラスみたいになってる、のかな?

 外は素焼きっぽいざらざらでもともとは同じ感じだったのだろうけど、中は見た目つるつるになってそう。


 で、ドクが調べようとしている壺の底、なんだけど・・・


 何か描かれている?

 ていうか、魔法陣、だよね?

 なんの魔法陣だろう?

 ドクは魔法陣の第一人者だし、何かそれに問題があるようだけど、一人でうんうん唸っていて、僕の問いには答える気がなさそうなんだよなぁ。むぅ・・・・


 で、最終的に、自分がこの壺だけ持って帰る、とか言い出して、実際に布にくるんで鞄に入れちゃったよ。

 僕のポシェットに入れる?って聞いたんだけど、魔法陣が悪さしちゃ怖いから、自分で持つ、だってさ。

 まぁ、そんなこんなで、壺を持って、僕とドクも王都の塀の中へと戻ることになりました。



 僕とドクが無事に王都に戻ると、そこにはリネイはじめ数名の騎士さんが待っていたよ。

 僕たちと入れ替わりに隔離施設に戻って、モーメーのお世話をしたり、現状をチェックしたり、持ち帰る物は持ち帰ったり、といろいろ事後処理をするんだって。


 リーダーを任されたらしいリネイに、ドクはなにやらボソボソと内緒話。

 どうやら壺を持って帰ってることは言ってそうだけど・・・

 僕にも、他の騎士さんにも、今はまだ内緒みたいです。



 あのね、パクサ兄様は、ラッセイとか数名の騎士を伴って、王宮に報告に行ったそうです。

 報告は大切なお仕事だし、僕はドクがいるから安全だ、って説得されてのご帰還、かな?

 リネイから、タールが飛び出してきたときに、とっさに動けなかったことがかなりショックだったみたいだ、って聞かされました。

 一方、僕がすぐに戦闘態勢に入ってるのに気付いて、それにもショックを受けたみたいだって。

 僕の冒険譚はせがまれてある程度はお話ししてきたし、頭では僕が経験も積んで強い、って分かってても、やっぱり小さな弟って意識で接していたから、今はそぉっとしておいてあげようね、って言われちゃった。



 「さて、儂らは帰るかの。」

 そんなことをお互い話したりした後、ドクがそう言って、僕とドクはナッタジ商会へと帰ったんだ。


 本当に長い長い、1日だった。





 その後・・・・



 数日は、特に何もなく・・・

 ただ世間では禁制品の扱い店が摘発されたり、僕らが調査時にお昼を食べた「テンデの神舌」は、営業停止になったり、まあ、僕たちには直接は関係ないことで、噂話は派手に王都を騒がせていたんだけど・・・


 僕?

 僕は、養成所に行ったり、訓練したり、レーゼの面倒を見たり・・・


 あ、そうそう僕の可愛いレーゼは1歳の誕生日を迎えて、ナッタジ恒例?お誕生パーティをしたんだ。

 えっとね、この世界にちゃんとしたケーキはない。ううん、なかったって言うべきかな?

 お貴族様でも、膨らまないべちゃっとしたクッキーみたいなのを食べる程度だったみたい。まぁ、ナッタジ製のスイーツ、できたあとは改善してるけどね。


 でもね、我が家はなんせひいじいさんというイレギュラーな元日本人がいた。

 農家の息子だったけど、大学出て、家電業界で技術者として定年まで勤め上げ、定年後は趣味に生きたっていう、団塊世代のエリートっぽい人だったらしい。

 いまはまだ僕も作れてないけど、味噌や醤油なんていうのの作り方をメモしてくれたり、陶芸の知識だとか、あとは簿記なんかも書き記したっていう、なんていうか、幅広い人だったようです。


 そんな人がバースデーケーキを伝えないわけがなくって。

 まぁ、材料云々の問題はあるにしても、小麦粉、乳製品に卵がある我が家では、お砂糖さえ代替品を用意できれば、ケーキはできるんだよね。


 てことで、大事なナッタジの跡取りになるだろうレーゼ1歳のバースデー。張り切ってケーキを作ったよ。まぁ、僕はあんまり・・・

 ううん。僕も頑張った。

 レーゼはまだ小さいから、ケーキそのものは食べるのが難しい。

 でも、ミルクたっぷりのフワフワの生クリームなら、お口にできるからね。

 お兄ちゃん頑張りました。

 泡立て担当、クルクルと風の魔法でしっかり混ぜた。

 手でやるよりも綺麗に撹拌できるからね。

 コントロール?

 弟のためなら頑張れるのですよ、ウフフ。


 僕作成のフワフワ生クリームは大盛況。

 バフマのつくったスポンジは完璧だし、ママのジャムだってすごいのです。

 ちょっと遠出して、森から果物を採ってきたし、前世で食べたのよりおいしい、かな?

 いや、あんまりケーキを食べた記憶は無いんだけど・・・


 パーティでは、

 「ダーチャだいちゅき。」

 のお言葉とともに、ハグとほっぺにチューももらったんだ。



 そんな、平和な日が数日。

 そうそう。

 ママが宵の明星メンバーそれぞれにイメージしたバックを作成したみたい。

 本人がここにいる人はちゃんと、マジックバックにしたよ。

 そばにいない人の分は僕が預かって、会えばその人専用マジックバックにするってことになってます。


 「だからね、ダー、トレネーに行って欲しいの。」

 ママがかわいく言ったよ。

 今、トレネーには領都にゴーダンとヨシュアがいるはず。ゴーダンもとっくに到着してるだろうしね。

 後は、ダンシュタにアンナかな?

 ゴーダンがトレネーにはリュックを持っていってるし、ダンシュタの家の自分の部屋には、出入り口をつくってるし、どっちでも僕一人なら一瞬で行けちゃうからね。


 ママのお願いは、3人にそれぞれ用のバックを渡してマジックバックにすること。

 それと・・・・


 「陛下からワーレン伯爵への書簡だ。これを配達して欲しい。」


 ちょうど、こわばった顔をして戻ってきたラッセイとミランダ。

 そのラッセイから1通のお手紙が渡されたんだ。


 

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