第139話 トレネー領ダンシュタでも問題発生中?!
「誰かいますか?坊ちゃん、帰ってます?」
僕が机の引き出しから飛び出して、ヤレヤレってため息をついていたら、パタパタっていう足音と、控えめなノックがされて、おずおずとした声がかけられたんだ。
この声は、ダンシュタのおうちでお手伝いをしてくれてるミィさんだな。それとねもう1人、ううん2人、部屋の前にいそうです。
「あ、ひょっとしてミィさん?驚かせてごめん。僕、ダーです。今帰ってきたんだ。」
びくびくとしてドアの前で様子をうかがっているのが分かったから、僕はあえて大きな声で、ちょっぴり足音を立てながらドアに近づいた。
そりゃみんなビックリするよね。帰宅した様子もないのに、部屋に現れたら泥棒かって思っちゃう。
僕は、ゆっくりとドアを開けて、見に来た人達に笑顔を向けたんだ。
「もう、ビックリした。いつ帰ってきたんですか?一言声かけないと、泥棒かと思っちゃうでしょ。」
ミィさんは、腰に手を当てて、ちょっぴり怒った様子。
でも、僕が小さくごめんなさいって言ったら、すぐに相好を崩して、僕の目線に合わせるようにしゃがんでハグしてきたんだけどね。
後ろにいたふたりも、やれやれって言った後はニコニコでした。
ピケさんとルーさんといって、今は夫婦で家畜の世話をしてくれてるうちの人です。
この人達、もともと僕と同じ、家畜小屋時代の同居人。てことで家族みたいなもんです。今は同じ敷地内の別棟である寮住まいなんだ。いろいろとこのダンシュタのお屋敷で働いてくれてる人たちのうちの一人?あ、3人って言うべき?
まぁ、今は僕、っていうか、ママが雇い主みたいなもんだから、僕らとは一応主従関係なんだろうけど、そこは昔からの縁っていうか、僕らもよそよそしいのってやだからさ、できるだけ上下関係は取っ払ってもらっているんだ。
お陰で親しくしてくれるだけじゃなくて、けっこう叱られたりもするけど、そこはちょっと遠慮してくれても・・・。
あ、これは内緒。だって、どっちにしろ、僕のこと、いろいろパーティメンバーに報告されちゃうからね、彼らが「ちゃんと私が叱っておきました。」って言ってくれたら、あらためて叱られることはない、か、お小言が減るから、僕的にはちょっとラッキーだったりします。えへっ。
どっちにしても、僕は彼ら3人とリビングに向かいながら、おうちに帰ったときはちゃんと挨拶しないとびっくりしちゃうでしょ、なんてお小言をもらっちゃったよ。でもね、仕方がなかったんだよ?僕だってまさかあんな所に通じてるなんて思ってなかったんだもん。でも、リュック、どうしたんだろうね?
みんなに聞くと、やっぱりって言うべきか、どうやらゴーダンとアンナは、お代官様のところに呼び出されて、昨日から帰ってないんだって。あと、ヨシュアはトレネーに行ってるらしい。なんか調べに行った、って聞いたよ。
なんてお話しをしていたらね、玄関をノックする人が・・・
慌ててミィさんが出ていったら、なんとジャンさんだよ。
あ、ジャンさんってのは代官であるミサリタノボア子爵の執事兼用心棒みたいな人です。もともとは代官になる前のミサリタノボア子爵の奴隷だったんだけどね、まぁ、色々あって今は右腕みたいになってる。あ、奴隷でもなくなってるよ。
どうやらジャンさん、僕を迎えに来たらしい。
ママからゴーダンに、僕が家に帰ったって連絡があったようです。携帯用のモールス通信機持ってるからね。
ちなみにお代官様ってば、この最新型の携帯機に興味津々みたいで、代官のことを大事にしてるジャンさんに、手に入れたいなぁ、みたいなことを道々言われちゃった。ごめんだけど、僕にその権限ないからね?
ダンシュタの僕んちから、代官邸までは、足の速い小型馬車だと30分もかかりません。
てことで、あっという間に僕は子爵邸のリビングで、お菓子をもぐもぐしていたよ。あ、これ、僕のところの商会で出してるチーズケーキじゃん。蜂蜜とチーズ合うんだよね。蜂蜜っていっても蜂じゃないけど、味は同じだからいいんです。おいしいけど、これを自慢げに僕らに出すって、相変わらず代官さんはお間抜けだなぁ。
「いやぁ、これ、とある商会から王都土産にもらったんですが、どうです殿下?おいしいでしょ。」
ニマニマして言う代官さん、だからこれ、うちの商品だし、トレネー店でも出してるからね?
「だから、殿下はやめてって言ってるでしょ?王子としてここにいて欲しいんなら、こんなお呼び出しってないよね?あ、それとお菓子、お褒めにあずかり光栄です、ってね、ハハハ。」
絶対に冒険者として呼び出したに決まってるのに、殿下なんて言うんだもん、このぐらい言ってもいいよね、って思って、学校でお勉強した、たっぷりのいやみを込めた社交辞令?で返したら、本当に知らないのか、お代官様ってば、首を傾げてます。
ゴーダンは、やれやれって感じで面白がって見てるけど、コホンって咳払いしたアンナの目が笑ってなかった・・・
だからごめんって。僕だって色々で少々パニクってるんだもん。だってさ、たった1時間前には王都にいて、騎士団やら黒いのやらで、バタバタしたまま、ここに来ちゃったんだよ?
それなのに、先にからかったのはミサリタノボア子爵じゃん。ちょっとの嫌味ぐらい許して欲しいなぁ。そんな思いを込めてアンナにチラチラと視線を送ったら、はぁって大きなため息をついて、僕の頭を乱暴に撫でたから、まぁ、許してもらえたと思っていいよね?
僕は、これは僕のうちの商品だから、気に入ったらトレネーのお店で買ってね、って宣伝したら、お代官様は頭を抱えてたよ。どうやら、自慢する相手を間違えたって気付いたみたいです。
うふふ、おいしい乳製品はうちの
「ハハ、まぁ良かったです。ダー君の所でこういうのつくって欲しいと思って出したのもあるんで、もうあるならむしろラッキーです。しかし、王都土産ってもらったから、まさかのナッタジ商会のものとは思わなかったですねぇ。いやぁ、我が町の特産でしたか。ハハハ、これはいいことを聞きました。今度、社交界で自慢しちゃいましょう。フフフ。」
はぁ。こういう人だったよ・・・
「で、王都から帰ったばかりと聞きましたが、ダー君。レッデゼッサ商会ともめてる、とか?」
「え?そんなことはないけど・・・」
「あの商会がナッタジ商会を良く思っていないのは周知の事実です。ですから、そこのごまかし等は不要ですよ。」
「えっと・・・」
僕は、話の道が見えなくてゴーダンを見上げたよ。
ゴーダンも頷いて説明してくれたんだ。
「トレネーを中心に、モーメーのミルクや肉、チーズなんかを取り合っての事件が多発している。トレネーでモーメーと言えばナッタジ商会だろ。ナッタジ商会が事件を煽ってるとまことしやかに噂が流れていてな。ヨシュアたちが調べてるが、どうも噂を流しているのはレッデゼッサ辺りのようだ、ってことなんだ。」
「取り合って?」
「ああ。まぁ、実際はナッタジのじゃなく、いくつかの商会が出してる乳製品やら、食い物やらの買いあさりなんだがな。高級品として出回ってるそれらをなんとか手に入れようとして借金まみれになる奴までいる始末だ。」
「それって、王都の・・・」
僕は、昼に体験した「テンデの神舌」での話をしたよ。
中毒性とかって話には驚かれたけど、アル中なら分かるみたいだし、そんなものかな、って感じ。でも、どうやら南部の違法魔物っていうのが入ってるってのはどうなんだろうって言われちゃった。トレネー領内では今のところはすべてモーメー関連の食材だそうで・・・
しかも、ダンシュタの数少ない高級レストランで、似たような事件が起こったため、ゴーダンたちが呼ばれたらしい。トレネー領都のような騒ぎになる前になんとかして欲しいっていう依頼だったみたいだけどね。
「これは、ダンシュタだけの問題でもないだろう。領都のことも含み対策を練るべきだと思うが?」
ゴーダンの言うのはもっともだと思うよ。
でも、それを聞いて、ニヤって笑った代官の顔に、ため息が出ちゃった。
「確かにそうだ。そうであれば、できるだけ早くご領主にご相談申し上げるべきだとは思わないかい。私からの報告よりもよっぽど信頼厚いどこかの貴族な冒険者、とかね。」
はぁ。
どうやらお代官様は、さらに上のご領主様に、僕らを雇わせようということのようです。
僕ら3人は顔を見合わせて首をすくめたけど、思惑に簡単に乗るのは冒険者としていかがなものか・・・その思いはみんなおんなじなわけで。
「分かった。領都の問題もご領主には申し上げよう。が、ダンシュタはダンシュタ。こちらに関しては、放置かい、それとも冒険者でも雇うつもりなのかな、お代官としては?」
ってゴーダンが言ったよ。
放置されたら困っちゃう、ってことで、お代官様からしっかりと依頼を受けたのは当然、だよね?ウフッ。
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