第125話 逆恨み
翌日は、昨日の騒ぎで、治世者養成校は休校となった。
いや、そもそも、ガイガムが暴れたのは朝で、そのあと授業やったよね?
そう思ったけど、先生とか騎士さんとか、そんな人達の事件対応のため、授業なんてやってる暇ないんだよ、っていう意味のお休みらしい。
まぁ、そもそもは、治世者養成校なんて半分社交。
そういう意味でも、姉様がお城にみんなを呼んでお茶会を開催するんだって。
けど、メンバー聞いたら、女子会、だよね?
男性陣で参加は双子の姉さんに連れられてくるタッターさんだけなんだもん。
僕は、お仕事だって言って、丁寧にお断りしたよ。
そもそも従者役のみんなもいないし、僕は新しくみんなのための鞄作りが気になっているんだもん。昨日もママのところに帰ってないから、大量に買った材料の布や革がどうなったか、気になっちゃう。
加工を考えると、ナッタジ商会王都支店の方かな?
そう考えて、お店に出勤です。
案の定、ママは倉庫兼裁縫場所になっている、商会の一画にいたよ。
ただ、ママだけじゃなかったんだ。
いたのはママ以外に、ミランダとバンミ。それから近衛騎士で魔導師やってるリネイさんだった。
「あれリネイさん、どうしたの?」
「あら、アレク王子。ごきげんよう。今日はね、お仕事なのよ。」
「仕事?っていうか、王子はやめてって言ってるじゃない。」
「あらあら、じゃあ、冒険者?それとも商会の坊ちゃんかしら?」
「すぐそうやってからかうんだから。で、みんな集まってどうしたの?」
「んー、なんかね、ご禁制品がないか見に来たんだって。」
ママが言う。
「禁制品?」
「そうなのよ。あなたたち、レッデゼッサ商会の服屋で布の大量買いしたでしょう?変わったのを見繕ってたって聞いたから、確認しているの。」
「えっと・・・?」
「昨日、ガイガムが暴れたのも、それに関係あるらしい。」
僕が首を傾げていると、バンミが言った。
取り調べの見学に行ってたから、何か聞いたんだろうね。
けど、なんで買い物して殺されかけるんだろ?こっちは客だよね?
「ダーが、気持ち悪いって言ってたでしょ?あの店に入ったとき。あれは魔物の残存魔力が原因だけど、ダーみたいに気分が悪くなる魔導師はちょこちょこいるの。魔導師ではなくてもたまたま波長が合ったりして影響するとか、あとは、魔力に敏感だとか、魔力コントロールに難がある、とか。」
ちょっと、ミランダさん?最後を強調してたよね?
ちゃんと、ドクのペンダントもしてたし、僕だって随分コントロールはうまくなったんだからね。
「フフフ。アレクは相変わらず下手ねぇ。」
リネイさんが言う。
彼女は確かにコントロールは上手いよ。でもさ、うちのバンミの方がもっと上手いんだからね。
「拗ねてるアレクも可愛いわね。ま、それは置いておいて、こっちの仕事だけど、見せていただいてありがとうございました。禁制品はありませんので、ご自由に使っていただいて結構です。では、私はこれで。」
そう言うと、リネイさんは、急いで帰っちゃった。
「えっと・・・何があったの?ていうかガイガムの襲撃とどう関係してるの?」
「ガイガムが言うには、一昨日夜、あの服屋に査察が入ったんだってさ。騎士団や近衛の合同調査で、おそらくは南部の事件とも関連しているらしい。そこで禁制品が大量に見つかって、当分は営業停止。沙汰待ちの状態だそうだ。」
「さっきから言ってるけど禁制品って?」
「売ってはダメな物のことよ。ダーも知ってるけど、魔物の素材は、生きている時の魔力を含んでいる場合があるの。一応、加工でそれを消したり、逆に利用して素材として使うけど、そういうのを魔物素材の処理って言うのは知ってるわね。個体差はあっても、処理方法は種類によってある程度分かってるのもあれば、未知の物もある。未知の物で、一定量以上の魔力を含有する素材は、禁制品として基本的には一般に売ってはダメなのよ。」
「え?でも、カイザーなんかは、いっぱいわかんない素材も使ってるよね?」
「カイザーは取り扱いの許可があるし、個人的に手に入れた物を自己責任で取り扱うのは構わないのよ。大量に店売りがダメだってだけ。呪いの道具になんてなっちゃ大変だからね?」
「ああ・・・」
ミランダの言う呪いの道具っていうのは、不幸になるとかそういうのじゃなくて、魔力が負の影響を与える物のことを言うんだ。
魔物ってのは、環境に適応して様々な魔法を使ったりする。あとは、身体が強化されたりね。
寒いところの魔物の毛皮は寒さに強くできてるし、火山地帯の魔物は火に耐性があったりするって具合だ。
でね、その特徴を使って防寒具を作ったり、火に強い防具を作ったりするんだ。
でもね、物によっては、その特徴を得るために、触れている物から魔力を吸い取ったり、または、完全に吸着してしまう、なんていう性質を持ってたりするんだ。
魔力を吸っちゃうようなのは、着たらあっという間に魔力がスッカラカンになって倒れたり最悪死んじゃったり、吸着するのだったら、皮膚にくっついて離れないとか、ひどいのになると、ぎゅうぎゅうと吸い付きすぎて、中身がぺちゃんこになっちゃったり、とか。
これは前世で言うところの呪いはちょっと性質が違うけど、素材の特質として、人を傷つけちゃう物を、呪いの道具、なんて言ってるんだ。
もっともこれは使い方次第なんだけどね。
たとえば吸着するタイプのだったら、人に使わず封印用に使ったり、締め付けないタイプのだと、結構な物が装飾品の色づけみたいなのに使われている。接着剤いらずだね。
こんな風に使い方が分かっていれば安全だし、カイザーみたいに対処能力があれば、自己責任、ってことで使って良いんだろう。
けど、確かにどんな作用が起こるか分からないような素材は、知らずに使うと危険だね。
普通にお裁縫しようとしたら、手に同化して離れない、とか、触ったとたんに熱を持って大やけど・・・
うん、危険だ。
「で、あの服屋さん、そんなの置いてたの?」
「南部から変わった魔物の素材を大量に仕入れて、珍しい物好きに割高で売っていたらしい。」
「怖っ。」
「ほら、あの日ダーが行ったでしょ。漏れた魔力で、危険な物も含めて素材の魔力が活性化してたみたいなのよ。リネイがわかりやすくて助かった、って言ってたわよ。」
「あー・・・ハハハ。」
「ま、それがガイガム突撃の原因でもあるんだけどな。」
バンミが頭を掻きながら言った。
どういうこと?
「ほら、あいつ、遠征にも参加したろ?あのときリネイもいて、ダーと仲が良いのを見てたんだと思う。査察のメンバーに彼女がいて、しかもその直前にはダーが客で来てた。ダーが来たおかげで、魔力が活性化してて、プロが見れば危ないもんもはっきり分かる状態だった。そうして禁制品が見つかり、営業停止だ。ガイガムとしては、ダーがやらせた、と思ったみたいだね。」
「なんでさ。関係ないよね、僕?」
「ガイガムはお前が嫌いだろ?で、やっつけたいと思ってる。だから、ダーもガイガムの足を引っ張ろうと画策したって信じてんのさ。」
「いやいやいや、意味わかんないよ。なんでガイガムにそんな手間かけなきゃなんないのさ。こっちに構わなきゃ、興味ないよ。」
「だよな。ま、今のが耳に入ったら、それこそ奴も怒り狂いそうだが。」
「でもさ、あの店が禁制品を扱ってたのは事実だよね?」
「そうね。」
とママ。
「だったらさ、悪いことしてるんだから、そもそも僕悪くないよね?」
「うん。ダーは良い子。」
「それってさ、ガイガムの完全な逆恨みじゃない?」
「だよな。」
バンミだけじゃなく、ママもミランダも大きく頷いたよ。
なんだよ。
僕、勘違いの逆恨みで殺されかけたの?
相手が弱っちいから問題にならなかったけど、これが手練れだったらと思うと・・・
人って、怖いねぇ。
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