第128話 王都散策(1)
予定と・・・違う。
グスン・・・
いや、泣いてるわけじゃないけどね。
ううん、心の中では大泣きだよ。
だってさ、お仕事とはいえ、しばらくは王都散策が堂々とできるんだよ?
ママとデートだ!って思うでしょ?
実際、昨夜セリオからもらったデータとか、いろいろ研究してね、どこに行こうかな、って考えてたんだもん。
僕は、何度も王都に来てはいるし、今みたいに長期滞在だってしている。
けど、なかなか、王都で遊ぶ、って機会がなかったから、ほぼお上りさん状態なんだ。
僕が小さい時に、ママが王都で一人、商人になるお勉強をしていて、そのときに、結構なお店を訪ねたらしい。顔見せとか、流行の研究とか、そんなことで、初めっからよそのお店の勉強はやったんだって。
ママとしては、当時はまだナッタジだって取り戻してなかったってこともあって、辺境の町ダンシュタでの商売ができるように、って、当初は、トーマさんに指導されたらしいけど、ね。ただ、トーマさんはすぐにママの才能を見抜いて、もっと大きな、それこそ王都で店を構えるような、そんな商人にママがなるって、確信して、そのつもりで勉強させてたんだ、って、後々に聞いたんだ。
トーマさんはリッチアーダ商会の会頭で、ニアひいばあちゃんの兄弟だ。
予知的な力を持っていたらしいニアさんの影に隠れてあまり高い評価を受けていなかったけど、商人としては、ものすごく優秀で、いい目を持っているんだって聞いたよ。
人を見る目、商品を見る目、機を見る目。
地味に長けてる、って評判で、この地味さは堅実と同義だって、セリオが僕に説明してた。
ヨシュアとママが結婚したときに、セリオは、ママも僕も派手過ぎて、将来性に不安があったけど、堅実なヨシュアが入ったことで、ナッタジは安泰、そんな風に言って、トーマのじいちゃんを自慢したんだ。
僕は、そんな派手なつもりはないんだけどなぁ・・・
まぁ、そんなのはどうでもいいや。
ともかく、僕はお仕事という建前の下、ママに教えて貰いながら、王都散策に勤しもうとしてたんだよね。
僕が普通にしてるだけで役に立つ、なんて、ちょっとはムッときたけど、でも、やることは王都散策、遊んで仕事になるなんて最高じゃん、と、気持ちを切り替えたんです。
で、僕が考えた散策コース(一応、簡単な地図は持ってたしね)を、ママや、そばにいたミランダ、ラッセイと共にああでもないこうでもない、って再編集・・・
「ダー、別に走破するとかじゃないんだから、こんなに回れるはずないじゃないか。」
なんて、ラッセイに最初に言われ・・・
「お店での時間、全然入ってないね。」
と、ミランダに言われ・・・
「これだったら、急いでも3日、ゆっくりと散策なら、その3倍は欲しいかも。」
ママも、首を傾げちゃった。
どうも、ダンシュタの頭で考えたら、広さも桁違いみたいです。
まったく地の利のない僕を余所に、結局、3人でルート決めをしてくれたんだけどさ、なんか納得いかない・・・
さらに納得がいかないこと。
「今日はママはレーゼとお留守番。」
「え?」
「レーゼは小さいから、毎日遠出はできないし、今回のお仕事は歩いた方がいいからね。」
ママの言葉に、実はちょっぴりショックだったよ。
だって、僕がレーゼの頃って・・・
これは、口にしちゃダメなやつ、だよね。
僕はお兄ちゃんで、レーゼのことも大好き。
でも、ちょっぴり、本当にほんのちょっぴりだどね、羨ましいって思っちゃうんだ・・・
でもまぁ、徒歩移動に赤ちゃんを連れて歩くのも大変です。
仕方ない、じゃあ僕一人で地図を片手にお仕事しよう。
半分ショッピングだし、みんなにお土産買っちゃおう、そんな風に思ったんだけど・・・
「普通にダメだからな。」
ラッセイが言う。
なんでだよ!
「一人で行かせられるわけないだろう。って言っても、僕とバンミは、ガイガムの聴取に付き合えって、パクサ殿下に呼ばれてるし、ミランダ1人で護衛ってのも・・・」
「僕、そんなに弱くないよ。」
「そういう問題じゃなくて、ナッタジ商会の
「見習い冒険者のダーで回るから大丈夫。」
「リスト見たでしょ?有名冒険者でも微妙な所もあるわよ。子供の冒険者が入ったら、悪目立ちするし、商人の息子だからこそ入れる場所もあるんだから。」
「だよな。ミランダと一度ナッタジ商会へ行って、誰か見繕ってもらっていいか
?」
「私も、そのつもりだったから。」
ミランダと、ナッタジ商会で働いてる誰かがついてくるの?
ちょっと面倒。
ミランダは、商人の息子とか王子とか、その場その場の立場にあった振る舞い、とか煩いんだよね。
あれでも、もともと貴族令嬢だし、規則とかいろいろ真面目なんだ。
よくよく考えれば、元々はゴーダンの副官だったっけ。
はじめて会ったのは、僕が奴隷として貴族に買われたときで、その貴族の私兵として、ゴーダンもミランダ、そしてラッセイやヨシュアなんかがいたんだ。
で、そこの隊長さんだったゴーダンが結構いい加減で、そのフォローをミランダがやってたんだよね。
あの頃から、ゴーダンがミランダを口うるさい、と、言ってたけど、最近はその目が僕へと移ってきちゃってて、おっかないお姉ちゃんになりつつある、っていうか・・・
まぁ、自由な散策を希望とする僕としては、ちょっぴり不満、なわけで・・・
「まぁ、がんばれ。」
そんな僕の気持ちを分かってるラッセイってば、耳元でそう囁いて、ニカッて笑った。
そんな仕草も似合ってて、かなりイラッとしたけどね。
そんなこんなで、商人の息子がお忍びで遊びに行く風の、地味だけど上質な服に着替えて出発した僕と、そのお付き役のミランダ。
ナッタジ商会で働く人の半分ぐらいはダンシュタ出身で、今ではナッタジ村って言われている小さな村出身者か、僕らと同じ奪還前のナッタジ商会で飼われていた奴隷出身者が、その大多数を占める。
特に奴隷出身の多くの人達は、教育するし、好きにして良いよって言ったんだけど、一生懸命勉強して、ナッタジ商会の優秀な従業員兼護衛になっちゃった。
もちろん、他の土地に行って、頑張ってる人もいるし、冒険者になった人とかもいるけどね。
たくさんの人が、ナッタジ商会に就職しちゃったんだ。
ダンシュタの本店以外に、ナッタジの支店は、今、トレネーの領都とこの王都にある。
支店は本店ほど規模が大きくないから、従業員さんは減らして少数精鋭がモットーなんだ。
だから、商売も護衛もできる、って人が多く駐留している。
ミランダやラッセイがナッタジ商会に寄って人を見繕う、って言うのは、そういう従業員さんを、僕のお供にする予定、ってことだね。
こういう風に宵の明星の仕事に彼らを巻き込むのはよくないんじゃないか、って、はじめは僕も思ったんだ。
けどね、彼らはありがたいことに、むしろ宵の明星を手伝える機会を狙ってる、なんて公言しちゃってる。
ていうか、僕の役に立ったって自慢するのが生きがい、なんて公言しちゃう人もいたりして、実際、かなり恥ずかしい思いも、僕はしてるんだ。
だってさ、僕のおむつを替えた、とか、僕が泣いていたのであやした、とか、そんなこと自慢されても、ねぇ・・・
まぁ、どっちにしても、ついてくるって人は事欠かないのは分かってるんだ。
ただ、また、自慢の種にされて、酒の肴になるのかなぁ、なんていうのはちょっぴりうざかったり・・・
けど、どっちにしても、僕には人選の権利はないわけで・・・
いや。だからって、ねぇ・・・
ニコニコと、その栄冠(?)を勝ち取った3人を見上げて思う。
なんで、こいつらなんだよ!!
この3人が行くことになったのはあっさり決まった。
なんせ、僕を含めた4ショットがあまりに普通だったから。
そう、4ショット。
この3人なら、自分は他の仕事に回れる、とミランダは早々にどっか行っちゃったんだ。
僕の周りには、昨日もご飯を食べに来たナザと、回る店を聞いてモーリス先生に派遣されたニー、たまたま本店から荷を運ぶその護衛も兼ねてやってきていたクジ、の3人が、当然のように、僕の周りを固めていたんだ。
大好きだよ、3人とも。
けどね。
王都だよ?
王都散策だよ?
この人選は、ないと思うんだ・・・
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