第123話 仲間はずれは、やだな

 その日バンミは結局戻ってこなかった。

 なぁんて、言ってみたり。

 ハハ。別に黙っていなくなったんじゃなくて、どうやら守衛さんのところに張り付くことにしたらしい。で、バフマには授業中に報告に来てたみたいで、このまま情報共有するからって、守衛さんのところで待機してたようです。


 その日の午後は、剣使養成校より講師が派遣されての、剣のお稽古。って、ラッセイじゃん。

 剣の先生は何人もいるんだけど、でも、南部出身の先生がみんなお休みだから、今回派遣されたのがラッセイだったってことみたい。

 とはいえ、今回の事件はラッセイの耳にも当然のように入っていて、それもあった手をあげたようで、授業の後は守衛室へと行く予定、だそうです。

 僕?

 僕は除け者にされちゃった。

 ガイガムと会っちゃダメ、だってさ。ブーー!



 「だったら、アレクは今日は後宮に帰りましょ。お父様達も会いたがってるし、ね。いいでしょ?」

 ラッセイに、一緒に行くと粘ってて断られているところに、姉様が来てそんな風に言われちゃった。

 「ポリア様、アレク王子をお任せしても?」

 ったく、こんな時だけ、ラッセイも貴族然としてるんだもん。やだねぇ。


 「もちろんよ。あなたたちも来ても良いわよ。」

 「いえ。私どもは、ガイガムの様子を見て、対策等考えたいと思います。その間アレク王子のこと、よろしくお願いしたく。」

 「あら、お願いされる必要はなくてよ。この子は私の弟、家族ですから。」

  いやいや、ラッセイ達も僕にとって家族なんですけど・・・・

 ちょっぴり口を尖らせていたら、姉様の馬車に放り込まれちゃった。って、バフマも行っちゃうの?ずるいよ。


 とはいえ、ちゃんとした王族であり、姉、でもあるポリア様は、僕にとって目上の方だし、これ以上ごねると、ラッセイも切れそうだからなぁ・・・

 今日はゴーダンも旅立っちゃって、こっちの指揮は、ミランダとラッセイだから、あんまりごねちゃうと、本気で仲間はずれにされちゃう。特にこっちの件はラッセイが指揮取りそうだし。だって、ミランダはママとなんかやってるから、さ。



 てことで、僕は久しぶりに後宮という名の、お城の奥にある皇太子一家専用スペースへと足を踏み入れました。

 無駄に豪華なは、本来繋がった部屋に僕の近衛って扱いであるミランダとラッセイの部屋もあるんだけど、なかなか使う機会は来ないです。


 一応、僕が来た時用に専属のメイドさん達がいるんだ。

 で、僕がいないときは、どうやらここのお部屋をお掃除したり、日や風を通したり、毎日しているらしい。

 僕がいなくても、基本的には待機ってことで、やることがないから、他のメイドさんたちのお手伝いをさせてもらう、なんて言ってました。そう、無理言ってんだって。

 専属さんていうのは、メイドさん達の中ではちょっぴり上の位、なんだそうです。メイドさんたちにも部署があるし、ちゃんと決まった仕事があって、特に王宮内で働くというのは名誉があることで、どの部署の人もプライドを持って働いているんだそう。特に王族付、なんていうのは、相当すごいのだそうです。

 ちなみに、王宮で働くメイドさんって、貴族のご令嬢がほとんどみたい。専属さんは100パーセント貴族のご令嬢だし、それもなかなかに高位の人らしいです。

 そんなだから、暇だからお手伝いさせて、って言われても、本当は迷惑なんだって分かってるんだけど、みたいなお話しを以前聞きました。確かに、偉い人が「暇だからお仕事手伝うわ」なんてやってきても、困っちゃうよね。

 でもお仕事がないのも辛いようで、無理言って手伝わせてもらうんだって。


 ただ最近ではメイド業よりも、兄様たちのお仕事のお手伝い=書類の整理とか、伝令のまねごととか頼まれることが多くなってきて、充実して面白い、なんていう報告を聞いたよ。メイドっていうより秘書みたいだね。

 だったら、本当にそっちのお仕事に・・・・って泣かないで。冗談、冗談だから。

 どうやら、彼女たちは、僕のお世話をするために王宮に入ったのにクビなのか、なんて涙を流すんだもん。参っちゃった。



 メイドさんたちにお風呂に入れられ、立派な室内着(?)ていうのもヘンだけど、一応後宮内プライベート時間に着る物、らしい着心地最高の服を着せられると、サロンってよんでる、まぁ、ダイニングスペースみたいなところに連れられてきました。

 ここは、お茶を飲みながらお話しやゲーム、音楽なんかを楽しむ部屋なんだ。


 僕が行くと、まさかのパクサ兄様が、お茶をしてたよ。

 で、近くに座るように言われちゃった。

 なんて言うか、気まずい。

 最後に会ったときには、グレンに乗って逃走しちゃったからなぁ、ハハハ・・・


 「やっと帰ってきたんだな。」

 と、兄様。思うところはあるぞ、と、言葉にしっかり乗ってます。

 「あっと・・・ご挨拶が遅れました。その・・・一昨日王都に戻りました。」

 一応、マナーに則ってるよね、僕。ちゃんと王子らしくお辞儀したよ。

 「こちらとしては、そういう挨拶が欲しいわけじゃないんだが?」

 「うっ・・・あの・・・怒ってますよね?」

 「さてな。何か怒らせることをしたのかい?」

 「いや、それは・・・」

 向こうじゃいっぱい逃げてたしなぁ。あの最後に逃げたのとは別に、一緒に行動したくなかったってのもあったから。


 あ、別に兄様のことが嫌いじゃないんだ。むしろ大好き。


 でもね、僕、冒険者として活動するとなると、それなりに内緒が多いからなぁ。

 僕のことは、この年で魔法が使えるのは知ってるし、そのレベルも相当高い、という認識はあると思う。けど、僕が無詠唱とか、超短詠唱、っていうか前世のゲームから拝借の呪文だけで魔法を使う、なんて知らないハズなんだ。

 最近出来るようになった転移もどきは当然だけど、マジックバックの機能なんて秘密だし、実は重力魔法なんてのもでっかい秘密、なんだ。

 僕の混合魔法は前世の科学知識も取り入れてるし、実際、僕はこの世界の魔法をまともに習ったことがない。僕の魔法の師匠はドクってことになってるけど、ドクは僕にこの世界の魔法を教えない。主に魔力制御を教えてくれるだけで、僕が創り出す魔法を研究し、時に最適化をしてくれる。ただそれだけだ。


 まぁ、秘密っていったって、いろんなところから報告があるだろうし、だからこそ、王子にしよう、なんて思ったんだろうけどね。

 だからって聞くと見るとじゃ大違いってことで、あんまり開示しても、ねぇ。

 僕的には、単に「それ何」「どうやってるの」とか質問責めにあうのは勘弁、ってだけなんだけれどね。

 その辺の情報開示は、ドクが中心に上手くやっているはず。

 僕が中途半端に開示すると、どんな問題が起こるか分かんないから、面倒ごと回避のためにも、とりあえずは内緒、なんだよね。


 それに・・・


 王には報告がいってるとしても、それを誰にまで教えるかは王の裁量、らしい。

 妖精とか精霊、セスの民や樹海、あの黒いドロドロとした瘴気のかたまりとその魔獣、そういったやつってのは、多分知ってる人は搾られる。たとえ王子といえども、知らないかもしれない。

 これなんかは僕が言っていい話じゃない。

 だから、口を滑らせないためにも、パクサ兄様から逃げてたってのもあるんだよね。うっかり、で大目玉食うのはごめんだからね。


 「フフ。まぁ、脅かすのはこのぐらいにしておこう。父上から、アレクの行動について詮索無用を言い付かっている。あの遠征でアレクが立派な戦士だっていうことは分かったし、何も言うつもりはないさ。」

 ちょっと怖い雰囲気でこっちを見てたのに、フッと力を抜いて笑って、そんな風に言うんだから、パクサ兄様もずるいよね。

 思わずホッとしちゃったら、膝の上に抱き上げられて、背後からギュッって抱きしめられて、ビックリしちゃった。

 「何も言うつもりも聞くつもりもない。だけどこれだけは覚えておいて欲しい。私はとても心配したんだ。小さなアレクにもしもがあったら、とずっとヒヤヒヤし通しだった。大丈夫と思っても、怖かった。こうやって腕に感じるまで、アレクがいなくなったんじゃないかと、死んでしまったんじゃないかと、ずっと不安でならなかったんだ。」


 なんていうか、兄姉の中でもやんちゃなイメージのパクサ兄様が、こんな心細げな声を出すなんて、思いもよらなかったよ。


 しばらく僕の頭に顔を伏せるような感じでジッとしていた兄様だけど、ハァーッて、大きな息をつくと、今度はそのまま、顎を僕の頭に置いたらしい。


 「さてと。まぁアレクの話はいいとして、こっちの話だ。どうも宵の明星としては、依頼の結末は聞く気がないらしい。てことで、仕方ないから家族団らんの与太話として、話したいと思うんだ。ここで聞いた話を、宵の明星内で話すも話さないもアレクの自由、だけどね。」


 はぁ?

 ゴーダンは、これで依頼は終わり、って言ってたのに!

 これ、聞いて、持ち帰れ、ってこと、だよねぇ?

 うわぁ。

 ひょっとして、まだなんか残ってる、とか?

 依頼になるの?

 僕じゃ判断つかないのに、パクサ兄様ってば、ちょっと意地悪だ・・・

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