第131話 王都散策(4)

 王都は、多層構造って言うのかな?場所によって、集まっている階層が違う。

 僕は、主に中央部で生息してる感じかな?

 親戚は王家の血も入った有力商人だし、そもそも王子様になっちゃってるし。


 王都の周囲は、他の地区と同じで、巨大な塀で守られています。ただ、僕が知ってる街の中でも、ここまで長大な塀がある街はないと思う。といっても、全世界を回ったわけじゃないけれど。

 この世界では移動は、安全の面でも、時間の面でも、お金の面でも大変だから、普通の人は、自分の産まれた町の塀の中から出ることなく一生を過ごす人も多い。

 あ、田舎なら少しぐらい塀の外には出るけどね。狩りとか採取をして、食材やなんかを自分で確保する必要があるから。だから正確には、自分の産まれたテリトリー外に一生出る機会がない人がほとんどです、かな?


 そういう意味では、僕は赤ちゃんの頃からほんといろんな所に行っている。外国も含めて、ね。

 その中で王都の塀が一番大きいって思うんだ。

 でね、その塀の中にはまずは、広大な農地があって、工業地帯、といっても工房街って言った方が良いかな?そんなのがあって、裕福ではない人の住居と、彼らを相手にする商会があって、中にいくほどリッチ層の町になるんだ。

 で、最終の一番中心街である丘は、王家と国の関連施設のみがある。

 で、その丘に近いほど裕福な層が住んでいて、商店もそういう層相手のが多い。


 僕らがウロウロしてるのは、この富裕層相手の商会が並ぶ商店街。

 だから、中古とかの店はほぼないね。

 ゼロじゃないのは、魔物の素材を扱うようなお店が、新品だけではなく中古も扱うから。特に魔石関係。

 魔石は魔力に応じてでっかくなるんだ。

 で、これに関しては使い回しがきく。

 だから、魔石に魔力を注入するような職業もあるし、宝石を質屋に入れるように魔石屋に売ったりするんだ。

 ちなみに魔石も耐久性があるのとないのとあって、この耐久性=質とされてます。

 新しい方が、残存回数が多いから高いけど、中古でも十分使えるから、こういうのは中古で済ませる人もいる。主に見栄のために、(新品ならば)高そうな魔石を使うんだ。


 まぁ、そんなこともあって、あとは魔物の皮とか骨とか内臓なんかも、数に限りがあって高価な物だと中古屋さんでも、お金がないと手が出ないからってこの辺りに店を構えています。

 割とこういうのを狙うのは、それなりに稼いでる冒険者とか行商人だったりするので、そういう感じの人はいるけど、身分はともかく、そもそもがお金持ってるしね。

 てことで、ここいらを歩いたり、馬車移動している人は、個性豊かで新品な服を着てる人がほとんどだね。

 こういうのも都会的で前世の現代風って感じる要素かな?


 田舎に行けば行くほど、中古品やヴィンテージなんて言うのがおこがましいような商品しか扱ってない。

 僕の産まれた所で言うと、ダンシュタは田舎町なので、新品の服を扱う店はないです。むしろ、服っていうより、ぼろ切れでしょ?って言うようなのが主流。売ってる人だって、買った人が自分でつぎはぎして着るのが当然だって思ってるんだ。

 でも領都トレネーでは数件あった、かな?ちゃんと新品をオーダーメイドしてくれる店。

 あ、新品はすべてオーダーメイドで、布を見せて売るのがこの世界の常識ね。前世日本の呉服屋さんを思えば良いかな?着物を買うときには、反物で買うのがそもそもでしょ?まぁ、現代では既製品もたくさんあったけど、本来呉服屋さんは反物で売ってたって記憶にあるよ。


 トレネーでは中古だって、ほぼほぼ着れる状態にして売ってるんだ。そのまま着れる服があるっていうのが、都会っぽいって最初は思ったよ。

 安いだけじゃなく、新品よりもすぐに着れるっていうのが、中古の利点だね。


 中層以下の購入層向けの商店街だと別だけど、この辺りは中古の服を着ている人はごく希だ。だから、なんとなく現代ヨーロッパの石造りの町に迷い込んだ感じはするけど、売ってる物はちょっと違う、ってあらためて思った服屋と花屋。


 そして、今、僕ははじめての高級食材の店へと突入です。


 えっとね、花屋さんでは根っこがついた生きた物を売ります。

 で、薬草なんかでも、根っこが切られた状態の物は、こういう食材店で扱うんだって。あ、これは都会限定ね。田舎では、そんな区別はないし、そもそも花屋なんてないから。田舎へ行くほど、貧しいほど、何でも扱ってる感じかな?逆に都会じゃ専門化が進んでるともいえるね。


 それで、先ほど仕入れた薬草と同じ物が、生・乾燥・乾燥して砕いたの、って感じで売られてたよ。

 薬草は基本的には食べられるものが多い。

 医食同源の思想があるって言うよりは、食べられるなら薬草でもそうじゃなくてもいいよ、って感じかな?


 ニーは、ここでも乾燥して砕かれた薬草を数種購入してたよ。薬草は使い方によって根っこが着いたままの方が良い場合もあれば、粉にして混ぜる場合もあるから、粉にする手間を考えたら、お店で購入した方がお得、なんだって。

 ちなみに、いくつかの薬草はスパイスとしても使ってる、とのこと。なるほどね。



 高級食材店では、お肉も売ってます。

 生き物は死んじゃうと、魔力が抜けていくけど、すぐにスッカラカンになるんじゃなくて、徐々に抜けていくんだ。

 魔力があるのは毒にも薬にもなる。

 ある種の栄養素、って思えば近いかな?

 ただ、魔力が弱い人の方が耐性が弱いから、むしろアルコールとかに近い感じかもしれないね。


 魔力を多く含むと、一般的にはおいしいと感じるんだ。

 強い魔力を持った魔物のお肉はおいしい。

 けど、お腹を壊すリスクもある、ってことだね。

 ちなみに、僕は魔力のせいでお腹を壊したことはないよ。おいしいからって食べ過ぎちゃってお腹を壊したことはあるけどね。


 ただし、魔力を残しおいしいまま、お腹を壊さないようにする技術があります。

 こういうのを持ってると、高給取りの料理人になれるんだそう。

 貴族のお抱えにこういう料理人がいると自慢できるみたいだね。王家には当然いるけど、僕にはあんまり関係ないかな?

 ちなみに完璧執事を目指すバフマは、その技術を持ってるって、今、知りました。


 「そりゃそうだろ。宵の明星が狩ってくる肉の調理ほとんどバフマがやってるだろ?あんなもの普通に調理して俺たちが食ったら、いっぺんに腹壊すよ。」

 クジが呆れたように、そう言ったんだ。

 どうやら知らないのは僕だけだったようです。グスン。



 高級食材店、ってことは、多くの魔力を残した新鮮なお肉も多い。

 しかも珍しいものも多く、なんていうか、活気に溢れた空気、だね?

 お店に入ってしばらくしたら、なんとなくいろんな魔力でちょっとウッてなってきたよ。



 「やぁ、ナザ、ひょっとして坊ちゃん?」

 うろうろしていたら、ナザにクジよりもちょっと年上かな?って感じのお兄さんが声をかけてきたよ。

 「やぁ、リージ。そう。うちのアレクサンダー坊ちゃんだ。今、お忍びで町の見学してて、お供してるんだ。」

 うわぁ、ナザにフルネーム言われて、変な気分だよ。まぁ、一応お外じゃ当然の態度だけど、あの悪ガキがこんな建前っていうか、余所行きの態度取れるなんて、もうビックリだよ。


 「ハハハ。噂どおりの可愛いご主人様ですね。ナザが自慢するはずだ。いっつもこの世の誰よりも強くて可愛いんだ、って自慢してるんですよ。親ばかならぬ共バカか、なんて思ってたけど、いやぁ、ナザが言うのももっともだ。でも、さすがにお忍びにはなってないですけどね、ハハハ。」


 ちょっと、ナザ。僕のこと何を言ってるの?そう思って、睨んだけど、デカいカラ身体して、小さくなって横向いちゃったよ。

 顔を真っ赤にしてるけど、つまんない話してるんじゃないって、肘鉄しておきました。って、なんで鳩尾じゃなくて太ももが精一杯なのか、悔しさ倍増だよ。

 クックッてクジも笑い堪えられてないし、ニーに至っては、ハハハって笑いながら、バンバンってナザの背中叩いてる。

 ちょっとしたカオスだね。


 「えっと。初めまして。リージさん?僕はアレクサンダー・ナッタジ。ナッタジ商会会頭の息子だけど、僕は偉くないから。」

 「ハハハ、リージ・ザノボと申します。父が王都で小さなレストランを開いてるけど、私も息子なので、アレクサンダー様が偉くないなら、私も偉くない。リージとよんでいたたげれば、殿下。」

 「ハハハ、知ってましたか。ですが、今は単なる商会の息子、もしくは見習い冒険者のダー、ってことで。」

 「わかりました。では、ダー様。ナッタジ商会には、いつもお世話になっています。いやぁ、あのチーズとバターがなければ、うちなんて、三流レストランですからね。今日はどうやら食材達も賑やかなようで、ダー様のお成りに喜んでいるようです。いいものを仕入れられそうなんで、是非、一度うちに来てください。お近づきの印にごちそうさせていただきますよ。」

 そんな風に言って、リージは去って行った。


 ナザによると、リージさんって、うちの王都支店のお得意さんで、評判の良い高級レストランの御曹司なんだって。でも、従業員も多くない小さなお店だから、御曹司自ら納品に行ったナザたちの相手をしてくれて、仲良くなってるらしい。

 それにしても・・・


 「強いはいいけど、可愛いは余計だ!」

 そう言って口を尖らせた僕に、みんなは目を合わせてくれないんだ。

 ひどいよね。


 「そんなことより、やっぱりあの店の魔力がおかしくなってるのって、ダーのせいだよな?」

 ナザが言い始めたそんな話題に、2人は飛びついちゃった。

 「私も、何度か来たことあるけど、魔力を感じたことなんてないわ。」

 「普通、食材店で、凄腕の魔術師以外が魔力を感じるなんてないだろ?」

 ニーもクジもそんな風に言って僕を見る。


 でもさ、僕は何も悪くないよね?


 「ダーは悪くない。これでリネイの姉御も喜ぶってことさ。」

 相変わらずナザはお気楽です。

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