第138話 出入り口の指定

 『出口の使用はしばらくお待ちください。』


 みんなに追い出されるようにポシェット経由で宙さんのところに入った僕だったんだけど・・・


 えっとね、今、宙さんがいろんな形の鞄に、この空間からの出入り口を設定したりしてくれるようになったけど、今この時点で現存するのは、もともとひいじいさんのものだったリュックと、僕のポシェット、新しく作ったママのとモーリス先生のものの4つだけ。

 作る話はかなり前からあったけど、僕がすっかり忘れてるくらいの小さな時に聞いただけだったから、最近になって、慌てて作ろうって話しになったんだよね。


 宙さんいわく、もともと出入り口を固定するだけだから、いくつでもできるんだって。でも、その固定するときに魔力がいっぱいいる。よく分かんないけど、ここが出入り口だよって座標を決めるにあたって、出入り口だから簡単に壊れちゃダメだし、ってことで、いろんな条件を指定して座標を固定するんだそうです。


 でね、はじめに教えてくれた時だと、まだ僕の魔力量に少し不安があったそう。

 『1カ所作ると数日お休みになられる程度ですが。』

 なんていう、あんまり嬉しくない状況になりそうだったそう。

 魔力、空っぽになったら気絶しちゃうもんね。しかも数日起きられないって経験、小さい頃は、たまにやらかしてたなぁ。ハハハ・・・



 ひいじいさんが1つしか作らなかったってのも、この魔力量が1つの理由だったみたい。

 ひいじいさんの魔力量は僕よりはかなり少なかったから、だそうです。

 それに、本来この世界にはなかった、前世持ちならではの夢のなんてのを反則技で作り出したから、世に出さなくていいように慎重に扱ってたらしいです。

 ひいじいさんは夢とロマンに生きた人だけど、自分が楽しむことと、この世界の均衡を保たなきゃってことは、一応いろいろ考えてたみたいです。リュックとかダンジョンの特別バージョンとか、ね。



 宙さんがいうには、今の僕なら、3カ所ぐらい出入り口をつくったら気絶するかも、だそうです。

 て、さっき、もう2個作ったじゃない!

 他にも魔力使ってしまったし、実はかなりやばい?

 いまだに残存魔力が把握できなくて、たまにやらかしちゃうんで、ホント困っちゃうんだけどな。



 こんな状態の僕に、宙さんってば、出入り口予定のリュック前に複数の人がいる、って指摘してきたよ。仲間ならいいけど、今出ていったらまずい感じかな?

 ていっても、宙さんはあんまり人間の個別認識してくれないんだよなぁ。

 登録に魔力が籠もった本人の血を要求するのも、魔力パターンとDNAパターンを登録した、みたいなことをチラッと言ってたし。


 てことで、複数いるっていうのが誰か分かんないどころか何人いるかもわからないそうです。

 僕とママとモーリス先生以外の人間、って、範囲広すぎでしょ。



 『ここで提案があります。出入り口の前から人がいなくなるまでここで待機するか、または新たな出入り口の作成です。』

 いやいや、もう魔力ないかもしれないのに新たな出入り口の作成ってなんですか?

 『魔力の問題をクリアする方法があります。マスターの魔力が満ちている固定場所を出入り口にする方法です。』

 ?

 『すべて私にお任せいただければ、を形づくって見せましょう。』



 男のロマン。

 これはひいじいさんの口癖っていうか、行動指針の大きなものだったみたいです。

 ただね、この言葉は問題発生を予感させる怖い言葉だ、って僕は思っちゃうんだよね。

 大人しく、ここで待ってた方がいいかもしれない・・・


 『ここで待機した場合、数日かかることもあり得ます。』

 ・・・

 『ちなみに、私の計算に寄れば、出入り口の現在地点はダンシュタの代官屋敷でしょう。』

 代官屋敷?


 ダンシュタの代官は、昔、僕らを所有していた人だ。

 今は更正して(?)、奴隷解放運動の旗手になっちゃったけどね。


 でも、リュックを持った誰かが今代官屋敷にいるっていうんなら、確かに長時間ここで待機もあり得る話。

 さて、どうしたもんか。


 『この世界は魔法に満ち満ちています。先代はおっしゃいました。フィクションはフィクションにあらず。すべてのロマンは現実化できる、と。ここにそのロマンの糸口があります。マスター、どうか了承を。』


 なぁんか、宙さんが怪しい。


 『何を躊躇しているのです?私はマスターのしもべです。マスターを害する意志があるわけはないと進言します。』

 『魔力がなくなって、僕がこのまま気絶、とかは?』

 『ありません。私の計算では、新たな出入り口には、鞄へと固定するよりもずっと省エネで設置できます。』

 『どういう仕組み?』

 『・・・ロマンはサプライズです。できてからのお楽しみということで。』

 『・・・』

 『オヨヨヨヨ・・・。先代はこのロマンを求めて、道半ばで・・・それをご子孫たるマスターが、やっと形にできるところまで来たというのに、許可していただけないとは。オヨヨヨヨ・・・。先代様、申し訳ありません。あなたの精霊はかくも無力です。オヨヨヨヨ・・・。』


 ・・・

 オヨヨヨヨ・・・って泣き真似ですか?棒読み過ぎるし!

 ていうか、サプライズなしで何がしたいかはっきりと教えればいいじゃん!

 『サプライズは、サプライズです。先代はマスターに、きっと驚いて、喜んで欲しいと思われると愚考します。ですが、仕方ありません。私から最大限のヒントを。マスターは昔、その先代の夢をご覧になっています。』


 ?

 どういうこと?

 ていうか・・・もういいです。

 いつからこんな面倒な子になっちゃったのかなぁ、うちの精霊さん。

 あ、はじめっからか。

 サプライズでもなんでも好きにしちゃって!!


 『YES!MYLOAD!!』


 がくん、って魔力減ったよ!!

 ていうか、マイロードってなんですか?


 って、脳内で騒いでいた僕だけど、あれ?

 あれれ?


 気がつくと、昔のデスクライトみたいなのがついた絨毯に、僕はチョコンって座ってた。

 で、絨毯の下は床?

 にしては、ボヨボヨしてる?


 視界は今までみたいに宇宙空間っぽいところじゃなくて、・・・・部屋?

 ってか、見慣れた部屋じゃん!

 僕の部屋、だよね?ダンシュタのおうちの・・・

 でも視界が、変。

 なんか、高い?

 思わず立ちあがって、おっとっとってなったよ!!

 危ない!

 空中?

 思わず飛び降りたら、まさかの・・・机の引き出しに入ってた?


 『、は、マスターの前世世界の常識だと伺っております。先代には魔力不足で現実化しなかった出入り口の固定ですが、マスターの代でやっと実現いたしました。おめでとうございます。ちなみに、マスターの魔力が満ちたマスターの居所きょしょを、場所も固定して出入り口と設定した場合、通常の5分の1程度の魔力で設定できます。』

 『つまり、鞄じゃなくて、こういった固定場所だと魔力が少なくて良いって事、だよね?だったら、机の引き出しじゃなくて、もっと普通につくってよ。』

 『様式美、と伺っておりましたので。』

 『ったく、ひいじいさんも何を教えてるんだかなぁ・・・はぁ。とりあえず、出入り口を変更してください。』

 『消去には、設定以上の魔力が必要です。マスターといえども、保証はできません。』

 『はぁ?・・・だったらいいよ。ここは放置で、別の出入り口つけちゃって。』

 『近くに出入り口を設定するには、混線防止措置が必要となります。少なくとも、この屋敷3つ分は離れた場所でしか作成できません。そしてその程度離れた場所にはマスターの魔力溜りがございません。以上から、この部屋への設置、または、最低限の距離への設置には、消去同様の魔力を必要とします。』


 ・・・


 つまりは、この僕の部屋の机の引き出し以外、出入り口は作れないってこと?


 はぁ。

 普段は使うのをやめればいっか。緊急避難用ってことで・・・

 ロマン。

 やっぱり、だめじゃん。


 え?


 他の屋敷への設置?

 ロマンがない方向なら、ありがたいけど・・・

 とりあえず保留って事でお願いします。

 

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