第144話 ホーリーで出てきたもの
「ホーリー」
パリン
白い濃密な霧みたいな魔力の中で、ガラスがはじけるような音がする。
物理的なものじゃなくて、何か結界がはじけたのを僕が音として感じ取っただけなんだろうけど。
ドシン
霧がゆっくり晴れていく中、今度は普通に耳で大きなものが倒れる音がした。
そちらへ目をやる。
モーメーだった。
さっきまで、黒い霧をうっすらと纏っていたモーメーがドサリ、って倒れた音だった。
死んだの?
「気を失って倒れたんだろ。それに魔力が消えて、巨体を支えきれなくなったようだ。」
僕の視線を捕らえたのか、ゴーダンが言ったよ。
この世界、魔力ってのは普通に満ちている。
そして、人も含め魔力を内包しているんだけど、多くの魔力は肉体を強化するのにも使われているんだ。
自然に生きる魔物なんかは、産まれながらに身体に魔力を上手く纏わせていたりする。
だけど、人は魔力の通り道を通す、なんていうことを行ってはじめて、魔力を使えるんだ、なんて言われている。
これは半分正解で半分不正解なんだって。
人だって、産まれながらに多少の魔力は帯びている。
けど、それは
「ある意味、未熟児状態で人は産まれるんだよ、前世の人と同じようにね。」
そう教えてくれたのはモーリス先生だったよ。
「動物は産まれてすぐ自力で立ちあがり母親の乳を吸うだろ?」
産まれてすぐには、目も見えず、耳も聞こえず、自分で立つことすらできない人という生き物は、産まれるのが早すぎる未熟児なんだそう。そんな状態で敵に襲われたらあっという間にやられちゃう。自力で動けるのが最低限生を受けるレベルのハズなんだって。
ただ、人は群れ=社会を作って生きる。
本来なら邪魔な動けない赤ん坊でも、守り切れる社会力があるなら、できるだけ早く母体と切り離して、母体の保護を図るのが群れとしては利があるって進化したんだろうっていうのが、モーリス先生の持論なんだそう。
魔力に関しても同じ。
肉体がある程度強化しないと、魔力を通すと崩壊しかねない。
魔力を通すと強化されるけど、下手すると強化する前に崩壊しちゃう。
この辺は卵が先か鶏が先か、みたいな話しになっちゃうけど、未熟な肉体には魔力は毒になるって思えば良いんだそう。
ただ、魔力を体内に纏わせるようになると、あらゆる機能、骨も筋肉も内臓だって強化される。魔力がなくなっちゃうと、その強化した分がなくなって、肉体の強度が本来のもの=純粋に肉体依存のレベルまで落ちちゃうんだ。
罪人、特に魔導師に対して使う枷は魔力を吸ってそれと同じ状態にしちゃうんだけどね。
ちなみにこの枷は、想定以上の魔力を流すと壊すことができます。
その手を使って、僕は枷とか鍵を壊したりしたけどね、うちの国の王様が、僕でも壊せないのを作れってドクに命じて、実際できちゃってたりしてます。作るのに素材やら技術やらがめちゃくちゃなんで、まだ試作段階なんだけどね。
ちなみに試作品、宵の明星預かりです。僕の魔力を押さえられるレベルっていう発注だから、どうしても僕が実験台になっちゃうんだよね。
で、これをつけて魔力のない状態で動くと、キツいキツい。どれだけ魔力で強化してたんだって思う。けど、これをつけて訓練すると、自力っていうか、もともとの筋力とか技術とかもめちゃくちゃ鍛えられます。今では僕の苦手な訓練の1つになっちゃってる。ていうか、うちの保護者達を怒らせた時の罰が、ほぼほぼこれかも。ってことで、どれだけきついか分かるよね?
まぁ、何が言いたいかっていうと、今のモーメーがこの状態なようです。
産まれながらに魔力で強化していたであろう筋肉その他諸々が、瘴気をホーリーで消したことで魔力なし状態になっちゃってるようです。
で、自分の身体を支えきれなくて、ドスン、って倒れちゃったみたい。
まぁ、その前に、瘴気で侵された細胞がやられちゃったのもあるかもしれないけどね。完全に瘴気にむしばまれてしまった細胞は、なぜか白い砂状になって崩壊することが、経験上分かってるんだ。
それを証拠に・・・・
ゴーダンが腕の中の男の人だったモノをそおっと床に横たえた。
その姿が、まるで元々人の形をした風船だったかのように、風船の空気が抜けるように、ペッチャンコになっていく。
骨と皮、ううん骨も一部無いようで、服を着た人型の皮がそこにはあった。
うっ。
その時、まるで思い出したように音が戻ったように感じたよ。
据えた匂いが溢れてくる。
まずは料理人。
床に四つん這いになって、呻きながらもリバースしてた。口からと下からと、本当に凄い状態になっていて、思わず目をそらす。
そして・・・
今まで壁だと思っていたところ。
そこに空間が広がっていた。
見えていた所と同じか、ちょっと広いぐらいの倉庫、っていうか、畜舎?
モーメーが3頭。
そして、手足を縛られた男女数名。色々痛いようでうめき声が漏れている。
他には、白くなっちゃってるけど、肉?切り出されていた食用肉のかたまり、だったもの。
あとは、樽に入ってたんだろうなぁ、って思うものとかが、棚に無造作に並べられてるものとか。
ゴーダンもそれに気付いて、縛られた人の方へと向かったから、僕もそちらへ向かう。
「来るな!」
けど、鋭いゴーダンの声。
「ダーは、この場を確保。アンナが戻るまで、誰も近づけるな。」
いつになく固い声に、僕はピクッとなったけど、気を取り直して、頷いた。
実際、こっちへこようとする足音が内からも、僕らが入ってきた外の扉からも聞こえてきたし、ホーリーが与えた影響か、レストラン部分や厨房辺りからも、悲鳴や怒鳴り声が聞こえてくる。
僕は、新しく出てきた空間ごと、この倉庫に土の結界を施したんだ。
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