第152話 隔離施設の浄化
馬車が離れていくのを、ドクと二人見送ったよ。
念のため、魔力をのばして、ちゃんと門へ到着するまで確認した。
なんだか、パクサ兄様の物問いたげな目が気になったのもあるんだけどね。
でも、ドクはラッセイもいるし大丈夫って笑ってた。
ドクが何かを知ってるようだけど、大人の秘密、らしいです。はぁ-・・・
無事到着したのを、確認した僕たちは、早速ここの後始末をすることにしたよ。
えっとね、この施設自体は今回みたいな使われ方もするし、建物自体はちゃんと残れば良いなぁ、なんてドクと話したんだけどね。
今のところ、ドクの結界が2つ。
外側は、この建物を丸ごと囲む、それよりちょっぴり広い範囲。
まぁ、乗ってきた馬車を余裕に隠す範囲で広がってます。
で、もう1つ。
それは、もともとは馬車が置いてある土間部分を覆ってたんだけどね、さっきの騒動で、壺を包むみたいに、ていうか、箱で壺をラッピングする形っていうのかな、まぁ、真四角じゃないけどフワッと壺を囲う形にまで凝縮している。
原因は当然壺から飛び出したタール状の物体を外に出さないため、だよね。
ドクのこの結界は強力で、今のところはタールみたいなのは外に出れてない。
相変わらず、外に出ようと、中からバンバンぶち当たってるけど、外までは出てないんだ。
本来ならこの黒いタールをホーリーで浄化すればよさそうだけどね。
この黒いタールはなんて言うのかな、元々が物体ていうの?実体を持っていた何らかの魔物で、そんな魔物がタールに呑まれてタールそのものみたいになっちゃった奴なんだ。で、このタールになっちゃったのは、他のもの、正確には近場の強力な魔力を呑み込もうとする、っていうのが、セスの情報で分かってる。
ただ、強い魔力が無いといつの間にか、自身の魔力を食べきって消えちゃう、ていうのが救いでもあるんだけどね。
どうやら、このタールを維持するのに、ものすごい魔力を要するみたい。
それで、少しでも魔力の強いところへと流れていくんだ。
強い魔力が周りから尽きれば自分を維持できなくなっちゃって、そのうち消える。
この国の南部で発見された同じタール状の魔物は、とにかく離れて放置、が対処法として推奨されている。
ただ、このタール状になった魔物自体が強い魔力を放つんだ。
そして、そんな強い魔力は近くにある魔力を活性化させる。あるいは、魔物の魔力を増加させ強い魔物にさせる。
そもそもこの世界のものって、基本的に周りの魔力量に少なからず影響されるってのもあって、濃い魔力の溢れる土地では、生命はより強くなるか、濃い魔力に負けて死滅するんだ。つまり生き残ったものは、強い魔力を有する生命になるってわけ。
北の大陸の樹海や、この国の南部の魔物が強いってのも、その理屈ってわけ。
えへん。
これも、養成所で、生物の時間に習ったんだよ。
ちゃんと学校での勉強もしてるんだ、僕。
ていうことで・・・
今は、ドクの内側の結界の外に出ている馬車なんだけど・・・
ここの積み荷は、僕には黒い魔力を帯びて見えます。
もともと、運び込まれたのは南部からみたい。
これは、騎士の人達が確定した情報なんだけどね。
南部で獲られた魔物の素材を非正規ルートで運んでたようです。
あと、モーメー。
モーメーなんていうのは、魔力はほとんどない弱い魔物。
基本家畜になるんだし、魔力の弱い人も普通に飼ってるんだから、当然だよね。
けど、このモーメー、なんでかものすっごく魔力を持ってます。
そういやダンシュタで血を飲まされてたモーメーもそうだった。
モーメーとは別物かってぐらいの魔力量。
騎士さんたちは、特殊な飼育法で南部の牧場で育てられたらしい、って言ってたけどね。
いずれにしても、相当量の魔力を帯びた素材とモーメーたち。
うっすらと黒い魔力を帯びてる感じで、これも浄化した方が良いのは間違いないんだよね。
ていうか、ホーリーはきっとタールだけって制御はできない。
今までの経験からいうと、ホーリーは黒い魔力を伝うように広がる広域魔法みたいなんだ。
自分で使ってて、みたいなんだっていうのも変な話だけど、正直、僕のイメージが光が満ちるっていう形のせいなのか、そもそもそういうものなのか、範囲をあんまり指定できないんだよね。
ただ、僕が使う魔力量で多少の広がりは抑えられるらしい、ってことまでは分かってるんだけど・・・
「アレクよ。合図と一緒に、最小のホーリーじゃぞ。瘴気がそうはないから影響があるとは思えんが、王都を白い砂に替えるわけにはいかんからのぉ。」
ちょっとドク、怖いこと言わないでよ。
確かにホーリーが触れた瘴気って、形があった物に宿ってた場合は白っぽくなっちゃって、砂みたいになっちゃうんだけどね。
「じゃあ、行くぞ!」
ドクが言うなり、壺の周りの結界を解いた。
「ホーリー。」
僕は合わせるようにホーリーを極小の魔力に載せて唱える。
極小とはいえ、あのタールを逃さないようにそこだけは強く意識して。
タールの辺りを中心に、白い魔力が霧のように広がっていく。
それは、壺の近くに置いてある素材を包み、さらに今いる馬車を離れ、すべての馬車へと流れ込む。
馬車に乗せられたままのモーメーをも包み込んだのだろう。
モーメーの戸惑いの感情も僕に流れ込むけど、うん、中身までは黒い魔力に侵されていなかったようで、なんだか気持ちよさそうに眠りに移行していってるみたい。
良かった。
モーメーは、僕の家族みたいなものだから。
僕はモーメーのお乳で育った赤ん坊だったんだ。
やっぱり、無駄に死なせたくないって気持ちが強かったから、彼らの安らいだ感情に涙が頬を伝わったよ。
やだな。別に泣き虫じゃないんだけど・・・アハハ・・・
白い霧は、隔離施設にうっすらと漏れていた黒い魔力を優しく相殺し、施設自体の浄化も済んだみたい。
ほとんどが、外側の結界の中で渦巻いて、ゆっくりと消えていく。
けど・・・
施設の外に出てみると、道にちょっぴりと魔力の全くないラインが見えたよ。
「馬車を移動させたときに土に染み込んだ魔力があったようじゃのう。」
まぁ、不安定なのかなんなのか、黒い魔力が長く留まるのは少ないみたい。
すぐに周りの普通の魔力に押しつぶされちゃうか、または、逆に集まってタールみたいになるか、なんだよね。ほとんどは前者だけど。
幸い、道に漏れた黒い魔力はほとんどが消えちゃった後みたいだし、少し残っていたのも、今のホーリーの巻き添えで消えたみたいです。
今はなんか白くキラキラとした砂が一条、道に連なって、ちょっぴりきれい。
すぐに周りからの普通の魔力で消えちゃう、朝露みたいな景色に僕はなんだかにやけちゃった。
施設の中も外も、ホーリーでキラキラして、うん、浄化って感じ。
僕は満足です。
あとは・・・
「心配せんでも、モーメーの引き取りも言っておるよ。なんじゃったら、ナッタジで引き取っても良いしのぉ。」
うん。
特殊なモーメーだから、普通に市場に戻すのも大変だろうし・・・
おいしいけど、お乳も肉も魔力が多くて、魔導師じゃない人には危険かも知れないからね。
まぁ、あとは大人にまかせればいいか。
僕は、すっかり白い砂になった、元タールの魔物を眺めながらすっかりご満悦。
だったんだけど・・・
「これは、また・・・」
モーメーだけじゃなくて、後の素材とか馬車とかのチェックをしていたドクが、タールを入れていた壺を覗いて、唸るように言ったよ。
どうしたんだろう?
「アレクよ。ひょっとしたら、想像以上に厄介かもしれぬぞ、これは。」
ドクが、緊張した声で、そうつぶやいたんだ。
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