第126話 ガイガムの主張
ガイガムって人は、どうしようもなく、残念な人だったようで・・・
僕に対して、逆恨みして襲っきたことに対してはまぁ、いいんだ。いや、よくないけど。
昔、まだ僕が赤ちゃんだった頃、トレネーのとある子爵にママと一緒に買われたんだ。当時、その子爵は、法衣貴族っていうのかな?土地を治めるような仕事はしてなくて、前世でいう高級官僚な感じの人だったんだ。
えっとね、僕が産まれたこの国は、建前上、全部の土地は王様の物でね、それをいくつかの領に分けて、領主に統治させるんだ。で、その領地をさらに細分化して各地を代官が治める。代官は領主が任命してもOK。けど、一応王様の許可は必要、そんな制度。
基本的に何も問題なければ、代官は代々受け継がれる場合が多いけど、領地によっては期間制で替えたりするところもあるらしい。領の中の制度どうするかも領主権限なんだ。
そうはいっても多くの領では代官は相続される類いのものだし、代官が治める地域の税金とか、犯罪を裁いたりするのは、代官の自由だったりする。
あんまりひどいと、領主に陳情したり、さらに上の王都に陳情したり、という手はないことはないけど、庶民にはそんな仕組みを知ってる人なんて、ほぼほぼいない。
一番偉い人はお代官様、平民の認識はそんなもんです。
でね、貴族はやっぱり、自分の治める土地が欲しいわけです。
お役所仕事より、土地の統治が夢だったりする。
代官様に問題あり、なんてことになって、ご領主様から解任されたら、自分が代わりに任命してもらうんだ、なんて思って、頑張っちゃう、そんな人も多い。
まぁ、そのお陰で、お代官様が何か悪いことをしないかな、っていう目が光っていて、貴族同士の監視体制もあったりするから、それはそれでいいのかもしれないね。
で、件の僕たちを買ったミサリタノボア子爵だけど、当時は領地を持つ代官ではなかった。けど、虎視眈々とそれを狙っている、トレネーの有力な貴族だったんだ。
僕はよくわかんなかったけど、かなり仕事はできる人だったらしい。
けどね、いかんせん髪色が薄くって、魔力がほとんどなかったんだ。
貴族としては、ちょっとばかり、馬鹿にされる境遇だったりします。
その反動、って、本人は言ってるけど、彼はたくさんの人を雇っていたし、たくさんの奴隷を持っていて、それも極力髪の色の濃い人を選んでいた。
特に奴隷はね。
奴隷で、髪の色の濃い人を見つけては、高額で購入してくれるから、奴隷商もお得意様として、そういう人をいっぱい紹介してたみたい。
人の奴隷でも、売ってもらうよう交渉したりしてね、そういう意味でもかなり有名だったようです。
でね、そんな魔力をたくさん持っていそうな人を集めて何をしたかっていうと、特に奴隷に対しては、魔法を使うのを禁止していたんだ。正確には、自分の許可なしに魔法を使うことを禁止していた。
ちゃんとした奴隷契約だと、主の命令には逆らえないように処置されていて、たくさんの魔力が多い奴隷達は、ただただ観賞用として、集められていたんだ。
自分は魔法が使えなくても、これだけすごい魔法使いを好き勝手に使えるんだぞ、っていうパフォーマンスで、魔法を使えない劣等感をごまかしていた、なんていう、とっても残念な人だったんだ。
僕とママはそんな子爵に買われた。
僕の住んでいた集落はダンシュタの町に行く途中にあって、時折仕事でダンシュタに行く子爵の目に、僕らが映ったらしい。
僕らは、当時、ナッタジ商会を乗っ取っていたカバヤの奴隷っていう身分で、カバヤから僕とママは子爵に売られたんだ。
僕らを手に入れた子爵は、大喜びで、いろんな人を屋敷に呼んでは、新しいコレクションを自慢していた。そう。見るからにすっごい魔力を持っているんだろうな、って思われるママと僕だ。
ママの髪は月の雫みたいに銀に輝いているし、僕は夜空ってよく言われるような黒っぽい濃紺のベースに、ラメみたいにいろんな色が輝いてる。
ちょうど対になっているように思われて、こんなレアな親子を手に入れた、ってトレネー中のお金持ちとかに見せびらかしていたんだ。
そんな中で、招待客として訪れたのが幼少期のガイガムだったらしい。
ガイガムは、ものすごく大事にされていて、なんでも思うがままだったそう。
欲しい、って言えばなんでも手に入った。
で、僕を見て、欲しいって思ったんだって。
だけど、子爵は当然拒否。
なんかね、初めての挫折だったみたい。
僕は知らなかったけど、ガイガムの親はいろんなルートで僕をなんとか手に入れようと画策していたようで、そんな中、ガイガムの頭の中では、すっかり僕は自分の物になっていたようです。
結局、僕はガイガムに買われることもなく、無事奴隷から脱出。
気がつくと王子様。
まぁ、いろいろあったからね。
ガイガムは、いつかは僕を手に入れる、と密かに思いを募らせて育ったんだって。
ちなみに、親は、僕が現ナッタジ商会の坊ちゃん、っていう認識で、あのときの奴隷の赤ちゃんだってのは、全然気付いてなかったみたい。
ガイガムのために色々手を回すのは、当時から今に至るまで、いっぱいあったから、きっと僕のこともその1つとして、頭から消えてたんだろうね。
けど、ガイガムは違った。
ガイガムの頭の中では、僕は奴隷で、しかも自分の物のハズだったんだ。
すっかり大きくなった今でも、頭の中は変わってなかったらしい。
これは、何度か生徒として接したラッセイが言ってたけど、はじめて自分の望みが叶えられなかったのが、僕を自分の物にすることで、そして、近年では、剣使養成校に落ち続けたこと、だったんだろうって。
自分が苦労して何回も落ちた、その養成校に、しかも、ランク的には遙か上の治世者養成校に、自分の奴隷が簡単に居座っている、そんなのはおかしい。
これでも、まだ、入学式の時に遠目に僕を見ただけならまだマシだったんだろうけど、授業で会っちゃった。
僕は年より幼く見えるし、そもそも最年少。
魔法使いである僕に、剣で負ける。
これはおかしい。
何かズルをしているはずだ。
なんたって、奴隷のくせに、周りを騙して王子だなんて、化けているんだから。
剣で自分に勝ったように見せるぐらいわけないだろう。
自分だけが化かされていない。
あれはきっと魔物なのに自分以外が騙されている。
そんな風にこじらせているみたい。
ちなみに、これは、取り調べの様子を見学していたラッセイとバンミが教えてくれたんだ。ガイガムは、まともに話に答えず、ずっと、そんなことを言ってるんだって。
「あれはもうダメだな。まともな思考じゃない。」
バンミが首を振りながら言ったんだ。
「だけど、そのおかげで情報は上げれたけどな。」
と、ラッセイ。
「南部へ金を落としている商人の狙いは、禁制品らしい。できるだけ魔力を温存したままの、珍しい強い個体の素材を、好事家に売りつける。それで莫大な利益を得ているようだ。もともと、レッデゼッサ商会は武器や防具が専門で、魔物の素材に強いからな。南部への買い付けにも実績がある。ガイガムの話がどこまで本当かわからないが、王都をはじめとした南部と深い関係の商会のとりまとめをレッデゼッサ商会がしていたようだ。」
「まぁ、それもガイガムが言ってるだけかもしれないけどね。なぜか彼は、ダー襲撃の正当性を主張するために、いかに自分は重要人物かって話してて、その中で、南部での優位性をぺらぺら言うんだから、さすがに守衛をやっている騎士じゃラチがあかない、と、騎士団の本部に移送されたよ。しかし、王都の商人をさしおいて、トレネーの商人が、そんな地位になれるかどうか。」
ラッセイに補足するようにバンミが言ったけど、バンミとしては、自分が偉いって言いたいための誇張した言い分だって思ってるみたいだね。
「いや、少なくとも中心に近いのは間違いないだろう。首謀者の弟を、跡取りの道楽に付き合わせられるんだからな。」
なんとも、珍しくラッセイが辛口だね。
よっぽど、ガイガムが気にくわないみたい。
「当然だろう。ダーを物扱いする、斬りかかる、どこに弁明の余地がある?」
「ハハハ、僕は、あまりにぶっ飛んでて逆に面白い奴、って思ってきちゃった。」
「フフ。ダーは優しいね。でも、ママもあの人嫌い。」
「ラッセイの気持ちも俺は分かる。あいつの主張を聞いてたら、頭がおかしくなりそうだったよ。」
どうやらバンミも辟易しちゃったみたい。
だったら、とっとと帰ってきて、僕に付き合ってくれたらよかったのに。一人で王宮に行くの、ちょっと緊張するんだけど・・・
「どっちにしても、ガイガムが何件か関係商会の名を口走ってたし、ダーに依頼が入るかもしれないぞ。」
へ?僕に依頼?なんで?
変なことを言うラッセイに、僕は首を傾げた。
そんな僕に、みんなが顔を見合わせて、肩をすくめる。
「あのね、ダー。服屋さんで禁制品の活性化させちゃったでしょ?あれをやってくれないかなぁ、って、さっきリネイが来たのよ。」
ミランダが言う。
どういうこと?
「フフ。明日からママとダーはデートいっぱいしていいんだって。」
・・・・
ま、ママがご機嫌だからいい、のかな?
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