第132話 王都散策(5)

 お昼ご飯。

 さっき会ったリージさんのお店で食べる?って聞くと、ナザが、

 「今日はお仕事だろ?もう決まってるんだよ。『テンデの神舌』って店。ほらあそこだ。」


 ナザが指さしたのは、もう昼時としてはちょっびり遅いのに、行列ができてるお店だったよ。ていうか、この世界でも行列できるんだ。屋台とかで並ぶのは見たけど、屋台だったらそこで食べるっていうんじゃなくて、品物だけ買ったらお店から離れるから、列があってもそんなに時間がかからない。まぁ、お祭りとかだったら、たまぁに、時間もかかるけどね。そんな程度なんだよ、行列なんて。


 レストランで待つ、っていうのはほとんどないんじゃないかな?

 そもそも時計で動く人は少なくて、お昼が同じ時間に重なるってことはないし、お昼を食べない人だってそれなりに多いんだ。特に田舎だとね。

 レストランに行くときは予約するときも多い。お金持ちは特に。あ、といっても、何日も前に予約、とかだけじゃなくて、誰かがあらかじめ席を用意しておいてもらうって感じかな。今から何人来るけど空いてますか?ってね。

 庶民?

 人数が多かったら、同じように席確保要員が押さえておいて、どこどこのお店で席を確保したよって言う。いっぱいだったら別の店を探したり、最悪はバラバラで食べちゃう。待つよりは空いてるところを探すかな?

 旅行者っていうか、余所から来る冒険者や商人なんかは、どうしても行ってみたいお店には、それこそ、明日の夜とかいう感じでちゃんとした予約入れたりするから、行列してまで待つ、なんて文化は、少なくとも僕は見たことがないかな?


 なのに・・・


 「なにあれ?」

 「あれが、この1年近く前から大繁盛を始めた、テンデの神舌っていうレストラン。ああやって並び始めたのは半年ちょっとって感じかな?一度食べるとやみつきになるってんで、高いにもかかわらずここのシチューを食べにああやって並ぶようになったんだ。」

 ナザがちょっぴり怖い顔をして、そう言ったよ。


 「あ、それって、私も聞いたかも。診療所に来たおばあさんがね、隣の息子が大変だってお話ししてくれたよ。なんでもお酒飲んでご飯食べたら1ヶ月分のお給料がなくなっちゃうんだって。その息子さんって、どこかの商会に務めてて、そこの坊ちゃんのお付きで食べに行ったら坊ちゃんと、はじめは坊ちゃんがお金出してくれたんだけど、高いからって3回目かなんかで自腹になっちゃったんだって。自腹だから来なくていいって言われて、本当は坊ちゃんももう来ないだろうって思ってたみたいなんだけど、その息子さん、自腹でも行くってついていくようになったみたい。親御さんも怒っちゃって、商会をやめさせようとして分かったらしいんだけどね。商会を結局辞めて、でも借金してまで、まだ通ってるんだって。」

 ニーから、そんなお話しが聞けたんだ。


 「借金、って大丈夫なのか?下手したら・・・」

 クジが眉をひそめるのだって無理はない。

 僕らはみんな奴隷がどんなのかは知っているんだから。


 あのね、この世界では奴隷ってある。

 奴隷の子は奴隷、って言われるけど、正確には違うって、今は知ってるけどね。

 子供はね、成人するまでは、親のなんだ。

 者ではなく物。

 だから奴隷の子は奴隷の物であって、奴隷が物だから物の物は持ち主の物って扱い。

 だけど、成人したら、親とは別に

 ただね、この世界では借金をして返さないと、貸し主が借り主を訴えるんだ。借りたお金を返さないのは泥棒と同じって理屈で、借金奴隷なんて言葉を使う人もいるけど、法的には一種の犯罪奴隷として奴隷にされちゃう。

 稼ぐ術がない奴隷の子は、簡単に借金奴隷として奴隷になっちゃうっていう、悲しいループができちゃってるのが正解、なんだよね。


 まぁ、それは置いておいて。


 借金までして、しかも行列に並んでまで食べたくなる味ってことなのかな?

 僕は、行列を見て首を傾げたよ。


 「それを知るために、今日はここの予約を取ってるんだ。」

 ナザが胸を張った。

 「予約って何時?」

 「昼過ぎって言ってる。」

 ハハハ。そうでした。

 時計、ってほぼないしね。

 時間は、お日様が昇ったら朝。頭の真上ぐらいに太陽があったら昼。夕焼けで夕方。日が落ちたら夜。それだけわかればいいんだよね。ちなみに雨の時は、だいたいその頃っていう勘?

 太陽がてっぺん過ぎた頃に来ます、って予約がちゃんと成立するんだなぁ。

 でも、これだけの行列店。そんな予約なんてできたんだって驚いたら、

 「なんせ、こちらには王子様がお忍びでいらっしゃるからな。」

 ヒヒヒ、って悪い顔してナザが笑ってるよ・・・・

 はぁ。そういうことですよねぇ・・・


 あのね、レストランは、大きければ大きいほど、VIPルームを用意してあるんだ。貴族や大店の主なんかで、しょうもない人も多いからね。自分が来たのに待てとは何事だってごねるような人、いるんだよね。だから、とりあえずそういう人が入れるように常に1つや2つはVIPルームが用意されてるんだって。

 でね、ごねる人はそこを狙ってきてるようなもんだから、その部屋を誰が使うかは、使いたい人で交渉すればいいんだ。同列なら予約優先。基本は地位が高い者に譲るって感じかな?

 そりゃそれでもごねる場合もあるけど、その対処はなんせ部屋を使いたい者同士の話しになるわけで、最悪不敬罪でしょっ引かれる人もいる、なんて、ナザが嬉しそうに話してました。


 まぁ、僕の王子の肩書きで予約したんなら、王族以外は無茶は言えないだろうし、僕の知る限り王族でそんな無茶は言う人はないだろうけどね。せいぜい僕がいるならって突撃して一緒に食べる、はありかもだけど。

 そんな暇人、いないよね?なんていうのは、考えちゃいけないことだったのかも知れない・・・


 行列を横目に、もみ手されながら2階へと案内された僕たち。


 「遅かったな。」


 ニヤニヤと、部屋で待ちながら、ワインを傾ける人を見て、なんでだよ、って心の中で突っ込んだのは許して欲しい。


 「アレクが予約したって聞いたからな、便乗することにしたよ。」

 そう言って優雅にワインに口に付けるのは、王子の僕でも部屋を譲れ、って言えない、我らがパクサ兄様だったんだ。

 

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