第124話 事件、その後

 さすがに皇太子一家のご飯は手が込んでいる。

 ただ、ね、ママのスープの方が美味しいし、僕が一生懸命思い出しながら教えたバフマの作る前世風ご飯と比べると、やっぱのおおざっぱだなぁ、と感じてしまう。

 はぁ。

 おうちに帰りたい。


 ここも僕のおうちだって言えばそうなんだけどね、やっぱりなんとなくお呼ばれしてる気がします。

 みんな良い人だし、僕が無事帰ってきたことに、喜んでくれた。偉い人達なのに、そんな態度を見せないのは、この人達が良い人だからなのか、それとも本当に偉いから虚勢を張る必要がないから、なのか。

 ううん。そんな風にうがった見方をしないで、みんなが僕を大事に思ってくれてる、って思えばいいんだよね。

 本当に僕は人に恵まれている。前世がどうだったかは覚えてないけど、これが前世でいいことをしたお陰だとしたら、僕の前世にグッジョブ!って言いたいぐらい。



 皇太子一家では、僕が今日襲われたことも、かなり話題になったよ。

 姉様がちょっぴり大げさに話すから、いったいどんな大立ち回りだよ、て言いたくなっちゃうけど、バンミをすっごく褒めてるから、何も僕からは言わないよ。


 でもね、ガイガムがどんな人かっていうことで、マッケンガー先生からの裏口かも、っていう話を聞いたお父様は、かなり苦い顔をしていたから、入学の選考にメスが入れられるかもね。

 そんな不正はないと思ってたって言うお父様に、実は・・・って感じでラッセイのこともちょっぴり話しちゃおう。


 ラッセイは外国の貴族なんだけど、冒険者に憧れて、昔、ここの剣使養成校を受験したんだってこと。そのときの試験官がマッケンガー先生をはじめとするその仲間?同郷の人?

 3人が現れて、ラッセイが勝っちゃったけど、筆記を理由に受験は不合格だったこと。

 僕はそんな話をみんなにしたんだ。


 剣使養成校って、基本実技が主なんだよね。

 平民なら、そもそも読み書きが出来ない、計算なんて何それ?の人も多いんだ。

 だから、中に入ってから、それらの教育は施される。

 ただ、それまでの経歴によって、読み書きや計算が得意な人もいるし、文官目指すなら、そっち分野のすごい子を取りこぼさないようにっていう意味で、筆記があるんだ。

 そんなこともあって、自分の名前が書けて、簡単なお金の計算が(あくまで数字を読んで理解できればいいんだ。計算そのものじゃない。)、あとは実技次第ってことになる。

 おつむが強いわけじゃないラッセイとはいえ、そこは一応貴族の子。名前ぐらい書けるし、数字を読んで理解できるどころか、足し引きぐらいなら余裕だったらしいから、筆記で落とすレベルでは絶対ないんだって。

 それなのに落ちたから、本人は脳天気にだったら学校はいいや、って旅に出ちゃったみたいだけどね。


 ただよく考えると、おかしな受験結果だとは思う。


 「南部出身者が試験官だった、ということなら、外国人というのがネックだったんでしょうねぇ。」

 そういうのはプジョー兄様だ。

 「南部の方は愛国心の強い方が多いですからね。」


 プジョー兄様いわく、南部の人の気質として、武を重んじるとともに、その忠誠心はすごいものがあるのだという。

 王家に対しても、常に立ててくれるし、主君への忠誠もすごいんだって。

 ただ、それを逆から言うと、下の者に過度の忠誠を要求し、命を賭して仕えられるのを当然とする。

 そんなだから、他国人は仮想敵。そんな人達に、自分の技術が劣ることなど許されない、なんて矜持もあったんだろう、って。

 まだ受験生の子供であるラッセイに負けたってのは、きっとその矜持に反することだったんだろう、っていうのが、一家の感想だ。

 そういう実体に気づかず、若者の前途を絶ってしまう可能性に、みなさん愁いておられたようです。


 まぁ、ラッセイのことは古い話だし、そもそもが本人もそんなに気にしていない。縁がなかった、程度にしか考えてないうえに、あこがれのゴーダンの部下になれたし、今では良い仲間に恵まれたから、養成校に落ちてよかった、まで言ってるんだよね。

 そんな風に言って、みんなを慰めたけど、他にもいっぱい似たようなことあるたろうね、って、養成所の改革にもやる気満々のようです。


 「そんな南部気質にも関係あるのだろうけれど・・・」

 パクサ兄様が現状の共有ってことで、そんな風に話し始めたよ。

 「例の誘拐事件だけど、主犯はレージラム・テッセンで間違いないだろう。」


 レージラムは、辺境伯の甥っ子だ。

 父のテッセンさんはお兄さんである辺境伯の足らない部分である文官の業務を、天職と思って頑張ってる人。

 だけど、その子供たちは、武の国の中で肩身の狭い思いをしてきたってこともあり、敢えて武を極めようとしたり、また、内政を取り仕切っていることから、商人たちの日参を当然として受け止めてしまい、賄賂的な金銭や物品を当然のように受け入れたり、まぁ、色々問題があるようで・・・・


 「ただ、その動機となると、簡単に責めていいのか迷うところなんだ。もちろん被害者からしたら、悪いに決まってるんだが・・・」

 パクサ兄様が、ちょっと悩むように言ったよ。


 パクサ兄様が取り調べたところ、ゲンヘが血や魔力を吸って、その相手に擬態するのは、南部ではよく知られていることなのだそう。

 擬態したゲンヘは、もとの生物の身体能力やら魔法を上手に模倣して、自分の身を守るため周りを攻撃するんだって。

 なんていうか、見た目も最初の食いつきも、前世で言う蛭みたいな感じで扱われてるみたい。

 人間に化けた場合、本人との区別は話をさせればいいのだそうで、ゲンヘは変化してもしゃべることはできないそうです。

 後は簡単で、マックスで化けられた人の強さで、ほとんどは本人よりも弱いから、本人が倒せるんだそう。自分と同じ姿形をしている者に対して攻撃ができるかどうか、っていうのがネックになるぐらい。まわりに本人より強い人がいれば、もっと簡単な話、なんだそうです。


 そんなこともあって、かなり古くから、戦士に化けさせて、魔物に当てられないか、っていう研究はされていたよう。だけど、残念ながら、化けたゲンヘは誰彼かまわず攻撃しちゃって、敵のみへとその敵意を向けるのは無理だってことだったらしいです。

 ただ、今回の件は、ちょっとその研究の先、を、使おうとした、ってことなんだそうです。

 ていうのは、ゲンヘはゲンヘに攻撃はしないということが分かったんだって。

 このゲンヘは擬態前、擬態後を問わないってことらしい。

 特に、同じ者を擬態したものどうしは、なんらかの繋がりができるようで、あるものを敵、と一人が認識したら、みんなでそれを敵視する、という習性が分かったとか。

 そこで大量のゲンヘに一人の優秀な戦士に擬態させ、上手に1匹に敵認定させてやれば、それを相手にする優秀な戦士団にできるのでは、というのが、この事件が起こった発端だったそう。


 なんせ、最近は南部は開拓するどころか、開拓を終えた地域にまで魔物たちが逆侵攻するぐらい、魔物たちが活発化しているのだそう。

 そこに死んでもかまわない、魔物を加工した戦士団をあてて、人間の消耗を避けよう、というのが、当初の動機だったそう。

 言い方はひどいけど、死んでも良い兵士って、いろいろ需要が高いんだそう。

 この計画に複数の商人たちが乗っかって、兵士の販売っていう、恐ろしい計画が始まったのだそうです。


 はじめは、強い奴隷たちを使っていたらしい。

 だけど、ちゃんと軍人として進軍出来る者が欲しい、っていう意見が出たんだそう。ちゃんと軍人としての教育をなされた人が元になれば、その行動指針に軍人の取るべき行動、っていうのが反映される、らしい。

 で、本物の軍人さんを元にするのは無理だってことで、その卵なら操れるんじゃないかって、養成所の人達が狙われたらしいです。


 「もともとは、部下の死を極力減らせる兵器を、という意図で研究されていたらしい。使える兵士を抱えるのは大変だということだけじゃなく、たとえ志には問題なくても、実力がともなわなければ死兵を増やすだけだからね。ある程度戦える能力、軍人としての規律、そんな思惑でたどり着いたのが、この誘拐事件だったらしいよ。」


 で・・・・


 パクサ兄様は悔しそうにして、言ったよ。


 「この計画が犯罪へと変わったのはあくまで、誘拐を始めたあたりからだ。ということで実行犯の者たちと、その指令役としてファーラー男爵、罪はそのあたりで落ち着くことになるだろう。」

 

 本当の主犯、レージラムにはたどり着けない、言外そんなことを告げられて、僕は兄様と同じように、悔しい顔をしてたろう、って思うんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る