第122話 ガイガムと授業と

 登校早々、僕は襲われたらしい。

 すぐに気付いたバンミがメイスを剣の鞘で弾いて、犯人を床の上に押さえつけ事なきを得たけれど、もう心臓はドキドキだ。

 押さえつけられながらも、「奴隷が!」とか「王家は騙されている!」とか、「卑怯者!」とか、まぁ、いろいろ騒いでいて、かなりビックリです。


 「この魔性が!俺が気に入らないからと、家を潰す気だろ!!」


 騒いでいる中でも、ひときわ大きな声で言ったその言葉に、僕はハテ、と首を傾げたよ。


 そりゃゲンヘ絡みの誘拐事件で、マッケンガー先生はじめ南部出身の先生達がとりあえずは自宅謹慎とか、人によっては取り調べも受けているらしい、というのは、昨日ラッセイから聞いた話。

 ラッセイは学校に行く用もないし冒険者しようかな、って思ってたみたいだけど、先生が足らないって、お願いされたらしい。

 その原因ってのが、誘拐騒動に関与した可能性のある先生たちの謹慎等っていうんだから、仕方ないなぁ、って感じで、一緒に学校に残ることになっちゃったんだ。

 てことで、今のところ、依頼終わったのに、学校組は全員居残りだよ、はぁ。


 あの事件。


 マッケンガー先生なんかは、かなり重要な位置にいそうだしね、なんせ主犯の弟。で、そのマッケンガー先生に裏口入学させてもらった疑惑のガイガムは、やっぱり思うところはあるんだろうとは思うんだ。

 だけど、それがなんで僕がガイガムを気に入らないから家を潰す、なんて発想になるのか全然わかんないや。

 だいたい、ガイガムはどう考えても事件に関係ないよね。家や商会はどう関係しているか分かんないけど、こう言っちゃなんだけど、ガイガム本人に関係できるだけの能力があるなんて思えないし・・・・


 僕は、パクサ兄様よりちょびっと遅れて帰ってきたこともあって、事件の処理はかなり進んでいるってゴーダンが言ってたよ。

 ギルドでは、僕ら冒険者の関わるのはここまで、って言われたんだって。今はもう騎士たちのお仕事だ。

 ゴーダンは、最終の事後報告を王家から聞くかギルドから聞くか?って聞かれたらしい。どっちもいらないって、答えてきたみたいだけど・・・



 ガイガムが騒いでいると、バタバタ、ガシャガシャ、音を立てて数名の兵士さんがやってきたよ。この学校の守衛さんだ。

 ちなみに守衛さんって言ってるけど、この人達、実は全員騎士でもある。


 えっとね、兵士さんってね、国によっても組織は違うけど、少なくともこの聖王国の兵士さんは、大きく騎士か騎士でないかで分かれるんだ。

 騎士は、王が直接任命する。で、騎士に任命されれば、平民でも男爵位相当の貴族とみなされるんだ。これもあって、貴族の不正にも、堂々と対処できるってわけ。


 騎士以外では、衛兵さんとか憲兵さん、領兵さん、なんてのがある。

 衛兵さんは、騎士団または騎士個人に雇われてる兵士さんだ。

 王都の巡回とかは、主にこの人達がやる。

 憲兵さんは、各領にいる、まぁおまわりさんみたいな人。

 領主が推薦して王家が任命する。形だけはね。けど、実質は領主が任命しているみたいなもんかな?給料払うのは領主だし。でも一人あたりいくらっていう補助が出るから、国にも雇われてるみたいなもんです。

 憲兵さんの活動領域は、基本的には領内の一地域での活動だ。都市とその周辺が守備範囲ってことかな?

 領兵さんは、領主が名実ともに雇い主。使い方は色々。国とは一応関係のない戦力、だね。強すぎても困っちゃうけど、まぁ、国の監視はしっかり付いてる、ハズ・・・


 これはこの国のおおざっぱな分類だし、正直地方地方で多少事情は異なるんだけどね。

 ただ一番偉いのは騎士様ってのは間違いない。

 騎士になるっていうのは、この国を支えるっていうことで、地位も名誉も与えられるんだ。

 で、その予備的な位置でもある、衛兵さん。人数はそれなりに多くて、王都の守護もすれば、地方へ派遣されて問題解決や監視業務もするし、領に渡るような事件にあたったりしてる。

 普通に兵士さんとか兵隊さんとかって、一般人が認識しているのってほとんどがこの衛兵さんだったりするんだ。


 てことで、この王都の守護は衛兵さんが騎士の指揮の下行うんだけど、この丘の中ではちょっと違う。

 この丘にあるの王宮はじめとして国の重要施設や教育機関だったりする。

 てことで、ここの警備は全員が騎士の位にある人がすることになっているんだ。まぁ、大量に人がいるとなったら、衛兵さんも動員するけど、ふつうに警備しているのは、貴族でもある騎士さんなんだ。



 ま、そんなわけで、騒動を聞きつけてやってきた人達は、みんな騎士だったりするんだけど・・・・


 「離せ、僕を誰だと思っている!ガイガム・レッデゼッサ次期男爵様だぞ!!」


 あぁあ、守衛さんだって丘の中の施設の警備兵だもの、騎士なんだよ。

 それなのに、バンミから身柄を守衛さんに預けられたガイガムってば、分からず叫んでいるのかな?次期男爵なら、平民と一緒じゃん。騎士である守衛さん達の方が位は高いよ?


 みんな、少なくともこの場にいる人達はガイガム以外みんな、は、そのことが分かっているから、なんていうか呆れたような感じで見ている。


 守衛さんの一人が、怪我はないかと、僕ら一人一人に丁寧に尋ねてくれたりと、ガイガムのことは無視。

 ここで何があったかは、バンミが答えてたから、あんまり細かいことは聞いてこないね。

 ただ、僕は逆にガイガムにいろいろ聞きたいんだけど、だめかな?


 「アレクサンダー殿下、申し訳ありませんが、殿下に万一があってはなりませんので、この場でのご質問はご遠慮ください。」

 「えー!だったらここじゃなきゃいいの?ガイガムをどこかに連れて行くんでしょ?取り調べに同席させて欲しいな。」

 「危険です。認められません。」

 「ダー、じゃない、アレク殿下。気になるなら私が参りますので、ご自重を。」

 僕が粘っていたら、バンミがちょっと怖い顔でそう言ってきたよ。

 でもなぁ、気になること、あるんだけどなぁ・・・・


 「はいはい。皆さんはお勉強をなさりにいらしたのでしょう。アレク殿下もせっかく久しぶりに来られたのだから、しっかりお勉強しましょうね。」


 その時、歴史を担当しているルイマ先生が、両手を叩きながら、そう言ったよ。

 いつの間にか、教室に来てたんだね。気付かなかったよ。

 生徒たちは皆、従者を引き連れて、ワラワラと席に着く。

 最後に残った僕だけど、

 「アレクも早く座りなさいな。」

 という姉様の声に、渋々と席に着いた。


 「ガイガムがなんでこんなことしたか、だろ?ちゃんと聞いてくるから、お前は大人しく勉強してな。」

 僕の耳元でバンミがそうささやき、バフマと頷き合ってるよ。

 バンミはそのまま、軽く僕の肩をなだめるように叩いて、ガイガムを引きずってどこかに連れて行く守衛さんについて出ていった。


 その日、久しぶりの授業は、どんな勉強をしたのかまったく頭に残っていなかったよ。

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