第120話 仕事だった?

 「で、どうだったよ。」

 イシシ、って笑ってるみたいな顔を見せて、ゴーダンが言ったよ。

 まったくもう・・・


 ゴーダンはどうやら旅支度。

 帰ったばっかりだというのに、明日にはトレネーに向かうんだって。

 「そんなにアンナに会いたいの?」

 僕は、ちょっとムスッとして、そんな風に言ったら、アイアンクローされたよ。ひどいなぁ。


 ゴーダンとアンナが、あんまりラブラブしてるところは見たことないけどね。

 でも、若い頃からずっと一緒にいて気がつくと、赤ちゃんまで身ごもっている仲になっていたらしい。

 ドクやカイザーなんかは、昔からイチャラブするようなことはなく、戦友って感じしか見せないんだそう。同性同士の付き合いみたいに、でも阿吽の呼吸はたいしたもんだって思ってたんだそう。

 残念ながら流産したアンナは、その替わりじゃないけど、ママのことを自分の子供みたいに可愛がったらしい。

 だからさ、アンナはママにとって、ママ、なんだ。

 でさ、僕にとっては、ママのママだから本当はおばぁちゃん、かもしれないけど、若々しいし、なんていうか、ママはママでアンナはおっかさん、みたいな頼もしい感じ。うん、ママと同じ大事な母親替わりの人。

 だから、正式にゴーダンと結婚したのは嬉しかった。

 だけど、本当は、僕のために結婚したって知ってるから、もっと仲良くすれば良いのに、って思って、たまぁにゴーダン相手にこんなおちょくりをしたりするんだけどね。アンナをおちょくったって、華麗にスルーだから、もっぱらゴーダンね。


 僕が王子になったことによって、また、今後領地を与えられる公爵となることが決まったことによって、ゴーダンとアンナは、僕の直属の家臣として、家族になった。

 二人とも、そもそも子供を作るぐらいに仲良しだったし、今でも互いに一番の葉信頼する人どうしだから、家族になるのに良い機会だって、言ってくれたんだ。

 貴族っていうのは面倒くさいもので、いくつの家を従えてるか、どの家と仲良しか、っていうことがステータスになっちゃうんだって。僕がステータスなんかいらない、って言ったところで、周りに誰もいなきゃどこかに取り込まれてしまうことになっちゃうらしい。そうなっちゃうと、そのつながりのせいで僕の自由が奪われちゃうかもしれない。へんなところにちょっかいかけられないようにって、王家の後ろ盾を貰っても、それじゃあ本末転倒だってことで、僕が王子になるときに、みんな僕のつながりのある貴族として、貴族になってくれたんだ。特に一番の家臣家として、エッセリオ子爵夫妻は、僕のでっかい防波堤になってくれた。


 ゴーダンも、アンナと二人の時はデレたりするのかなぁ、なんて、興味もありつつ、二人は夫婦なんだから仲良くしてね、って気持ちもあって、僕はたまぁにからかったりするんだ。だってそうでもしないと、せっかく家族になったのに、僕のこと優先しすぎるんだもん。

 そんなに気にしなくても、アンナがおっかさんだって事と同じぐらい、ゴーダンのことは実の親父、なんて思ってるんだからね、まぁ、口には出さないけど。




 「痛い痛い痛いって!」

 なんとかゴーダンのアイアンクローから解放された僕は、涙目になりながら、ちょっと睨んでやった。


 「で、今日のは僕、お仕事だったの?」

 せっかくママとお出かけってご機嫌だったのに、まさかのお出かけ先はレッデゼッサ商会の関係だなんて・・・・

 「いや、一応は、ミミの買い物がメインだったんだがな。」

 僕は、その答えにジト目になる。

 「だから、本当だって。例のリュックみたいなのを作るのに、素材の吟味をしたいって言ってたからな。特殊な布なら、あそこが一番品揃えはいいんだ。」

 確かにものすごい量と種類があったけど・・・

 「あ、言っとくが、アレと同じ機能を付けるのは、多くてパーティメンバーまでにしておけ。アレは広めるもんじゃねぇ。」

 「分かってるよ。だって、中に入れたら全部僕が取り出せるんだよ?他の人になんて渡せるわけないよ。大体管理をするのは宙さんだし、知らない人が入れちゃったら、ポイされそう。」

 「ならいいが。」

  「どっちにしても、今はドクもカイザーもゲンヘの加工に夢中だし、結構時間かかるかもよ。」

 「まぁ、急ぐことじゃないさ。だが、おまえ、そのポシェットがあればリュックがなくても大丈夫なんだよな?なら、俺がリュック持ってくぞ。」

 「え?でも取り出せないし、意味ないよね?」

 「おまえさん、リュックとポシェットで行き来できるんだろ?ダーが来れば取り出しも出来る。」

 「・・・・ひょっとして、トレネーと王都、行き来しろ、と?」

 「ま、念のためだ、念のため。できるか?」

 「まぁ、そりゃあ・・・」

 「だとしたら、やっぱり量産を急がせるか・・・」

 「さっきと言ってること、違う・・・」

 「フン。まぁ、そのうち、だな。ところで、だ。ミランダから聞いたが、服屋でなんかあったんだって?」

 「あった、って言うか・・・あれだけの布が置かれたところって初めてだったからそれが異常なのかは分かんなかったけど、残存魔力にしては、なんて言うか・・・・意志がある魔力を感じたっていうか。見られてるって言うか。ちょっと魔力酔いっぽくなったんだ。」

 「ミランダやミミは?」

 「ちゃんと話してないけど、あんまり気にしてないみたいだった。」

 「そうか。分かった。俺からちょっと話しておくが・・・いや、そうだな。全員に周知だけはさせておくか。俺は明日トレネーに向かうが、この件はミランダに指示しておく。ちゃんと言うこと聞くんだぞ。」

 「いつだって僕は良い子だよ。」

 「フン、ならいいんだが。まぁしばらくは、学校優先でな。レッデゼッサのガキともめんなよ。」


 そう言い残して、どこかに向かったゴーダンだけど・・・


 はぁ。学校かぁ。


 気が重いなぁ。

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