第130話 王都散策(3)

 「お花屋さん、なんか・・・・違う・・・」


 4人で、王都散策という名の挑発行脚、なんだけどね。

 僕が行くと、密輸された物騒な魔力を持つものが目覚める・・・かもしれない、なんていうリネイたち騎士様部隊の予測で、僕を必須とした宵の明星への指命依頼。

 ちょっとばかりの不満はあるけど、僕だってお仕事はちゃんとやります。ってことで、お小遣いもらって、街ブラがお仕事。うん、良い仕事だ。


 一応、行くべき店を見繕い、街ブラ案をいっぱいダメだしされて、宵の明星王都滞在班?で、情報共有は完璧。って、王都にいない人とも情報は共有されてそうだけどね。

 僕と誰か、っていう同行者は、うちの商会から見繕う。

 商会の従業員さんの多くは、宵の明星メンバーではなくても、協力者扱いなんだ。


 ただ、今回は、一応宵の明星のメンバーに強引になっちゃってる3人がついてくることになったんだけどね。

 僕は王都のお店に詳しくないから、商会の人なら誰でも、って思ってたら、最近は商会に顔を出さないニーまでいて・・・


 ニーは、モーリス先生の助手って形で、最近は養成所につめてることが多いんだ。モーリス先生は失踪事件に絡んで潜入のために医療者養成校の先生として入り込んでいたんだけど、斬新な医療技術で生徒よりもむしろ先生方に引き留められてるみたい。

 本当だったら新しい技術なんて医療界じゃ嫌われる。けど、教師達なら、モーリス先生が僕の関係者だって知ってるし、そもそも臨時だっていう安心感もあって、できる限りの技術を盗もうと一生懸命みたい。

 これはさすがに、国王陛下が良い人材をチョイスしてるからってのもあるよ、ってモーリス先生が言ってたよ。貪欲に知識を貪ろうとする姿は、とっても好感が持てる、だそうです。


 で、そんなモーリス先生、前世では有名に脳外科だったらしい。イギリス人でアメリカに渡って医者になり、まぁ、ゴッドハンドってやつ?だったみたいです。

 ジャパニーズカルチャーはそれなりに好きで、前世を思い出した時、まず大好きだった日本の医療マンガを思い浮かべた、って言ってたよ。医者が幕末に飛んで頑張るマンガで、僕も多分知っていた。

 自分でも不思議だけど、マンガやアニメ、ゲームはもちろん、社会の制度だったり、流行り物だったり、それなりに記憶があるんだけどね、僕自身についてはどこの誰なのか、どんなところに住んでどんな人と付き合ったのか、そんな記憶はほぼほぼないんだ。

 なんとなく、働いた記憶はないし、高校生ぐらいだったのかなぁ、とか、人とは浅く広く付き合ってたけど、どっちかっていうと、一人でいろいろする方が好きだった、とか、そんなイメージならあるんだけどね。

 でも、ひいじいさんもそうだったみたいだけど、カイザーもモーリス先生も、前世の記憶、しっかりあるみたい。あ、でも子供時代の記憶はほぼないって言ってたっけ?

 モーリス先生はイギリス人だった記憶はあっても、しっかりした記憶はゴッドハンド時代だって言うし、カイザーも工場で戦車とか作ってた、みたいなことはしっかり覚えてるけど、その前はなぁ・・・みたいな感じ。

 なんでかは、分かんないけどね。

 ひょっとしたら、精神的に成人しなきゃ記憶に残らないのかなぁ、なんて考えてみたり・・・・


 まぁ、いいや。


 モーリス先生は、外科の天才だけど、当然内科的な知識も豊富です。

 なんたって、大好きなマンガでは、過去に遡って、インシュリンとか作っちゃう。

 生憎と、生態系が違うから、完全には薬学の知識が役立つわけじゃなかったけど、記憶が戻ったらすぐに、周りにある薬草とかを覚えて、あとはその効能を予測しながら配合とかしてきたんだって。

 てことで、この世界だと薬剤師としても凄腕なんだよね。といったって、この世界で医者と薬剤師は同じだったりする。そもそも数少ない治癒魔術を使う人達のことを、医者って認識していて、これらが渾然一体となった医療者=医者という存在があり、そこに免許制度はない。

 ただし、麻薬とか劇薬のようなものもあるから、そういう物を扱っちゃうとお縄になります。

 ちなみに医療者ギルドもあるよ。でもギルドに入ってなくても医療行為はできるから、信用度の問題、ってだけだね。

 あ、でも外科手術は概念そのものがないです。

 もし、外科手術なんてした日には、傷害罪で逮捕されちゃう。

 それでも、モーリス先生は、闇医者的な感じでこっそりと、外科的な治療もしていて、母国で捕まり、その力を権力者にいいように使われてんだけどね。そんな中、僕らは出会って、先生を救出、仲間になったったわけ。



 それはいいとして、お花屋さんです。


 僕は全然知らなかったんだけど、町中でお医者さんがお薬の材料をゲットするのは「お花屋さん」なんだそうです。少なくとも新鮮なのを求めた場合はね。


 ハハ、「お花屋さん行くなら私も行く。」って言ったニーを見て、あのニーが可愛いこと言うようになったな、なんて感心した僕の気持ちを返して欲しいよ。

 今日のルートにお花屋さんが入ってたから、ニーはモーリス先生に言われて、お薬の材料をゲットしに付き合ったようです。

 ハハハハ・・・・


 それにしたって・・・


 お花屋さん。

 僕のイメージでは、色とりどりの切り花が、送り物用にって並べられているのが中心だと思ってました。

 この世界でもお花を贈る習慣はあるにはあるんだ。

 あと、パーティの時におうちを花で飾ったりもするしね。

 ってことで、そういうお花もあるにはありました。

 まぁ、この世界で、花は土に生えた状態で売られるんだけどね。

 魚でいう生け簀みたいな感覚?

 切っちゃうと新鮮さがなくなるから、植木鉢とか花壇の形で販売し、購入時にはじめて切り花にするんだよ。

 まぁ、そこは知っていた。

 都会にしか花屋はないけど、ね。

 トレネーの領都にはあったし、王都になら複数あるしね。


 でね、いろんな花があるわけだ。

 この世界、生きとし生けるものには魔力がある。

 これは植物だって例外じゃないし、その魔力量は種類別にも個別にも大いに差があるのも、当然のお話。

 だから、店先で堂々と陳列されるのは、きれいだってだけじゃなくて、危なくないってのも条件に入って来ちゃうんだそうです。

 まぁ、危ない物ってのは魔力量が多い物ってことでもあるし、魔力量が多い物は基本高価になるのは植物だって同じ事。

 入ってすぐのところには、魔力量が低くリーズナブルな花々が置かれてあって、僕みたいに花屋さんと縁がないような人なら、ああきれいだな、で済む話なんです。


 けどね・・・


 ニーは、ずっとモーリス先生の助手をやってるわけで・・・

 王都に来たときには寄るような花屋さんもある。

 お医者さんが使うクスリ用の植物を見に来たって、お店の人もすぐ分かるんだよね。

 ちなみに、ニー曰く、植物は自分で採ることも多いんだそう。特に高価なのは、それこそ今日一緒の二人を中心とした仲間内で採取に向かうんだ。

 それに僕たち、メインの宵の明星メンバーだって、先生がこんなの欲しい、って言ったら、に行っちゃうもんね。ちなみにこのだけじゃなくて、場合も多いけど。



 ただ、一般的なクスリ用のものは、こういった花屋さんの方が良かったりするんだって。なんせ大量に置いているし、根がついたまま販売するから新鮮だ。

 ちなみに根がついてない植物は、花屋さんじゃないところに売ってるんだって。

 今日のこの後の予定でも入ってるけどね。


 しかし・・・


 クスリ用ってことで、実は裏手にある広い温室のようなところに案内された僕たち。

 所狭しと植えられた怪しげな植物。

 もちろん、見たことのある薬草もいっぱいあるんだけどさ。

 明らかに、やばそうなの、いっぱいです。


 なんで、僕の頭上を、僕の腕より太いツタがゆらゆらしてるのかな?


 あれは、歯だよね、っていう硬そうなギザギザが生えた花らしき物を、ゴンゴンと土にぶつけてる、あれは何?


 目に見えるような、霧状の何かを定期的に吐き出すのもいるし・・・

 

 それに・・・

 植物なのに視線をいっぱい感じるんですけど・・・


 

「毎度ありがとうございます。」


 ニーがにこにこと大量に包んでもらったのは、ホッ。見たことある薬草ばかりだ。


 店を出て、人気のないところで、ニーから預かった薬草をポシェットに入れた僕にニーが言ったよ。


 「今日は、お花さん達、とっても元気いっぱいだったね。」


 ・・・・


 パクサ兄様たち、喜んでくれそうです。ハー・・・・

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