第115話 ゆらゆらの、その後

 コンコン、コンコン・・・


 なぜかセスが協力してくれる、なんて話をしていると、部屋の扉がノックされたよ。


 僕らも、もうここで話すことはないだろう、ってことで、ウィンミンさんが「はい。」て返事しつつ、部屋を出ようと歩いて行ったんだ。


 「お話し中失礼します。その・・・ダー君と出会った場所にあった揺らぎ、ですが、消えたとの報告がありました。」

 「え?」

 あのユラユラが消えたの?

 「その・・・ダー君と関係がないか、と・・・」

 僕?関係、ないよね?

 土魔法打ち込んだだけだし・・・・

 「あ、その、時期的にも消えてもおかしくないですし、偶然、とは思います。が、もし何か知っているなら、そのダー君は、セスに迎え入れられるような方ですし・・・」

 報告に来たお兄さん、なんか、ちょっとしどろもどろです。ウィンミンさんに緊張してるのかなぁ?怖いもんね?

 「ん?ダーちゃん?何か失礼なこと思ってない?」

 「へ?そんなわけないじゃない。本当に消えるんだ、ってビックリしてただけだよ?」


 ハハハ、ウィンミンさんってば、心読んでないよね?さっき念話合わせたから、読みやすくなってるのかも。気をつけよっと。

 「それならいいんですけど?あ、ご報告ありがとうね。それで、現場の確認して、この集落は撤収、かしら?」

 「はい。念のため周囲の確認が出来ましたら、長老会に報告を上げ、集落は撤収します。」

 「そう。じゃあ私たちも現場へ同行します。いいわね。」

 「その、ダー君も、ですか?」

 「ええ。責任は私が持ちます。これはセスの総意だと思って良いわ。」

 「分かりました。準備ができしだい、間もなく向かいます。」




 ということで・・・・


 約10分後くらいかなぁ。この世界ではそんな風に時間計ったりしないけど、体感的にはそのぐらい。それで、僕たちは10人以上のこの集落の人達と一緒に、現場へと舞い戻っていきました。もちろんグレンも一緒です。


 現場に行くと、みなさん慣れたように散会しちゃって、まさにユラユラしてたところにいるのは数名になっちゃったよ。


 『きえたよ~』

 『食べられちゃった』

 『もうあっちの匂い、しないよ』


 いつの間にかいなくなっていた花の妖精たちが戻ってて、僕に報告してくれたよ。

 ウィンミンさんが目を細めているけど、たぶん光が僕に纏わり付いているように見えてる、んだろう。


 『えっと、食べられたって?』

 と、僕は、ちょっと引っかかったことを聞いてみたよ。


 『そうだよ~。大きなかたまり。』

 『見えないかたまり。』

 『強いのが歩くと全部食べちゃう。』

 『前もいた。』

 『私も見た。』

 『ゆっくりで。』

 『はやくて。』

 『大きくて。』

 『小さくて。』

 『何にもない。』

 『何にもない。』

 『あるけどない。』


 口々に言う妖精達。

 それと同時になんとなくのイメージを伝えてくる。


 なんていうか、ゆらゆらをさらに濃くしたような感じの・・・エネルギーのかたまりみたいなもの?

 食べる、というより、通り過ぎたって感じ?

 それが通ったあとにはゆらゆらがなくなっていたって感じ?

 僕にはそれがでっかい透明なでんでん虫みたいに見えちゃった。

 でも、どこから来てどこへ行った?


 『わかんない。』

 『気がついたら、そこにいて。』

 『気がついたら、どこにもいない。』

 『それはあって、それはないから。』

 『ないものはあるけどない。』


 うーん、分かんないや。


 ただ、それは、突如現れてゆっくりと這いずって、気がついたら消えていた、そんな感じらしい。

 考えても分からなくて、僕とグレンは顔を見合わせた。


 そんな様子を見ていたのだろう、しばらくして、ウィンミンさんがやってきたよ。


 「何か、分かりましたか?」

 「わかった、というか、わからない、というか・・・」

 「ひょっとして、妖精たちが見てたのかしら?」

 「えっと、ウィンミンさんは妖精が見えたりしますか?」

 「どうなんでしょ。今、ダーちゃんの周りに飛んでいる揺らぎ、のようなのなら見えますが、なんていうか、形は分かりません。湯気、のような感じかしら?」

 「えっと、もう少し見えたいですか?」

 「そうね・・・いえ、今はやめておきましょう。近いうちに安全な場所で見てみたいわ。」

 「はぁ。」

 「それで?」

 「あ、えっと・・・とりあえず彼らが見た、といえば見た、らしいです。その・・・消えるところを。」


 「なんだって!それは本当かい?」


 唐突に後方から声がかかってびっくりしたよ。

 調査に来ていた人がどうやら僕の言葉を拾ったらしい。


 「あ、でも、見たっていうか、透明の力のかたまり、みたいなものらしくて・・・」

 「待ちなさい、ダーちゃん。それはここで教えてもらえる内容なの?セスは精霊を怒らせたくないの。もし精霊がそれを人に伝えたくないなら言わなくていいのよ。」

 「あー、多分、大丈夫だと・・・」

 「本当に?」

 「うん。」


 妖精は別に隠してるわけじゃないと思う。彼らだって消えるところは初めて見たみたいでちょっと興奮してるし、その興奮を共有したいっていうのが、バンバン心に入って来るんだ。

 この情報を得たセスが、妖精とか精霊に危害を加える、なんて類いでもないし、全然大丈夫、だよね?


 「セスに情報共有してもらってもいいと思います。えっと、僕は彼らのイメージで見ただけなんだけど、なんか、透明で、でんでん虫のでっかいのが這った感じ、なんだ。たぶんエネルギー、えっと、力? のかたまりみたいで、知らない間に現れて、それが通り過ぎたらゆらゆらはなくなってたって。消えたのも知らないうち、だったみたい。」

 「えっと、でんでん虫?」

 「あ、そっか、こっちで見たことないな。なんだろう。太くて高さもある蛇とか?あ、馬車。幌馬車から車輪とった感じだ。サイズもそんなかんじ。」


 話している間ににいつの間にか大勢集まってきていたんだけど、僕の今の話になんかざわついたよ。

 馬車、とか、妖精の馬車、とか、そんな単語が聞こえてくる。


 「ダー君、それは、その・・・妖精が言ったのかい?」

 「まぁ、そう。言葉じゃないけど。」

 「だったら、その馬車ってのは妖精とは関係ないのかな?」

 「え?妖精と?」

 そう問うみんなの顔は真剣だ。

 でも関係ないだろう。

 だって、妖精達も初めて見たみたいだし。

 僕がそう言うと、ちょっとしたため息が現れた。

 疑問に思っていると、ウィンミンさんが代表で答えてくれたよ。


 「この空間が消失するときに、たまに透明な馬車が通った、という報告があるんです。現場では、馬車、とか、妖精の馬車、と言われていて、妖精や精霊がゆらぎを消してくれているのでは、と、言われてたんですが・・・」


 ああ、それで、妖精といっしょにいた僕が、ゆらゆらを消したのでは?なんて思われたんだね。

 でも、多分それはハズレです。

 けど、そっか。

 あのでんでん虫、もとい幌馬車もどきが、消失には関わっていそうだね。

 けど、そこまで。

 ゆらゆらはなくなっちゃったし、どうやら、僕たちに幌馬車もどきのことを報告できて、妖精達も満足し、興味をなくしたみたいです。

 なんか、帰ろうとしてるし、僕、ここからじゃ案内なしに華さんのところまでたどり着ける自信ないなぁ。


 てことで。


 「あの・・・僕は妖精に案内して貰って精霊のところにいかなきゃ、です。樹海の中だけど、グレンも妖精もいるから大丈夫。ここでわかれていいですか?」


 一瞬迷ったようなウィンミンさんだったけど、ウィンミンさんの魔力が宿った魔石を数個渡され、そして、僕の力が宿った魔石を同数渡し、帰ったら連絡を入れる約束をして、僕は、セスのみんなと別れたんだ。

 


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