第141話 ナッタジ商会の立場
王都の広場で複数の暴走馬車を見たけど、よく考えたらあれってまだ今日のお昼過ぎだよね。
今は、ダンシュタにいて、もうすぐ暗くなる時間。
たった数時間って、王都とダンシュタの距離を考えたらほぼほぼ同時にって言ってもいいだろうけど、まぁ同じ日の同じような時間に同じマークをつけた同じような馬車が、暴走してたってのはいただけないって思うんだ。
あのね、馬車にマークをつけるのは元々は、前世の商標をイメージした僕の案で始まったんだけど、今では多くの商会も真似している。これに関しては王都のギルドが全面的にバックアップしたってのもあるし、実はアイデア料みたいなのがちょっぴり使い始めに入って来るってのは、余談かな?
でね、今では、どこの商会がどんなマークを付けるかは商業ギルドに登録されていて、これは世界基準になってきています。といっても、中心は、始まったこの国だし、他の国じゃあ、制度を知らない商人も多いんだけどね。まぁ、完全に認知されるのはもうちょっと先の話だろうね。
大きな都市には商業ギルドがあって、各ギルドには登録された全商会のマークを載せた本?綴り?が保管されてます。一番最初に載ってるのは、我がナッタジのソロバンをイメージしたマークだよ。発案者だし、ね。
でもね、このダンシュタは小さな町で商業ギルドはないんだよなぁ。だからトレネーまでいかなくちゃ、マークで商会を特定するのは難しい。
少なくとも、ゴーダンもアンナも、あの馬車のマークは知らないって。
ひょっとしたら、ナッタジ商会で働いてくれてる人で知っている人がいないかな?って思いながら、僕らは近くだし、商会に顔を出すことにしたんだ。
「このマーク、どこの商会かは知らないけど、ほら、あれだよね。」
うちの店員さんたちが、僕が描いたマークを見て、ああだこうだと言ってます。
「そうそう、あれあれ。うちじゃないとこの、ねぇ。」
「態度悪いし、危ないしで、ギルドには注意をお願いしてるんですけど、ねぇ。」
店員さん達によると、どうやら問題のモーメー関連の各店舗と関係がある商会だってのは間違いないらしい。
けど、ダンシュタで店を構えているわけでもないし、危険運転の馬車ってことで、トレネーまで行った時に、ギルドでこのマークの馬車が危ないので注意して、って、夏頃に報告はしてるんだって。
一般の店員さんはそこまでしか知らなかったけど、そこへ頼りになる番頭のクルスさんが現れたよ。
彼が言うには、その時に分かったのが、どうやらこのマークはビレンゼ領にあるアルドラ商会のマークで、南部からの魔物関連の荷を王都に運び、逆に王都からは植物系の食べ物を南部に運ぶっていうような仕事がメインなんだそう。なんていうか、
この生もの特化ってのは、この商会を氷が使える魔導師がつくったらしくって、氷って、水と風の魔法を組み合わせるものだっていう常識がこの世界にはあるものだから、まぁ、そう言う魔導師を集めているってことでも有名なんだそうです。
僕の場合、水魔法だけで氷から熱湯まで作っちゃうから、常識派からはジト目で見られちゃうけど、そもそも2属性を使える魔導師は貴重なんだよね。
で、そんな異なる魔法を組み合わせた魔法はある意味秘伝な魔法。
てことで、学校じゃ教えてくれない魔法で、知りたきゃ使える魔導師のところに弟子入りするか、独自で開発するしかないんだ。
そんな中、この商会は、何年か商会で働くことを条件に、水と風の2属性を持つ者に氷の魔法を教える、ってことで、でっかくなった商会らしい。
これで有用な従業員を格安で確保できる。なんていうか、たくましいね。
僕は知らなかったんだけど、ビレンゼ領はバルボイ領の近くにある小さな領で、そもそも領都ビレンゼと周りの小集落だけの領なんだって。
もともとはバルボイ領の中だったけど、ほら、バルボイ領ってば、どんどん南へと開拓していくから、中心もどんどん南下してるらしくって、広いから統治無理って、すぐに独立させちゃうんだ。
独立領にするには王家の承認がいるけど、王家だってバルボイ領のことをよく分かってるから、あんまり反対なんかはしない。
まぁ、悪さをする領主が出てきたら、接収して他の領へと併合したり、直轄地にしたり、もあるから、ここらの領って、変動も多いんだけどね。
お勉強では「南部北方少領地域」としてまとめて習うところだから、僕もビレンゼ領っていう名前は、今回初めて知ったんだけどね。まぁ、そんな少領の1つってわけ。
で、ビレンゼ領は魔導師が多く、魔法を使って成功した商人も多いんだそうです。
もともと南部で活躍した人が独立したから、強い人達が多かったんだろうね、魔法的にも。
そんなわけで魔法の有効活用が重視されて、アルドラ商会みたいな、魔法を使ったうまい商売をする人も少なくないようなんです。
「まぁ、最近はその強みも危ぶまれてきましたけどねぇ。」
そう言うのは、本店番頭のクルスさんだ。
「なんせ、坊ちゃんが冷蔵の魔導具を作っちゃいましたから。」
え?
クルスさん曰く、僕が懇意になった鍛冶師たちと作った冷蔵庫が、彼らの商売に影響している、のだそうです。
僕はザドヴァ遠征で知り合った鍛冶師たちと、「規格」って概念を作り、別々での鍛冶場で同規格の品物を作れるようにした上で、前世の冷蔵庫を魔導具で復活、量産体制に入っちゃったんだよね。
量産体制っていっても、外装が簡単になっただけで、魔導具にするのは基本ドク頼み。そんなに数ができるわけじゃないからものすっごく高価だ。それに、冷気を保つために外装はかなり分厚くって何層にも構造がなってるから結構重い。
そう言う意味では、配送車にするのはかなりハードルが高いと思うけど・・・
「それでも、魔導具が買える者はいくらもいますし、大商人ともなれば、その魔導具で配達する体制など簡単に揃えられますからね。実際、そういう大店もあって、特に王都に店を構える商会は何件か、アルドラ商会との取引をやめて、独自で冷蔵便を作ったと聞いています。」
うわぁ、だね。
僕のやったことで、どうやら利益を減らしちゃった人がいるみたい。
だからモーメーで有名なナッタジ商会を困らせるようなことをしてるんだろうか?
「あ、それは、レッデゼッサですね。」
クルスさんが言ったよ。
どうやら、最近支店をダンシュタに設けたらしいレッデゼッサ商会。
冒険者の働きが活発だ、という噂を聞いて、初心に戻るという謳い文句とともに、防具中心の店を出してきたらしい。
これは単純に、最近トレネーといえば、っていう名に、田舎に本店を置くナッタジ商会の名が出るようになったのが気にくわない、ってことで出店してきたんでしょう、なんてクルスさんは言うんだ。
ダンシュタのトップなんて簡単に取れるから、調子に乗ってるナッタジ商会にぎゃふんと言わせるためだけに有名どころの自分が出店してやった、って思ってるだろうって。
実際、ダンシュタへ来る冒険者の多くは、武器や防具を求めてくるっていうのも間違いじゃない。まぁ、彼らはカイザーの武器や防具を求めて、わざわざ来てるんだけどね。
こんな場所で冒険者相手にレッデゼッサがお店を構えたところで・・・という事態は実際起こっているようです。
「まぁ、そういうことも腹に据えかねて、どうやらここダンシュタで乳製品、ついでにモーメーの肉のシェアを奪いに来た、というのが真相のようです。今出店してきているモーメー関連の店はどうも、各地でレッデゼッサが勧誘してきた人達みたいですしね。おそらくナッタジの商品を扱うことを禁止した上でアルドラ商会に商品を入れさせているんでしょう。」
そうやってミルク類のシェアは、怪しい常習性を持つこともあいまって増やせたし、調子に乗って、ダンシュタ産ミルクをうたって領都でも売りまくった、と・・・
今や、ダンシュタ産のミルクってやばいんじゃないの?なんて噂が立つぐらいになっちゃって、それを操作しての、ダンシュタ産ミルク=ナッタジ商会、からの、ナッタジ商会はやばい商品を扱っているのでは?なんていう流れにされちゃってるんです、なんてクルスさんは笑ってるよ。
笑い事じゃないでしょ。
「我々はあくまで誠実に商売するだけです。クレームが入ったとしても、実際怪しい商品は売っていませんし、説明すれば分かっていただけます。第一、本物の商人が、ナッタジの商品かそうでないかを分からないと思いますか?市井に流れる嘘の噂なんて、真面目に商売をやっていれば、いずれ払拭できます。それに混乱を治めるためにもヨシュア様が領都へ行っておりますし、ね。」
ずっと、ナッタジ商会の屋台骨を支えてくれる人の言葉は違う。僕は慌てた自分がちょっぴり恥ずかしくなったよ。
でもね、だからといって、このまま放置はできないんだ。
だって、僕は商人だけじゃなく、冒険者でもあるんだから。
ゴーダンはいつも言ってる。
冒険者は舐められたら終わりだってね。
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