第134話 王都散策(7)
「ダーの魔力が多いことは、当然ご存じでしょう?魔物の残存魔力が少々多くても、ダーが害されることはない、そう考えています。それにダーであれば、我々に問題が起こったとしても対処が可能でしょうし、うちにはダーの母親もおりますので・・・」
クジはにっこり笑った。
はじめっから僕の魔力とか、治癒魔法だよりだったの?聞いてないんだけど・・・
僕はともかくとして・・・
僕はクジを睨んだ。
だって、僕はともかく、クジ達は危険だよね?ここのシェフがバフマ並に魔物肉の処理ができていたら、こんなことにはなってないんじゃないの?
「どうどう、ダー。俺たちはちゃんと対策してるから大丈夫だって。」
僕は、シューバじゃない!
僕をへんになだめようとするナザに、僕は唇を尖らせた。けど・・・対策?
「ニーからもらった薬飲んでる。」
ナザの言葉に、僕はニーを見たよ。
ニーはごそごそと鞄を探ると、小さな粉薬の入った袋を取りだした。
「これは、先生が作った簡単な解毒薬。っていうか、魔力を吸着させて排出させるの。魔石でできていて、魔力を吸うんだって。」
「え?だったら自分の魔力も吸われちゃうでしょ?魔力切れになったらどうするの!」
僕はビックリして聞いたよ。
「だから殿下には渡せなかったの。ダーちゃまはどんだけ食べても大丈夫だろうけど、それに私たちだって1度ぐらいなら問題ないだろうけど念のため、って先生が処方して作ってくれたんだ。私たちはちゃんと先生の診断を受けて、魔力量も測って安全性を確かめて、それぞれ用に処方されたのを、出発前に飲んだの。ここの調査は、もともと話に上がってたから、いざという時のために私とナザのは用意してあったし。クジのは慌てて用意したけど、ね、役だったもんね?」
そういや、誰が行くかってナッタジ商会で話していたときに、二人で慌ててやってきたもんね、ニーとクジって。モーリス先生にお薬を作って貰ってたんだ。
各自に処方してるから、兄様に渡すわけにはいかなかったんだろうけど・・・
「今持ってるのは、最悪の場合にダーちゃまに飲んでもらって対処する用なんで、相当キツいんです。だから殿下にあげるわけにはいかなくて・・・ごめんなさい。でも、殿下もダーちゃまほどじゃなくても、魔力が多いから、そんなに問題ないと思います。」
ニーによると、胃の段階で魔力を吸着させて身体に吸収されないようにって薬で、もともといつも持ってるんだって。僕らは冒険者の活動をしたときなんかは、自分たちで獲った獲物を自分たちで料理して食べたりする。
だいたい倒せる程度の相手を食べる分には、それほど問題は少ないそう。ちょこちょこ食べていたら耐性もつくし、魔導師だと魔力が多いから、倒せるレベルの魔物の、しかも死んだ後の魔力なら問題ないんだって。それに、問題がありそうな大物を狩れるレベルのパーティだったら、それなりに魔物肉の処理のノウハウは持っているらしい。
問題になるのが、パーティにくっついてくる見習いや新人達だ。
魔導師じゃないそういう人達は、処理がいい加減だと、お腹を壊したり、最悪魔力過多で死んじゃうまであるんだって。僕らのパーティだったら、ちゃんと処理できるけど、冒険者をやっていたら他のパーティや冒険者と共闘だってあるし、炊き出しみたいな感じで素人がお肉をさばいちゃうこともある。
そういうときは念のために飲むように、って、モーリス先生がこの薬の緩いのを配っていたんだけど、今回はそれの改良版っていうか、個人毎の最強版を作って飲ませてたようです。
って、知らなかったよ。そんなことしてただなんて。
そう言ったら、僕には関係のない話だから、誰も知らないとすら気付いてなかった、って言われちゃった。
兄様は、こっちの会話を聞いて複雑そうな顔をしているよ。
なんかね、魔物肉の処理って、基本的には料理人の必須スキルだそう。一般に出回るような肉じゃ問題ないけど、高級肉ってなると、どうしても魔力が残っちゃうのが多いから、これを無力化できないと、提供することができない。だから、肉を売るのは許可がいるし、高級レストランだったらなおさらだ。
まぁ、お腹を壊す人がたくさん出て、調査が入って、処理不足なら営業停止とか、そういう段取りではあるけれど・・・
てことで、メジャーなものなら、無力化のノウハウはあるわけで、普通ならおいしい以外の影響はないはずなんだ。
レストランの醍醐味には、自分たちでは調理できない肉が食べられる、っていうのもあるんだから。
で、今回なんだけど・・・
どうもいろいろと難しいらしい。
まず、調査するにもクレームがない。
クレームらしいクレームっていえば常習性があるかもってことなんだけど、これ自体は調査対象にしようがないんだ。だって、だったらお酒は?になっちゃうんだもん。お酒はアル中なんて言葉があるほどに常習性があるし、なくなったら借金してでも買うなんて困った人もたくさんいる。だからって、お酒を出してる店に文句を言うのは筋違いって話で、お酒を借金してまで買う人が悪いってなるでしょ?
今回も同じ。
お腹を壊した、とか魔力過多でどうこうなっちゃった、って報告はないらしい。
ただただもう一度食べたくなって、こんな行列ができる。
高くても並んじゃう。
クレームを言う家族はいても、本人はそんな家族を怒るんだから、官憲の出番はなさそう、ってお話しなんだよね。
ただしこれが許可のない肉を出してる、ってなったら別だけど。
今回は、これの調査でもあるんだ。
よくわかんないけど、おいしい謎魔物の肉を出していて、それが南部の話と繋がっていたら、パクサ兄様たちが立ち入る隙がある、って話。
パクサ兄様によると、何度か調査は入ってるらしいけどね。
その度に、既存の肉で煮込んだシチューだって話になってる。
メインのお肉はモーメーで、お酒や香辛料が色々です、ってさ。
実際、モーメーのお肉って言われればモーメーのお肉かもな、って気がしないでもない。
モーメーはナッタジ商会のメインの家畜でもあって、牛と羊を合わせたような使い勝手の子たちなんだ。僕らにとっては乳母でもあるんだけどね。
顔は、鬼瓦とか獅子舞、狛犬、そんな前世のものを思い出すような怖いもの。
だけど、気性は優しいし、だいたい前世の乳牛ぐらいの大きさにモコモコ羊みたいな毛が生えてるフワフワな魔物なんだ。
我がナッタジ商会の中心商品である乳製品はこのモーメーの乳で作ってる。あとは、羊みたいな毛を刈って毛糸を作ったり、布製品を作ったり、ね。
我が家の大事な家族、なんだけど、その見た目のように前世の牛・羊と同様、食肉としての需要だって高い。
家畜化しているお肉の代表、でもあるんだ。
そんなモーメーの肉のシチュー、それがこの店の売りだ。
おいしいのは内緒の飼育方法もあるかも、なんて言ってるし、それなら聞き出すのは難しい。
てことで、官憲もお手上げ、らしいけどね。
ただ、問題は、本当にモーメーのお肉かって話。
兄様は、違うって思ってるみたい。もちろんうちの人達も、ね。
ていうのは、謎の失踪があったっていうナザが言ってた商会って、ここのことだったみたいなんだ。ここの倉庫で怪しい声、そして失踪。それを聞いていたナザが、このレストランの調査をぶっ込んだって事だったよう。
「ここが元々モーメーの肉で商売をしていたのは間違いない。が、しかし業績が落ち込んでいたはずなのに、1年ほど前からじわじわと持ち直してきた。どころか、この有様だ。そして、もう一つ。2、3年前から、この商会が頻繁にバルボイ領へと出入りしていることも判明している。一応はモーメーを独自ルートで仕入れてる、ということで、バルボイ領って理由に広い牧場ができる、と言ってはいるんだが・・・」
パクサ兄様は、そう言いながら、手と腕を組んだよ。
そんなはずはないよな、って言いたいんだろうね。
僕もそう思うよ。
モーメーは、ダンシュタで僕らも育ててるけど、ダンシュタは水が少ない乾いた場所だ。といっても森はあるんだけど、森を一歩出ると乾燥した茶色い大地が横たわる。この辺の森とそうじゃないところの気候がすごく違うのは、大地にも植物にも魔力が満ちているからで、空気中や大地の中に溢れる魔素とでもいうべきものの質の差も大いに影響しているんだけど、そんな魔力満ちるこの世界であっても、少なくともこの辺りは、北は寒く南は熱いっていうおおざっぱな地域差はあるんだ。まぁ、これがひいじいさんたちが、この世界も星で、ここは北半球にあるんだ、なんていう説になってるそうだけど、それはおいておいて、モーメーは熱すぎる場所は苦手って話だ。
モーメーって羊みたいなモコモコ毛が生えている。
だからだろう、基本的には熱くないところに住んでいる。
正直、ダンシュタでもギリ、だと思うんだ。
で、それよりも南で熱いバルボイ領。そんなところでわざわざモーメーを飼育?
あり得なくはなくとも、って感じでしょ?
そんなこともあって、グレーちゃ、グレーなんだよね、このお肉。
ほんと、なんの肉なんだ?これ?
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