第142話 問題のレストラン

 今日はもう暗くなっちゃうし、僕らは商会でお泊まりすることにしたよ。

 ちゃんと、おうちにはモールスでお知らせしてもらったんだ。


 せっかくなんで偵察兼ねて、あのレストランに行こう、ってなった。

 みんなの予測では、僕もゴーダンもアンナだって、依存症にはならないだろうってことで、レッツ・トライなのです。なんせ、僕ら3人は、魔力量が多いからね。


 ちょっとばかり、というか、それなりに?並んで、レストランに入ります。

 やっぱり、魔力が多いね、この辺り。

 で、このお店は特に、って思ったら、案の定です。

 食材に魔力が染みついてて、強い魔物を解体するときと同じように、食材から立ち上るのが感じられます。


 でも、そっか。

 食べるとき、解体の時みたいに魔力を感じないし、お料理するときに処理してた、っていうのは、今、なるほどって思ったよ。

 モノによって、火を通したり、水で洗ったり、草で絡めて放置したり・・・。

 そうやって、普通は、魔力を押さえたり無力なモノにして食べるんだって。

 ただ僕らのパーティって、魔力量が多い人が多いから、野営の時は、あえて残して調理したりもしてたみたい。魔力が残っていると美味しいんだって。

 いっつもみんな好き勝手に食べてるって思ってたけど、どうやらバフマとかだと、魔力量によって作り分けまでしてくれてて、魔力量の少ない人達には危険だからって教えてるみたい。

 だから、僕は、全然知らなかったんだね。ナザたちは魔法、不得手だからなぁ・・・


 でもね、魔力量が少なかろうと、魔力が残っている食材が美味しいと感じるのは間違いないんだって。

 だから、貴族とかは、あえて魔力を残した食材で調理する料理を好むらしい。方法によっては、魔力を残しつつ危険でないおいしい食材にできるんだって。バフマとかもそういう知識は豊富で、極力魔力を残しているから美味しいんだよ、ってアンナが教えてくれたよ。



 で、このレストランのお料理ですが・・・


 おいしいです。


 魔力マシマシなお料理です。

 うん。

 ゴーダンとアンナに教えて貰って魔力感知をしながら食べました。


 「間違いなくこれはモーメーの肉だねぇ。それにモーメーのミルクで作ったチーズソースだよ。」

 アンナが、ちょっぴり怖い顔をしながら、ステーキ肉を睨みつつ食べてるよ。

 「だな。だが、そもそもモーメーにこれだけの魔力はないはずだ。だいたい生まれたての赤ん坊だってモーメーの乳で育てられるんだ。魔力はないに等しいはずだろ。」


 ゴーダンが言うのももっともで、同居人でもあったモーメーは、僕ら子供たちの赤ちゃん時代の乳母でもあるんだから。しかも、僕が産まれるまでは、煮沸すらせずに生まれたての赤ちゃんに飲ませてたんだよ。魔力なんてあったら、お腹を壊した、じゃすまなかったよね。


 「よっぽど強い魔力を持つ魔物以外、食べる段では肉から魔力は抜けてるもんだ。死ねば魔力なんて、あっという間に消えるのが普通だからな。だからこそ、魔力が残るレアな魔物を狩って、武器や防具の素材とする、もあるわけだ。家畜化されたモーメーが、死んだ後で魔力残存なんてありえん。」

 ゴーダンが言うけど、実際、これ魔力がたっぷり、だよね?チーズまでたっぷりだ。

 それだけじゃなくて・・・


 僕は、お店の中をぐるりと見渡した。


 意識すると、本当に魔物に溢れた森ぐらいの魔力が満ちている。


 ほら、ずっと同じ匂いを嗅いでいると、気にならなくなるじゃない?

 魔力もあれと同じで、ずっと同じような魔力量だと意識しないと気にならなくなるんだよね。

 大体、空気中には魔力は絶対含まれてるもんだし、その割合が場所によって違うから、いちいち気にしてたらおかしくなっちゃうからね。

 それでも、急激に濃度が変わる場所に行くと、その時はもちろん、あれ?って感じるよ。


 このお店に入ったときもそうだった。

 しばらくここにいると分かんなくなっちゃってたけど、意識すると、その濃度が異常だってわかる。

 町中の、しかも建物の中なのに、森の中と同じ香り、っていうか空気?、に包まれてるって思ってくれたらわかりやすいかな?


 !!


 食べながら、そんなことを2人と話していたら、声なき悲鳴みたいなのが聞こえたよ。念話とか、大きな感情がぶつけられたみたいな感じだ。

 と、同時に、これは!


 一瞬だけど、あの黒いやつの魔力がしたんだ。



 僕は思わず、ガタンって椅子を転かしながら立ちあがった。

 僕のその様子に、ゴーダンとアンナが緊張する。

 二人は僕ほど感知能力が良くはないけど、なぜか僕の気持ちをキャッチするのは上手だから、ほぼ同時に僕の心に触れてきたのが分かったよ。

 で、僕の感じたのを共有したみたい。

 二人して苦虫をかみつぶしたような顔になる。


 「待ってろ。」


 ゴーダンが一言そう言うと、僕が感じた悲鳴の場所へと一人走っていった。


 僕は、ゴーダンの気配をたどって精神を統一したら、どうやら店の人と喧嘩?をしつつ、強引に厨房を抜けて、裏にまで行ったみたいだ。

 ある場所までかなりのスピードで移動してたけど、止まると、ものすごく驚いた感情になったよ。

 何があったの?


 『ダー、聞こえてるか?』


 テレパシーって言うのかな?僕の意識をゴーダンに向けていたら、そうしているのを知っていたゴーダンが声をかけてきたよ。まぁ、心の中でつぶやいただけなんだけどね。それを僕が読み取ったんだ。


 『うん。ビックリしてたみたいだけど、何があったの?』

 『実は・・・いや、いい。アンナもつれて、裏の倉庫へ回ってくれ。』


 僕とアンナは目を合わせて頷いた。アンナは僕の心に触れていたから、今のやりとりもほぼほぼ聞いてたしね。


 裏の倉庫、って言ってたから、僕らは一度お店を出て裏へ回る。

 半地下になっている倉庫の扉は中から壊されて、外に向かって開いていた。

 アンナと顔を見合わせて、入って行く。


 「アンナ、憲兵を呼んでくれ。」

 ゴーダンが目の前の男を睨みつつ、こちらに背を向けたままそう言った。

 中の様子を見て、一瞬顔をしかめたアンナが、小さく「あいよ。」って頷くと、踵を返して去って行く。


 そこには肉切り包丁を構えた血まみれの料理人と、喉をカッ切られ、ゴーダンに抱えられた男、そして、うっすらと黒い魔力を纏って、口や胸を赤黒い血で染めた、一匹のモーメーがいた。

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