第150話 旅装の人達の審問

 パクサ兄様は、馬車7台が固められている土間の方へと向かったよ。

 リネイと数名の騎士、それから文官みたいな人=審問官 とその従者たちがついていった。

 騎士の人達は、旅装の人達グループ要員と商人の人達グループ要員に大きく分かれて、同じように土間へと向かったよ。


 ちなみに僕はお留守番。僕だけじゃなくてドクもラッセイも遠目に土間を見ていたんだ。



 この建物は本当に簡易な倉庫兼休憩所として作られてる物だから、1階はほぼ仕切りがないんだよね。土間の部分と僕らがいるちょっとした上がってる部分の空間自体は繋がっている。

 だから、土間の方も良く見えるんだけど・・・


 「うぎゃあ!いやだいやだ!あそこには行けない!なんでも言う。何でも話すから助けてくれ!!」


 1台の馬車の荷台へと連れ込まれていたみたいだったけど、複数人が、まるで転がるみたいにして、飛び出してきたよ。

 あ、旅装の人全員かも。


 「副官、彼らはあちらで取り調べを。」

 そんな声が馬車の中からしたよ。

 それに、「わかりました。」って答えた人と、その人担当の従者かな?が、転がり出した人に続いて出てきたんだ。

 あと、騎士も転がり出た人に1人につき1人か2人がついていて、みんなちょっぴり戸惑ったような顔をしているよ。


 僕らは、そうやって飛び出した人達に席を譲って、馬車とその席の間ぐらいに立ってることにしたんだ。



 馬車7台は土間にあって固められていて、それを囲むように結界が張られている。

 張ったのはドク。

 僕が町中で見たように、黒い魔力で覆われていたそれを、放置できないから、魔力が外に出ないような結界を張っている。

 どうやら純粋な魔力による結界だ。

 これは一番簡単で一番難しいんだ。


 たいして魔力の無い一般人でも、このような純粋な魔力を自分のみの周りに纏わせて、簡易な防御はできる。むしろある程度魔力があればこれは無意識にやってるもので、自分の身体能力を自然と底上げする、そういう力と似たような魔法だ。

 この世界には、魔力で身体能力を上げるバフみたいな魔法はない。代わりに、魔力の通り道を通すことで、肉体が変化し、魔力を受け入れやすく強化される。そして、体内から湧き出る魔力は自然とそんな肉体をさらに強化して、結果バフがかかった状態にできるんだ。


 これは、ある程度は無意識下でも行ってるし、意識して体内に魔力を巡らせることでより強化することができる。

 強い剣士系の、っていうか物理武力特化型の人ってのは、それなりに魔力があるけど体外に魔力を放出するのが苦手で、その分肉体強化に魔力を使ってるってパターンが多いみたいです。


 ちなみにいろんな属性を加えた結界もあるよ。

 典型的な土水火風。

 土は物理的にバリアを張るし、水は魔力を溶かす。火は威力を阻害し、風は威力を弾く。


 単なる魔力は、簡単に自身を防衛するバリアになるっていう、誰でもできる一番の初心者魔法。

 けど、無だからこそ、そこにいろんな性質を付けることができる。

 特に対魔法、対魔力には、柔軟かつ強固に対応できるんだ。


 今回ドクがやっているのは、この建物の外の結界も同じものだけど、魔力を外に出さないように特化したものみたい。

 だから音とか物体は自由に出入りできるし、どうやら中へ向けての魔力は通るらしい。

 実際、僕が探知のために魔力を使っても、中の様子がある程度わかるもん。


 てことで、中の声は聞こえる(といっても、馬車に入っているから何かしゃべってるってぐらいしかわかんないけどね)。時折、大きな声がするのはパクサ兄様かな?

 焦らないで、ってちょっぴり心配になっちゃうよ。


 転がり出てきた人達は、副官って言われた審問官の人に、ブルブル震えながらいろいろ証言している。それを従者の人達が一生懸命書き取ってるのかな?前世でも速記ってあったけど、そんな感じで、2名の従者さんがなんか頑張って書いてます。


 「それでは、荷は生きたモーメーと、何か分からない魔物の皮に骨。そして、なぞの薬、ということですね。」

 審問官の副官って言われてた人が聞く。


 「そうだ。4台にモーメー。各5、6匹。特殊な方法で育てた美味い肉って評判だ。残りに素材。前後2台ずつにモーメー車。中3台が素材車で、その中央に例のやばい薬が乗っていたんだ。」

 「俺たちは雇われて運んだだけだ。荷については知らねえ。」

 「そうだそうだ。俺たちは雇われもんの中でも一番下っ端だ。生き残ったのはみんなもモーメー担当のもんばかりだからな。」

 「真ん中は特別車だったんだ。壺に入れてしっかりと封印した薬。あれを商会のやつらと、魔導師2人を含んだ冒険者が番をしていた。」

 「俺は、何度か雇われたが、いっつもそうだ。あの薬を後生大事にしていたぞ。なんでも、あの薬でモーメーも素材も価値を上げれるすごいもんだから、絶対に触るなって言ってた。」

 「凄いからこそ、扱い方を間違えれば毒になるってよぉ。」

 「だけど、俺は聞いたぞ。あの一番に死んだ冒険者のねぇちゃんが言ってたんだ。モーメーも素材も全部やばいって。なんかヤバイ魔力を纏ってる。報酬がいいから受けたけど、もう2度と受けないってブルってやがった。」

 「ああ、そうだ。結局あのねぇちゃんが一番最初にやられちまっただ。」

 「あれは薬なんかじゃない。黒い魔物だ。ドロドロの化けもんだ!」

 「最初に魔導師がやられた。商会の人間も含めてな。」

 「こう、黒いどろっとしたのが地面を這って迫ってきて、足下から這い上がってくるんだ。」

 「しかも、捕まったやつらも、急に狂ったみたいになって、近くの人間に襲いかかった。」

 「俺は見たぞ。男の魔導師が黒く埋まったとたん、仲間の冒険者の首をかみ切りやがった。」

 「俺も見た。」

 「あれはダメだ。」

 「頼む、何でも言う。ここから遠くへ連れてってくれ。」

 「そうだ。アレと同じ空間にいると思ったら、気が狂いそうだ。」


 口々に、その時を思い浮かべたのだろう、旅装の人達が捲し立てているよ。

 審問官の人はうんうんと聞き、従者さん達は忙しく書いている。


 「しかし、あなたがたは無事だった。どうしてですか?」


 捲し立てているのの小休止を見て、審問官が言った。


 「商会の偉い奴が、なんかの魔導具を使ったんだ。あそこの商会の人間はほとんど魔導師だろ?なんか強引に魔法でドロドロを壺に吸引させて、結界を施したみたいだ。まぁ、それで力尽きて、奴も死んだがな。」

 「そうそう。奴が壺に黒いのを入れて何かしたら、とりあえずは収まったんだ。」

 「けど、モーメーも半分やられたし、素材車のヤツらは全滅。逃げる算段をしていたら、急にシューバが暴れ出したんだ。」

 「追われるみたいにシューバが走り出して、俺たちはモーメーと一緒にただただ運ばれたんだ。」

 「だから馬車が暴走したのも、王都に無断で入り込んだのも、不可抗力だったんだ。」


 そのあとは、いかに暴れるシューバが怖かったか、とか、モーメーも恐慌状態で踏みつぶされそうになった、とか、興奮していっぱいしゃべってる。


 まぁ、雇われだって言っても、まったく悪いことをしているって知らなかったわけじゃないみたいで、どうやら、王都以外にも同じような荷を複数回運んでたらしい。

 罪がどうなるかは分かんないけど、ドクやラッセイが言うには、審問官がこれを真実だって感じたら、今言ったことは証拠になって裁判するんだって。

 単なる雇われで、不可抗力の事故の被害者扱いになるか、分かってて犯罪の片棒を担いでいたっていう加害者になるか、そのあたりは、お国の判断になるけど、完全な無罪にはならないだろうな、って言ってるよ。


 そんな、外に転がり出た人達の審問の様子を興味深く見つつ、馬車の中の様子をうっすらと魔法で伺っていると、


 パリパリパリ


 小さな、何かが壊れる音が聞こえた気がしたんだ。


 「リネイ!!!」


 その後、パクサ兄様の慌てた大声が木霊した。


 と、同時に。


 巨大な瘴気がどこからか飛び出したのを、僕は感じたんだ。

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